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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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昼は気がついて

 夜はアシを駅まで送ってくると言っていたし、帰りは遅くなるから寺院で泊めていただくとも言っていた。

 昼は畑仕事を終えた後、念のため柵や門扉の壊れたところが無いことも見回ってから、戸締りもきっちりと確認した。

 そして食事も済ませてから、自分たちの財産、と言えなくもない金銭や貴石などをテーブルの上に置き、小さな手帳を取り出した。

 手帳は目録だ。金銭の管理をする方法は、両親が生きている頃に三つ子が学校出入りの商人に教えて貰ったやり方で、わかりいやすいと喜んだふたりを、昼はとてもよく覚えている。

――うん。合ってる。

 三つ子がそれぞれ持ち出した分、昼と夜が持って帰った分はすでに記入を終えている。今季は思っていたよりも豊作で手伝いの人の手間賃を引いても収入が多く、支出よりも上回って夜とふたりで驚いたほどだ。

「でも私はけっこう使ってしまったから」

 そう言った夜は、いつも3人でわけている分から少し余分に昼に渡してくれた。

「夜は自分の分を使ったんだからいいのに」

「まあ、そうなんだけど。今季は昼がやってくれたことが多いから。他の人への手間賃だと思えば一緒でしょう」

 夜は少しだけどねと言って昼に渡し、昼はじゃあ貰っておくねと応えて受け取った。

 昼はその時ありがとうと言って受け取った分をきっちり数えると、昼用の皮袋から別の袋に入れ替えた。

――必要になるかもしれないから。

 その袋は三つ子で共有している家計用の皮袋の他にある2つのうちのひとつで、非常用と名札をつけている方だ。もうひとつは貯蓄用でほとんどを貴石に代えてある。畑を広げる時、家の修繕をする時はそこから使うようにと決めていて、ほぼ3人で稼いだものだ。

――あれ?

 昼は目録を捲ってから、「ああ、そうか」と声が出て、なんとなく周囲を見回してしまった。

 非常用とつけている方には、両親が持っていた珍しい貴石や思いのほかに収入があった時の金貨や銀貨を入れてある。

「非常だと思った時に使おうね」

 朝は生真面目な顔で名札をつけた。

「非常って言われても」

 昼はその中に、自分の皮袋から1枚の銀貨を追加しながら首を傾げた。

「わからないけど、今では無いわね」

 夜は金貨を1枚入れながら笑った。

 あの時、朝は大事にしていた母親の形見の小さな貴石を入れていたはずだ。そのはずだと思っていたのが無いから目録を見ると、朝の字で非常用持ち出しと書き加えてある。日付があの日だ。

――みんながここを出て行った日。

 昼はしばらく考えてから、今入れたばかりの銀貨を取り出し、書いたばかりの目録に注釈を入れた。

 非常用持ち出し。連絡用。

――明日。

 昼は皮袋を三つ子しかしらない場所へ隠し終えると、ひとり頷いた。

――夜が戻ったら村へ行こう。

 自分ができることを、やってみようと決めた。家や畑の手入れ以外にもできること。できるはずのこと。




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