5.キール・ハート〜sideキール〜
私は、ダイア王国にあるハート公爵家の嫡男であるキール・ハート。
しかし、自分は前世の記憶を持ったままこの世界に転生したみたいだ。
私の前世は【たかし】という。
日本という国で暴走族のチームである虎黒龍連の総長を中学生の頃からしていた。
虎のたかしと恐れられる程強かった。
しかし、その強さを横暴には使わなかった。
たかしのモットーは弱きを助け悪を裁くだったので悪さをする者には体裁を加えていた。
たかしには子供の頃から妹の様に可愛がっている一人の女の子が居たのだ。
たかしの家の隣の家の女の子【かおり】だ。
かおりは両親が共働きで帰りが遅くいつも一人で公園で遊んでいたところをたかしが声をかけたのだ。
たかしの弟のあつしとかおりは同い年でたかしの三つ年下であったがよく三人で遊んでいた。
かおりは女の子だが男の子に負けないほどの腕っぷしが強い子でたかしにも本当の兄の様に懐いていた。
かおりとあつしは自分達もたかしと一緒に悪い奴らを倒すと意気込んでいた。
そんな風に言ってくれる二人がたかしは可愛かった。
かおりとあつしを暴走族の世界に足を入れさすのは躊躇いがない訳ではなかった。
危ない目に遭うこともあるからだ。
だが、その時がきたら本人達の意思に任せようと思っていた。
だが、その時が来る前にたかしはたちの悪いチンピラにリンチに遭い命を落としてしまったのだ。
チンピラに絡まれている者を助けた時の事だった。
たかしは暗闇の中にいた。
自分は死んだと思っていた時、眩しい程の光がたかしを照らしたのだった。
眩しさがおさまるのと同時に目を開いた…
目を開けるも目の前の視界が少しぼやけていた。
ここはどこだと思い口を開いて喋ろうと声を出した。
しかし出たのは声ではなく泣き声だった。
全く状況が掴めないたかしは混乱していたのだった…
しかし、そんな混乱した状況も少し時が経ったときに把握したのであった。
何とたかしは全く日本とは違う異世界の公爵家の嫡男キールとして生まれ変わっていたのだ。
ただ、生まれ変わるだけではなく前世のたかしの記憶を持ったままの転生だったのだ。
キールは前世の記憶を持ったまま転生した為、現実をすぐに受け入れ始めた。
たかしはリンチに遭い命を落としたが公爵家の嫡男キールとして生まれ変わったのだと…
現実を受け入れたキールはすくすくと成長していった。
キールには幼い頃からよく皇太子のロンの遊び相手を一緒にしていたスペード侯爵家のローランドと友達関係であった。
ロンとも身分差はあれどよき友達となっていた。
ローランドに妹が生まれたと聞きキールはローランドの妹を見るために侯爵邸へ訪れた。
そこに居たのはとても綺麗な金髪にエメラルドグリーンの瞳をした美しい女の子・ブリアであった。
キールもローランド兄弟と同様にブリアをとても可愛がった。
ブリアも成長するにつれてキールにもよく懐いていた。
キールは前世でも妹の様に可愛がっていたかおりを思い出していた。
(かおりもこんな風にずっと俺の後ろをあつしと一緒についてきていたな…かおりもあつしも元気にしてんのかな…)
キールはそんな事を考えていた。
そして、気づけばキールに生まれ変わって十三年の月日が流れていた…
いつもの様にキールはブリアが好きなお菓子や本を持ってスペード侯爵邸へ訪れた日の事であった。
自分の持ってきたお菓子をとても美味しそうに食べるブリアの姿がかおりのようだと懐かしく思い思わずブリアの頬を優しく撫でたのだ…
するとブリアは驚いた顔でキールを見たのだ。
流石に子供とらいえレディの頬に急に触れるのはまずかったかなと思ってたいたキールにブリアはボソリと呟いた…
「たか兄…」と……
小さな声だったのでローランド達には聞こえてなかった様だがキールにはしっかりと聞こえたのだ。
たかしの事をたか兄と呼ぶのはかおり一人だった。
キールは理由をつけてブリアを馬車に乗せた。
そして、ブリアにかおりなのかと尋ねた。
すると、ブリアは涙を流しながら自分はかおりだと告白したのであった。
ブリアの話を聞くとどうやらかおりも日本で命を落としたあとブリアとして転生した様だった。
そして、キール同様前世の記憶を持ったままだった。
妹の様に可愛がっていたかおりが自分同様に前世の記憶を持ったまま転生してきたことにはとても驚いだが同時に少しホッとした気持ちにもなったのだ。
前世では虎のたかしと呼ばれていた程のヤンキーだった自分が異世界の身分高めの貴族の息子に転生したので堅苦しい喋り方や作法などを覚えるのがとても大変だった。
だが、この世界で生きていくにはそうせざるをえないと腹をくくっていたのだ。
しかし、ブリアがかおりだと知った今二人の時だけでも前世の様に気楽に話せると思うと心が軽くなったのであった。
そんな私は前世の時のようにブリアと関係を築けると思うと心なしかワクワクしているのである。