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クララのお見舞いに行くという提案をした僕にダリアナはびっくりした表情をした。
「お義姉様はボブバージル様に心配をかけたくないからとわたくしを寄越したのですわ。ボブバージル様が我が家に行かれてしまったらお義姉様のお気持ちを無駄になさることになりますわ」
『心配なのはクララのことか? 自分がここにいられなくなることか?』
僕はダリアナ嬢の言葉を素直にとることはできない。
どちらにせよダリアナ嬢と二人なんてとんでもないことだ。そんなことをすればどんな話にされて噂を撒かれるかわかったものではない。
「そうか……。そこまでいうなら訪問は諦めよう。伝言ありがとう。お帰りいただいて結構だよ」
僕ははっきり拒絶したはずなのにダリアナ嬢は僕の腕にからまってくる。
「もう! 真面目さんねっ!
ここにはお義姉様はいないのよ。あなたの気持ちを隠さなくていいの」
ダリアナ嬢が卑猥さを感じさせる上目遣いで僕を見てきた。
『僕が僕の気持ちを隠すだって?』
こんなにはっきり拒絶しているのにわからない相手に何をどう隠すというのだ。
『僕が会いたいのはクララだ。ダリアナ嬢とは一刻も早く離れたい』
それが僕の気持ちなのに……
「初めて会ったあの時にわたくしを見てあまりの美しさに驚かれたのでしょう?
あの時のボブ様ったらとても可愛らしかったわぁ。すぐにわたくしに一目惚れしたのだとわかりましたもの。
わたくしも一目見たときからボブ様のことをステキだなって思いましたのよ。
わたくしたちは惹かれ合っているのです」
『誰が誰に一目惚れだ?』
僕は一目惚れなどするタイプではない。相手を観察し相手の性格などに少しでも興味を持たないと付き合いができないタイプだ。
ダリアナ嬢に対しては興味どころか嫌悪しかないのだから付き合いなどできるわけがない。
それなのに……
『わたくしたちは、惹かれ合っているのです』
『その天使をどんどん好きになっていく』
僕の頭はグラグラする。これは夢? 現実? どちらの天使が言ってる言葉だ? グラグラ、グラグラ、倒れてしまいそうだ。
「やっとお義姉様の目のないところで二人になれたのです。ボブ様のお部屋へ行きたいわぁ。お部屋からはメイドにも出ていっていただきましょうね。
本当の二人きりになるのよ」
『ボブ様のお部屋へ行きたいわ』
夢の中でもそう言っていたがそんな勝手はゆるさない。
天使は僕の手を握りしめてきた。僕は天使を思いっきり振り払い側にいたメイドに抱きつくとメイドは僕の顔色の悪さに悲鳴をあげて執事を呼び僕は部屋に運ばれた。
ダリアナは部屋までは来なかったから執事が僕の意思をわかってくれたのだろう。
夕方には母上が僕の様子を見に来てくれた。
「公爵家からの誘いを断るのに家令が来なかったのですってね。一応抗議のお手紙はしておいたわ。
それにしても姉のいぬ間に男の部屋へ入ろうだなんて礼儀も淑女もあったものじゃないわね。クララちゃんにとってよいことには思えないわ」
母上に僕の心配事が伝わったようで少しホッとした。
でも夢の話は家族にもできない。
だって…………頭がおかしいって思われてしまうから…。
それからというもの何度手紙を出してもクララから返事が来なかった。
「公爵家の封蝋を無視できるなんてどういう神経してらっしゃるのかしら?」
母上は腕を前で組んで怒っているが意味がわからない。
「どういうこと?」
「クララちゃんにお手紙が届いていないんじゃないかって思うのよ」
僕はあまりのことにあ然とした。
『伯爵家が公爵家の手紙をなかったことにしている?
普通なら……できない。そう、普通なら……
ダリアナ嬢の母親が普通の人か……?』
僕はとても不安になってもうしばらく待っても返事がなかったらマクナイト伯爵邸へ行ってみようと思っていた。
〰️ 〰️ 〰️
僕はまた夢を見た。
『お義姉様。ボブ様はわたくしと惹かれ合っているのです。そろそろ諦めてくださいませ』
『お義姉様は公爵家にはなれないでしょう』
『ボブ様にはお義姉様は全く相応しくないの。相応しいのはわたくしのような美しい女なのよ』
『ジルはダリアナが好きなのでしょう? わたくしはダリアナには敵わないもの』
クララが泣いている。
天使を抱きしめる僕。
僕たちが見下ろすのは泣き濡れているクララ。
僕はクララを助けたいのに…………僕の体は動かない。
誰かっ! 誰か僕を起こしてくれ!
僕は……僕はクララを……
『クラリッサっ! 君はダリアナを虐めているそうだなっ! 婚約は破棄だ!』
僕の怒鳴り声で僕は目を覚ました。
僕はそんなこと言いたくないっ!
まだ真っ暗な時間に僕は一人ベッドの中で涙が止まらなくなった。
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