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その女の子は決してとびきり美人でもとびきり可愛いわけでもありません。普通に可愛らしい女の子です。
でも本を読みながら肩をビクッとさせたりお口に手をもっていったりそうやって真剣に本を読む彼女の仕草がとても可愛らしく思えたのです。
そして最後に『はい!また来ますっ!』と言った時の目がキラキラでステキだなって思ったのです。
彼女はクラリッサ・マクナイト伯爵令嬢で同い年です。
次の週には彼女は読み終わった二冊の本と僕に貸してくれる一冊の本を持って遊びに来ました。僕たちはお菓子を食べながら彼女が持ち帰った本のお話をしました。彼女が僕の好きな本の感想を話してくれる時に手をすごく動かして感動を伝えてくれて同じところをドキドキワクワクしてくれてうれしかったです。
その日は図書室で本を読むときにはお隣に座って読みました。僕はドキドキしながら時々隣をチラリと見ます。真剣な彼女の顔はとってもキレイです。僕はドキドキしていたせいで本はあまり読めませんでした。
クラリッサが貸してくれた本は猫が市井を冒険するお話でした。僕は市井には家族と食事に行ったことがあるだけなので知らない世界にドキドキしました。
そして、僕が五人目の女の子に会うことはありませんでした。
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三度目のクラリッサと会う約束の日は、僕と父上がクラリッサのお家へ遊びにいきました。クラリッサのお父上様は、王城図書館の館長さんで、とても頭のいい方だそうです。父上や国王陛下もよく相談に行くのだと、父上が言っていました。クラリッサは、マクナイト伯爵家の一人娘だそうです。
クラリッサが僕を図書室へ案内してくれるといって僕の手を握りました。手を繋いだまま図書室へ行きます。クラリッサは図書室の入口で僕の顔が赤くなっていることに気がつきました。
「あ、ごめんなさい」
クラリッサは慌てて手を離して真っ赤になって俯きました。
「ううん、大丈夫だよ。嬉しかっただけだから……」
今度は僕から手を繋ぎました。クラリッサはびっくりしたように肩を動かし、上目遣いで僕を見ます。うわぁ! かわいい!
「このお部屋なの?」
僕は男としてリードするようにクラリッサの手を引いて図書室へ入りました。
クラリッサのお家の図書室は、僕のお家の図書室より広くて、たくさんの本が並んでいました。
クラリッサは、僕の手を離して本棚の一部へ行き、僕に『こっちよ』と声をかけます。
「ここが私のご本なのよ。お父様もお母様もご自分の本棚をお持ちなの。私の部屋にも本棚があるのよ」
クラリッサは本のお話を楽しそうにしてくれます。たくさんの本を勧められました。でも、僕は断りました。
「僕は、何回もクラリッサに会いたいから、借りるのは一冊にしておくね」
クラリッサは頬を染めて頷いてくれました。
この日から、僕はクラリッサをクララと呼び、クラリッサも僕をジルと呼ぶようになりました。そして、僕がクララのお家へ遊びにいくことが、多くなりました。
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クララのお母上様も本が大好きで、よく少し難しい本を僕らに読んでくれます。お母上様が読んでくれる本はドキドキするものが多くて、僕とクララは手を繋いで聞くこともありました。お母上様は、読んでくれるのがとても上手なのです。声を変えたり、声を大きくしたり小さくしたり、時には手をガバーってあげて、僕たちをびっくりさせます。お母上様は僕たちが手を取り合って小さな悲鳴を上げると、クスクスと笑うのです。
いつも最後までは読み終わらないので、次のお約束をして帰ります。そうすると、次もすごく楽しみになって、僕はクララのお家にいつも遊びに行くようになりました。
少し経つと、クララのお父上様とお母上様は、僕たち二人に家庭教師をつけてくれたので、クララとお勉強も一緒にしました。違う国の言葉を習ってから、そのお国の本を読むのはまた面白くて、クララと言葉調べをしながら読みました。僕は算学も好きになったけど、クララは歴史学の方が面白いと言っていました。
時には中庭で、図鑑を見ながら季節の花を楽しみました。お母上様が手入れをしているという中庭は、いつもキレイなお花が咲いていました。クララの好きな花も教えてくれました。その花についてお勉強してから庭師のおじさんのお手伝いをするのは、すごく面白かったのです。