昼の決意
「反対」
夜は開口一番そう言った。だが、昼は珍しく譲らなかった。
「私も会っておきたいから」
「何日もかかるでしょう」
「数日。行く場所はひとつだけだし」
夜はむっと口を尖らせ、目を細めるという滅多にしない顔をした。なにか言いたいけれど、どうしようかと束の間悩む時、朝がよくする顔だ。三つ子はお互いをあまり似ていないと思っているのだが、そんな顔はそっくりで、昼は朝を見ているかのように感じてどきりとした。
「……でも危ない」
「全然危なくない。少なくとも」
朝よりは。アシくんよりは。
飲み込んだ言葉を察して、夜は泣きそうに顔を歪めた。その顔は数えるほどしか見ていないし、そういう顔は朝にも、たぶん、昼にも似ていない。
「……早く戻ってね」
「うん。大丈夫」
「ジャンジャックのところはいいの?」
「遠いから行かない」
夜が苦笑したのを見て、やっと昼から、そして夜からも体の力が抜けた。
「わかった。いつ行くの?」
「明日」
夜は目を見開き、昼は肩をすくめた。
「……必要なものは?」
「もう用意してある」
昼が鼻息荒く差し出した、見慣れた鞄が膨らんでいるのを見て、夜は声を出して笑ってしまった。
「珍しい。準備万端じゃない」
「うん。自分でもそう思う」
うふふふと、互いに笑みがこぼれて、昼は自分が緊張と同じくらい、わくわくした気持ちを持っていることに気がついた。
「大丈夫。今度は私がお土産を買ってくるね」
「うん。楽しみにしてる」
早々に寝た方がいいとは思いながら、ふたりはそれこそ珍しく、テーブルでカップを握りしめたまま、かなり長く話をしていた。