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 すごく楽しかったマクナイト家での日々だったが残念ながら突然終わりを告げた。


 僕たちが十二歳の時、クララのお母上様が馬車の事故で亡くなってしまった。馬が急に暴れだしクララのお母上様は馬車から投げ出されその上に馬車が倒れたそうだ。


 クララはとても悲しんでいた。僕もすごく悲しかったけどクララを慰めるのは僕しかいないと思った僕はできる限り伯爵様の家へ行きクララの隣にいるようにした。十二歳の僕には何も上手く言えないけどクララの手を引き図書室へ行ってクララの好きな本をクララに読んであげる。お母上様のように上手くはないけれど何度も何度も読んであげるとクララは少しずつ一緒に読んでくれるようになっていった。


 クララやマクナイト伯爵様が黒い服を着なくなった頃に伯爵様のお家の感じが変わったなと思った。


「新しいお義母様がいらしたの。一つ違いの義妹もできましたのよ」


 クララは家族が増えたことを喜んでいた。


 クララから新しい家族の話を聞いた日から数週間後の夜のことだ。


 十三歳になっていた僕は不思議な夢を見た。


 一冊の本を写真付きで読んでいる……?

 それともこれは演劇を見ている……?

 いや、僕も出演者なのか……?


 そんな不思議な夢だった。


 夢の中でクララと僕がお菓子を食べながら話をしているとまるで天使のような女の子が現れる。その天使は僕を散歩に誘う。


『きっと、ボブバージル様にもお気に召していただけるわ』

『わたくしのお話ならきっと楽しんでもらえますわ』


 僕はとても明るい笑顔で可愛らしく話をするその天使をどんどん好きになっていく。


 僕は目を覚ましガバリと起き上がった。夢が頭にまとわりついてきて意味はわからないけど頭がすごく痛かった。

 汗で寝間着はぐっしょりと濡れていた。


 夢なのになぜか全く忘れることがなくてとてもザワザワする。


 その夢を見た日にクララの家へ遊びに行く約束をしていた僕はいつものように本を持って行く。クララが笑顔で迎えてくれて二人でメイドの後に続いた。


 そしていつものように応接室に向かう……


 ではなく……


 今日は温室に置かれたテーブルに案内された。いつもは応接室か伯爵邸に来客があればクララの部屋だった。


 温室に入った瞬間に既視感に襲われ足元がグラついたがそんな情けない姿を前を歩くクララには見られずに済んでホッとした。


「え? 今日はこちらなの?」


 クララも不思議そうにメイドに聞きいている。


「はい。奥様からそのように承っております」


「お義母様が……そうなのね……。わかりました」


 クララも残念というか疑念を持ち納得していないことが伝わるが何かをされたわけではないのでこれ以上抗議できる状況でもない。


 いつものように並ぶお菓子や果実水。でも今日の僕はなんだかグラグラして頭痛もする。


 何かおかしい。


 クララとの話もなぜか頭に入ってこない。


 そうして不安定な時間を過ごしていると鈴の鳴るような声が突然降ってきた。


「お義姉様。こちらにいらっしゃいましたの?」


 そちらに振り返って僕はあまりの驚きに思わず立ち上がった。椅子が倒れてメイドが急いでかけつける。


 僕は背中に汗が伝うのを感じた。


 夢に出てきたテーブル。

 夢に出てきた植物たち。


 そして、

 夢に出てきた天使が僕たちの方へとやってくる。微笑みをたたえながら……。


「ふふふふ」


 天使が優しそうな瞳で笑う。きっと僕が立ち上がったことを笑っているのだろう。


 しかし馬鹿にしたような笑いではない。何かを認めるような……そんな笑い方。


『そうよね、気持ちはわかるわ。だってわたくしは美しいもの。わたくしに見惚れて当然よね』


 天使は自信を持ってそう言っているようだった。


 その微笑みをたたえたまましずしずと僕たちに近づいてくる天使。


 僕は額に流れる汗も拭けずに固まってしまっている。


「ジル。先日お義母様と義妹ができたって言ったでしょう。彼女がわたくしの義妹のダリアナよ。

ダリアナ。わたくしの婚約者のボブバージル様よ」


 クララは当たり前のように僕らを紹介した。天使の名前はダリアナというらしい。確かに伯爵様の再婚話は聞いたが随分と前だった。今更紹介されることに違和感を覚えずにはいられない。


「はじめまして。伯爵家が次女ダリアナでございます。わたくしもジル様とお呼びしてもよろしくて?」


 小首を傾げてお願いする様は何もなければ頬を染める男は多いのだろう。

 しかし、夢と現実との相似と相違に戸惑いなんとも言えない苛つきが消えない僕には媚びているようにしか見えなかった。


 僕は自分に気合を入れてダリアナへの拒絶の気持ちを表に出す。


 『ガッタン!』僕はわざと乱暴に座った。


「ギャレット公爵家次男のボブバージルだ。ジル呼びはクララにしか許していない。ご遠慮願いたい」


 まずは、ジル呼びに対しての抗議のつもりだ。


『初対面で馴れ馴れしい。どれだけ自分に自信があるというのだ』


 僕がクララに見せたことのない態度にびっくりしていたクララだったが、クララだけの呼び名だと僕がはっきりと言ったので少し顔を赤らめて俯いた姿は可愛らしいなと思った。


「……そうですのね。わかりましたわ……」


 ダリアナの頬が引き攣った。

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