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豆畑の外は世界の果て  作者: 大石安藤
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朝は決意を口にする

「私は反対」

 フィンダサーナは寺院に着いた日、朝と再会して話をした後からずっとそう言い続けている。

「いまは早急に動くべきじゃないわ。なにが起こっているのか、まだ誰もきちんとした状況を掴めていないじゃないの」

 1度息を呑んでから、フィンダサーナはまた続ける。

「ハバラは動いている方が落ち着くのかもしれないけれど、朝ちゃんはそんなことないでしょう。また倒れてしまったら、そこに寺院が無かったら」

 また息を呑む。

 朝は「大丈夫です」とフィンダサーナをなだめる。お茶を入れ、フォン師にいただいた果物や、副院長の用意してくれたお菓子を並べる。そのためか、フィンダサーナが寺院について数日で、ふっくら加減がやや戻ってきているようだ。

「ありがとう」

 ぬるめに入れたお茶を飲み、皿の上の焼き菓子をひと口頬張ると、フィンダサーナの顔の輪郭がほころんだ。

「すぐにとは言っていないが、ずっとここにいるわけにはいかない。どこの信者でもないんだから」

 せっかくほころんだ顔をこわばらせるように、ハバラが口を挟む。

「信者でなくても、あなたは最後まで守る責任があるのだから」

 またも固くなっていくフィンダサーナに、慌てて朝が新しいお茶を入れたポットを差し出す。

「こちらはとても面白い香りです。飲んでみませんか」

「え、あ、ありがとう」

 目をぱちくりと動かしたフィンダサーナがカップに残っていたお茶を飲み干したタイミングで、朝は新しいカップを手渡す。

――贅沢だわ。

 三つ子の家には余分な食器はほとんどない。客用の品物がいくつかあるが、来客は少ないので、各自が普段使うものだけで十分まかなえる。新しい香りのお茶を飲むとしたら、洗い桶にあるきれいな水でカップを濯ぎ、また使うだろう。

――違うか。水が使いたい放題だっただけ、贅沢だったんだ。

 カップを洗わずに新しいものを使うより、いつでも豊富な水が手に入る方がよほど贅沢だと、朝はここまでの道のりで学んでいた。両方あればより贅沢なのかもしれない、とはあまり考えない。

「私、まだフォン師に学ぶことがあるので、出立はできないと思うんですけど」

 ハバラが口を挟む前に朝は続ける。

「でもここにいつまでもいるわけにはいかないこともわかっています。それならそのタイミングは、ハバラに決めて貰えればありがたいです。その」

 そこで1拍間をおいた。朝は最近、やっと自分の中の考えがまとまってきた。

「いずれにしろ、私は私の村に帰ろうと思っているんです」

 ハバラは、あ、の形に口を開いたまま朝を見つめている。

「でもその前に、行きたいところがあります」

 ハバラの開いた口はふさがらない。



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