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「国王陛下にも報告される覚悟で僕を止めているんだな? 僕へのこの暴力がまかり通ると思っているのだな?」


 本当は父上は『他家には極力関知してはいけない』と常々言う人だ。公爵家だからこそその発言があまりにも効力を持ちすぎるゆえのお考えだ。きっと僕がお願いしてもマクナイト伯爵様に一言いう程度であろう。


 だがハッタリは効いた。


 護衛が手を離し執事が僕を立たせてホコリを払う。


「クララを監禁しているのか?」


 僕は先程よりさらに低い声でできるだけ凄みのあるように言った。


「ち、違います……」


 執事らしき者が下を向いたまま首をぷるぷると振っている。


 家を守ることが執事の務めだ。伯爵家の執事であるならば僕のこの横暴な行いがまかり通らないこともある。体を張って止める執事もいるだろう。それは『伯爵家を守る』という大義で時には必要なものだ。


 公爵家の者を止められない。伯爵家を守る。この二つの矛盾を上手く調整することが優秀な執事の腕である。


 この者は僕を止めたのに僕の一言で解放した。その場限りの動きである。


 つまり執事教育をまともに受けていない使用人だいうことだろう。これならば説伏せられるかもしれない。


「ならこの鎖と鍵は何だ? マクナイト伯爵様はご存知なのか?」


 更に上から口調で脅してみる。


「い、いえ……。それは…… そのぉ……」


 しどろもどろになる執事のような者は子供の僕の脅しに震えている。

 僕はその者の顔をじっくりと見たがその顔に使用人としても見覚えがなかった。


「僕は何度もここに来ているが君のこと知らないのだけど? 今の執事は君なのかい? 前の執事はどうしたの?」


 執事のような者は肩を揺らして完全に動揺していた。


『これも伯爵様に後で確認しなければならないな。

だが、それより今はクララの救出だ』


 僕は打って変わって優しく子供らしく声を出した。


「とにかく。鍵をすぐに開けて」


 執事のような者は顔をあげてポケットを探り出す。


「やめなさいっ!」


 マクナイト伯爵夫人は息を切らせて走ってくると執事のような者を突き飛ばした。そして僕の襟首を掴みまくしたてる。


「あんたはもう帰ったはずでしょうっ! なぜここにいるのっ!」


 まさに鬼のような形相で先日美しいカーテシーをした女性だとは思えないし、淑女として男を突き飛ばすことも男の襟首を掴むことも怒鳴り散らしていることもありえないことだ。


「先程、言ったでしょう。僕はマクナイト伯爵様の言いつけでクララに会いに来たんだよ。クララに会う以外の目的はないんだ」


 鬼の形相でまくしたてる相手に僕は逆に冷静沈着な物言いをした。こういう場合冷静沈着に見える方が断然に有利となることは公爵家の勉強で学んでいる。


 マクナイト伯爵夫人は何も言えずに僕の襟首を掴んだまま手を震わせ目を見開いて眉を寄せている。

 美人は見る影もない。


 そこに年若いメイドが飛び出してきてその場で土下座をした。


「お嬢様の部屋の鍵を開けてください。お願いします」


 僕はマクナイト伯爵夫人を振り払いマクナイト伯爵夫人にひれ伏すメイドを立たせる。マクナイト伯爵夫人は床に倒れてその床を憎々しげに睨んでいた。


 僕は背筋を伸ばしはっきりとした口調で執事のような者に命令する。


「王弟ギャレット公爵家が次男ボブバージル・ギャレットが命じる。すぐに鍵を開けよっ!」


 執事のような者はその場で尻もちをつき顔を真っ青にして震えていた。マクナイト伯爵夫人も何も言ってこない。


 こんなの本当は家名を出すことはよくないけれどクララを助けたいのだから後で怒られたってかまわない。


 先程僕を抑えつけていた護衛の一人が執事のような者のポケットを探り鍵を奪いクララの部屋にかけられた鎖の鍵を開けた。鎖をほどきドアを開けて頭をさげる。

 僕に『どうぞ』と言いたいのだろう。変わり身の早さに呆れるけどマクナイト伯爵夫人に忠誠心がないならこんなものなのだろう。


『僕の家なら絶対に許されないな。間違いなく首だ』


 僕は軽蔑の眼差しにならないように顔を引き締める。


「僕と彼女以外の入室は許さない」


 そう命じてクララを心配したメイドと二人でクララの部屋に入る。

 護衛はドアをゆっくりと閉めた。

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