12
まだ完全に覚醒はしていないクララは今なら嘘はつけないだろう。
「ねぇ、クララ。この前はどうして僕の家に来てくれなかったんだい?」
僕はクララが嫌がらない言葉を使って聞けることを聞くようにした。
「ジルが風邪をひいたのでしょう? 会えなくなったと連絡がありましたわ。お見舞いに行きたかったのですけど具合が悪いのに伺ったら迷惑になると言われて……」
また下を向いてしまったので僕が覗き込むようにするとクララが顔をあげる。
「ジル。風邪はもう大丈夫ですか?」
小首を傾げて不思議そうに問う。僕は『僕の風邪』については否定もしないが肯定もしない。今はまだクララにアイツらの悪事を伝えるのは刺激が強すぎる。
「心配してくれてありがとう。クララ。
じゃあ、僕からの手紙は読んだかい?」
「ええ。一度お手紙くださいましたわね。引き出しにしまってありますの。お返事は届きましたか?」
僕は何度も手紙を書いているし返事はもらっていない。
いや、一度だけもらった。僕も大切にとってある。その手紙なのかは確認できないがたくさん送ったはずの手紙が一つしか届いていないことははっきりした。それでもアイツらの仕業だとは今は言わない。
「ああ。僕からなかなか返せなくてごめんね。手紙を書いたらクララに会いたくなってしまうから。
ねぇ、クララ。もしかして寝むれていないの?」
クララの目の下には真っ黒なクマができている。
「わたくし、夢でジルに『ダリアナを虐めているそうだなっ! 婚約を破棄だ!』って言われますの。わたくし、わたくし……ダリアナを虐めてなんかいませんのに……うっ」
クララが再び泣き始めたので僕はクララの背を擦った。クララの言ったそのセリフは夢の通りなら僕が言うはずだった言葉だった。クララの口から出た言葉であっても頭に衝撃が走った。
クララも僕と似たような夢を見ているのかもしれない。
「わたくしはその夢を見るのが怖くて怖くて。もうその夢を見たくなくって。そう考えたら寝れなくなってしまいましたの。うっうっうっ」
クララは顔を手で覆って膝にそのまま手をつけるように俯いて泣いてしまった。
僕はその背を優しくさする。
「クララ。これだけを考えて眠るんだ。ジルはクララが大好きだ。
ほら。クララも言ってごらん」
「ジルはクララが大好き……
ジルはクララが大好き……」
クララが小さい声でつぶやき、顔をあげて僕の手をクララから握ってきた。
「ジル。ジル。わたくしもジルが大好きですの。ずっとずっと大好きでしたの」
「うん、うん。知ってるよ。
クララ。ありがとう」
クララは今度は僕の手の上で泣いた。僕は空いている方の手でクララの背中を擦っていた。
そこへメイドが二人入ってくる。
「体を拭いてもらうといい。きっと気持ちいいよ。温かいミルクもあるそうだ。終わった頃また来るね」
クララは頷いた。
僕はメイドの一人に公爵家の護衛を馬車まで呼びに行ってもらう。
その間にクララがカップの飲み物を口にしたのを確認した。少しは食べることができるようでホッとした。
護衛が来たので席を立つ。
「応接室にいるから終わったら呼んでほしいんだけど」
「畏まりました。軽食もお持ちしたので一刻ほどいただくかもしれません」
「うん、丁寧に頼むよ」
クララをメイドに託し、部屋を出た。
一人の護衛に応接室に誰もいないことを確認に行ってもらう。
それを待っていると階段より一番手前の部屋から誰かが出てきたので護衛が咄嗟に僕の前に立つ。
出てきたのはダリアナ嬢だった。護衛はダリアナ嬢に対して少なからず敵意を見せる。母上から何かを聞いていたのか呼びに行ったメイドに聞いたのかはわからないがダリアナ嬢が味方でないという認識ははっきりと見てとれた。
しかし、僕は護衛を止めた。
それを僕との戦い開始の合図と勘違いしたのかダリアナ嬢は腕を前に組み片足を少し前にして斜めから僕を睨む。
「美しいわたくしがあなたを選んであげたのにあなたは何が不満なの?」
せっかく止めた護衛がカチャリと嫌な音をさせるが僕はもう一度手で護衛を止めた。
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