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 拗ねたような顔をしたダリアナ嬢だが一度肩を上下させて切り替えたようだ。


「わたくしもお茶をご一緒してよろしいかしら?」


 さすがに初日でこれは拒否できない。


「どうぞ」


 僕はなんとなく夢のようになりたくなかった。

 わざと立ち上がりクララの隣の椅子を引いてダリアナ嬢をその席へ誘導した。ダリアナ嬢が座るのを確認すると僕は先程の椅子へ戻る。


 僕が見た夢ではクララとダリアナ嬢が僕を挟んで座っていてダリアナ嬢はことあるごとに僕に触ってきていた。夢の中でさえもとても気持ち悪かったのだから実際になどされたくはない。


 だからここではダリアナ嬢を誘導して僕とダリアナ嬢でクララを挟んで座る形にした。


 僕は心がけていつものように読んだ本の話や季節の話などをした。


 ダリアナ嬢が時々話しかけてくるが流行りのドレスの形やダリアナ嬢の友達が持っていたという扇の話だった。


 それらについて僕は全く興味はない。


 紳士としてはそれを表に出すことはマナーに反するのかもしれないが最初にダリアナ嬢を『馴れ馴れしく図々しくて淑女ではない』と感じてしまった僕は紳士的であるつもりは一切ない。


 クララがキョロキョロと何度も僕とダリアナ嬢を見比べている。話の合わなさに戸惑っているのだろう。僕が興味がない話だと表していることがクララには伝わってもダリアナ嬢には伝わらないようだ。


 なんとも複雑怪奇な時間が流れる。

 

 こうして不可思議なお茶会をしていたのだがしばらくするとマクナイト伯爵夫人がやってきた。


「はじめまして。ボブバージル様。ダリアナの母でございます」


 優雅にカーテシーをしたご夫人はとても美しくダリアナ嬢に少し似ていた。


 だがっ!


 『ダリアナの母』はおかしい。


 今はクララの母でもあるはずなのにきっとそんな気もないのだろう。


『クララは将来、僕と幸せになるのだから、今は我慢だ』


 僕は懸命に自分に言い聞かせる。でもこれは伯爵様には忠言申し上げなくてはならないと決心した。


『子供の僕が言うより、父上か母上に言ってもらおう』


 僕は両親に相談することに決めた。


 僕の考えを知る由もないマクナイト伯爵夫人が妖しく微笑む。


「クラリッサ。少しお話があるの。お部屋に来てもらえるかしら?」


「え?」


 クララは咄嗟に僕の顔を見た。


 『クララのお客』が来ているのに呼び出しとは失礼極まりない。どうやらそんな常識さえも知らないようだ。奥歯をギリリと噛む。


 常識を弁えているクララは席を外す無礼を気にしている。


「クララ。構わないよ。僕はそろそろ失礼しよう」


「いえ、お時間はかかりませんわ。

そうだわっ! ダリアナ。ボブバージル様のお相手をしっかりしてちょうだいな」


「わかりましたわ。お母様。

ボブバージル様。お庭へ参りましょう」


 僕の意見など聞かず二人で話を進めていくなんて本当に図々しい親子だ。


 しかしマクナイト伯爵夫人からの言葉だと理由なく断る訳にもいかないし変に断るとクララの立場も悪りそうだ。


「あ、ああ……。

クララ。待ってるよ。後で二人で話をしよう」


「ジル。……わかったわ。後でね」


 マクナイト伯爵夫人の後ろにクララがついていき温室を出て行った。


 ダリアナ嬢が僕の腕を取ろうとしたので何も気が付かないふりでサッと避けた。

 散歩に連れ出された僕は腕は組まないものの話は上の空の空返事で頷くだけ決して笑顔はない。しかしその天使はそんなことは全く気にせず一人でしゃべり一人で笑い笑う度に僕に絡みつこうとする。


 僕はそれを避け続けた。


「このお花はわたくしが植えさせたのですよ。お義姉様は全くお庭に興味がないようですの。淑女らしくありませんでしょう?

ですからわたくしのお庭にしようと思いますのよ。きっとボブバージル様にもお気に召していただけるわ」


 その言葉を聞いたら目眩がして少しグラついた。そうだ! 夢でもそんなことを言っていた……。まさか……。


 しかしクララは決して庭に興味がないわけじゃない。お母上様のことがあって離れていただけだ。

 最近になって僕に庭師との話もしてくれるようになった。そうやって少しずつお母上様のいた空間といない現実の折り合いをつけていっている途中なのだ。それを邪魔してほしくない。


 そうは思うが夢での言葉が頭に流れこんできて強く抗うことができない。


「まあ、ボブバージル様。お疲れですの? お義姉様のお話って難しいことばかりで疲れてしまいますわよね。わたくしのお話ならきっと楽しんでもらえますわ。ふふふ」


 僕は東屋に連れて行かれた。


 歩く道筋が夢と被る。

 話の内容が夢と被る。

 天使の笑顔と被る。


 とても気持ち悪かった。

 さらに足元がおぼつかなくなる。


「大丈夫ですか?」


 天使が僕の手を握りしめてきた。さりげなく振り払い自分の右目を覆うように顔を隠す。

 メイドがお茶を持ってくる。


 ゆっくりなどしたくはないが頭痛がひどくて動けない。


『クララが来たらクララで癒やされよう』


 そう思って我慢した。


 しかし、その後でクララが来ることはなかった。


 約束の時間になってもクララは現れず僕は家へ戻った。

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