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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼は迷う

「会っていけばいいのよ」

 サマンサ・フロイラ夫人がそう言い、ソー事務所長もそれを進めた。

「ジャンジャックは気のいい奴だが、どうにも早とちりというかなんというか」

 会って話せば落ち着くし、お互いに安心できていいだろうと言うのだ。

 昼もそれがいいかもと考えた。

 ここに来る前にジャンジャックの事を考えなかったわけではない。夜には遠いから行かないと答えたが、ジャンジャックの町はそれなりに大きい。お世話になった人たちに会いたい気もした。それでもやはり遠いし、そこまで行くには費用もかかる。このところ出ていくものも多かったのでそれには心許ない気がして昼は諦めた。

 それでもジャンジャックが来てくれるというなら、情報も状況も知ることができるかもしれない。ここで待っていればいいというなら、それはそれで楽である。夜には帰りは船の時刻が合わないから、途中から馬車で帰ると言ってある。それを村の船着き場までの便に代えればいいだけの話だ。1日帰るのが遅くなるが、心配するほどではないだろう。

……そんなことないわね、心配するわ、きっと。

 砂漠の向う側だけでなく、こちら側の国々でも情勢が不安定になっている。朝が無事でいるかわからないところに加え、アシが予備役として軍隊に所属してしまった。このうえ情報を聞きにきただけの昼の帰りが遅くなれば、夜は心配するに違いない。

 ソー事務所長が多方面に情報を聞いてくれているのを待っているだけで、昼は気持ちは落ち着かなくなり、村にいる夜のことまで心配になってくる。昼も夜もいますぐなにか危険なことがあるというわけではないはずなのに、どうしてこうもざわざわとした気持ちになるのだろう。

 お茶をもう1杯と夫人が腰を上げた時、昼はやっぱり帰りますと口を開きかけた。だがその時、テレグラムの返事がきたと、ソー事務所長がふたりのいる部屋に入ってきた。顔には苦笑が浮かんでいる。

「夕方にはこっちに来られるってよ」

「え、ずいぶん早いんじゃない?」

「なんだか使えるものは全部使ってくるとかなんとか、ちょっと内容がよくわからねぇんだけどよ。まあ、早く来るって言ってんだから、ちょっと待っててくれねぇかな。なに、遅くても明日の夕方までには着くんじゃねぇかな」

「あら、それはそもそも着くのは明日ってことなのではないの? 今日の夕方って返事なの?」

「あ、あれ、そうだな。いや今日ってんだったと思うんだが。そりゃ夕方っていや、今日ってこたねぇか」

「ちょっと、しっかりしてちょうだい。全然違うでしょう」

「お、もっかい確認してくるわ」

 昼が口を挟む暇もなく頭の上で会話が飛び交い、ソー事務所長は入ってきたと同じ勢いで出て行ってしまった。

「ほんとうに、誰が慌てものなんだか。あら、私もお茶を入れるのを忘れてたわ。すぐ入れなおすわね。まぁ、どちらにしてもうちはいつまでもいてくれていいから、ゆっくりしていってちょうだい。そうそう、冬植えの苗があるわ。黄色と薄いピンクの2種類あるんだけど」

 夫人は小さな竈とテーブルを行き来しながら話をどんどん進めていく。話に目が回って頭をくらくらさせながら、昼はやっと「あの」と口を挟んだ。



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