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 それからというもの伯爵邸へ行くと必ずクララだけではなくダリアナ嬢が一緒であった。テーブルにははじめからカップが三つ用意されている。

 さらにクララと二人になれることはまずない。クララはマクナイト伯爵夫人に呼ばれることが多く僕はダリアナ嬢と二人にされてばかりだった。


 時には前触れを出して来訪を許可されたにもかかわらずクララがいないときもあった。


「お義姉様は急用らしくてお友達のお邸へ行かれてしまいましたの。

酷いでしょう?

ボブバージル様。わたくしのお勉強を見てくださいませ」


 強引に腕を引かれ応接室に引き込まれる。メイドはわざと席を外しダリアナ嬢と二人きりにさせられる。僕はわざと席を立ち応接室の両開きのドアを全開にする。


『伯爵家の執事もメイドも常識はないのか?』


 僕の『拒否したい』という気持ちはともかく若い男女を二人きりにしようとする行動を訝しむ。これも両親を通して確認しなくてはならないだろう。そういえば最近昔から見知った顔が少なくなっている。


 予想はできていたもののダリアナ嬢はやはり勉強などせずずっとおしゃべりをしているだけだ。


…………うんざりする。


 そんなことが数回続くと僕の足はマクナイト伯爵邸から遠のいた。


 目敏い母上は僕と向かい合ってくれた。


「最近、マクナイト伯爵様のお邸へ行かないのね?」


 僕はチャンスとばかりにマクナイト伯爵邸での出来事を話した。


「なるほどね。でも、あの方―僕の父上―は他家に口出しすることは嫌がるのよねぇ」


「……わかるよ。でも……そうなると僕は何も言えないの?」


 僕がちょっと拗ねた言い方をしたら母上はそんな僕を見てくすりと笑う。


「それはクララちゃんに会えないことへのスネ? それともクララちゃんの勇者様になれないことへのスネ? ふふふ」


 嬉しそうにしている母上を僕はちょっと睨んでプイッと横を向いた。


「うふふ。冗談よ。

そうねぇ……」


 母上は顎の下に扇を当てて暫く考えるとポンと手の上に扇を乗せた。


「そうだわっ! クララちゃんにお手紙を書きなさい」


「クララに読んでもらえるかな? 代わりにダリアナ嬢が読んだりしない?」


「そうさせないためのいい方法があるのよ。ふふふ」


「方法?」


「そうよ。公爵家の封蝋を使うのよ」


 母上はさも自信ありげに鼻をツンと上にしながらそう提案してきた。


「! そんなことして父上に怒られないかな?」


「何を言うの? バージルの婚約者へ正式なお誘いのお手紙です。公爵家の封蝋を使って当然でしょう」


「プッ!」


 母上はソファーに座ったままで両手を腰にあてて胸を張った。『名案でしょう!』と言わんばかりの母上に思わず笑ってしまった。


「あら? 少しはわたくしを信じる気持ちになったみたいね。封蝋はわたくしか執事に頼みなさい。ただし公爵家として恥ずかしくないお手紙を書くのよ。下品なお手紙は止めてね。うふふ」


「はい! 母上。ありがとう!」 


 僕は早速クララに手紙を書いた。

 『僕の家で待ってるよ』と。

 『二人でゆっくり話をしよう』と。


 数日後クララから『明日、訪問する』という手紙が来た。間違いなくクララの字だった。


〰️ 〰️ 〰️


 またあの夢だ……。


 天使は一人で僕のお家へ来たようだ。


『あなたの気持ちを隠さなくていいの』

『わたくしたちは、惹かれ合っているのです』

『ボブ様のお部屋へ行きたいわ』


 僕の腕にすがりつく天使。

 僕はそれを振り解けない。


 誰かっ! 誰か僕を起こしてくれ! こんな夢なんか見ていたくないっ!



 起きた時には汗をかき忘れられない映像が頭に流れて頭痛がする。


 僕はふらふらしながらも急いで机へ向かい引き出しを開けると昨日の手紙を確認する。


 伯爵家の封蝋にクララの文字。

 今日、来てくれるという返事。

 クララも楽しみにしてくれていることがわかる言葉。


「大丈夫……。だって。だって。クララと約束したんだから……」


 僕は自分に言い聞かせた。


 そして僕は朝から執事と一緒に図書室の窓際のいつもの席に花を飾りクララと語る本を探す。母上は午後から出掛けてしまうらしくクララと会えないことを残念がっていた。


 それなのに…………


 約束の時間に来た伯爵家の馬車から降り立ったのはダリアナ嬢だった。僕は怒りより夢の映像の渦に飲まれてしまいそうで立っているのがやっとだった。


「こんにちは。ボブバージル様っ!

お義姉様は急に具合が悪くなってしまって来られなくなりましたの」


 ダリアナ嬢はさも自分がいることが当たり前のようにニコニコしながら言った。いつも以上に着飾った姿は姉の具合が悪いことを伝えるだけならあまりに仰々しい格好だ。


「それなら今からお見舞いに伺うことにするよ。まだ明るい時間だし大丈夫だよね?」


 僕はこの状態から離れるべく提案した。

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