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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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夜は不意をつかれる

「……誰だ……」

 驚きで口を開けないまま、夜はそれを聞きたいのはこっちだと思った。

 男は息を荒げたまま背後を振り返り、次に夜と少年を見て、それから周囲を見回した。

「誰でもいい、ここはどこだ、どこへ行けば」

 その時、男が来た方角から爆音が聞こえた。

「え」

「な、な、な」

「ちっ」

 夜、少年、男が同時に声を出した。村で爆音を聞くことなど無い。大きな音は普請工事や、何かの事故の音ぐらいだがそんな音も日常では無い。

「おい、とにかく、あ、そのラバを寄こせっ」

 唖然をして何も言えない夜を押しのけようと男が動き、それに気がついた少年がひと足早く体を前に出した。

「あっ」

「止めろっ」

「どけっ」

 また3人の声が重なった時、夜の体がぐらりと傾いだ。そのまま男と、守ろうと駆け寄ってきた少年に押されるように林と道に重なったところの草藪へと倒れ込んだ。

……あ、ここは確か。崖が。

 それほど高くはないが崖状になっていたところが草の陰に、と考えた時には体は落ちていた。



「夜さんっ、大丈夫ですかっ」

 崖は思っていたよりも高さがあった。と言っても立ち上がれば顔が出るほどだからやはりそれほどでもない。

 だがしかし。

「だ、大丈夫」

 起き上がった時、体の下になった右足を挫いたのか痛みがはしり、立ち上がることができずに蹲ってしまった。

「夜さんっ」

 少年は慌てたように飛び降りて夜の傍にひざまずいた。

「ごめんなさいっ、僕、僕、押してしまったから」

 涙ぐむ少年の声にかぶさるように、ラバの嘶きが聞こえた。どうやら男がラバを連れていってしまったようだ。

「大丈夫よ。本当に大丈夫。……ちょっと捻ったかもしれないけど」

「えっ、どうしよう。でも、ラバが、ラバ、先生、先生にっ」

 先生から預かっているラバを連れていかれてしまったことがより少年の混乱に拍車をかけている。夜は少年に手を伸ばして、震える腕を軽く叩いた。

「大丈夫よ。先生はあなたに怪我が無かったことを喜ぶわ」

 それよりこの低い崖を今の夜は登れる気がしない。

「悪いけれど、村へ行って誰かを呼んで来てくれないかしら。ちょっと登るのは難しそうだから」

「でもまた誰か来たら」

 夜は「そうねぇ」と言ってから周囲を見回した。

 崖は南にいくと細くなって先が無い。東側も崖状になっていて林に繋がっている。ちょっとした谷間になっているところに落ちたのだ。こういった場所は村のところどころにある。

……ここも境目だとしたら、他のところも?

 だが今はそれよりも村へ帰ることが最優先だし、あの爆音も気になる。そろそろ昼も帰ってくるころだ。

……昼、大丈夫かしら。馬車は反対方向だけど。

 男がどちらに行ったかまではわからない。そして今はいつもと違う音はしない。風、鳥、動くのは休みはじめの蝶。そのうち日が暮れてしまうだろう。

「たぶん、大丈夫。とにかく、誰かを連れてきてくれる?」

 その時、夜は姉の声を聞いた。



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