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 僕は冷静な声で話を始めた。


「君が美しいだって? ハッハッハっ! 冗談は止めてもらいたいな。君のような欲望を丸出しの女性を美しいなんて僕には思えないね。

ああ、安心してくれ。クララの可愛らしさも君にわかってもらおうとは思っていないよ」


 僕の小馬鹿にした物言いにダリアナ嬢は苛つきを隠せない。


「はぁ? クラリッサが可愛らしいですって? あなた目が見えないの? あんな不細工が可愛らしいわけないじゃない!」


 僕はカッとなったが今は情報が大事なのでなんとか冷静に話をしようとした。


「もしかしてそれをクララに口にしたのかい?」


 僕の声は少し震えてしまったがそれを有利だと取ったのかダリアナ嬢は自慢げに答えた。


「そうよ。わたくしとお母様とでしっかりと教えてあげたのよ。とっても簡単だったわ。鏡の前で隣に並んで『不細工なのね』ってつぶやくだけ。

フッハハハ! 最初こそ何を言われてるかわからなかったみたいだけどこの頃は鏡の前にも立たないわ。あれが表に出るなんて伯爵家の恥ね」


 ダリアナ嬢は当たり前のことをやったのだと言っているかのようにスラスラと自分たちがやってきた卑劣な話を声高に述べた。

 僕は拳が震えるのを抑えようとしたが無理だった。いや、拳を震えさせることでなんとか意識を保っていられたのかもしれない。


「価値観の違いというのは恐ろしいね。とにかく僕は君には興味がないし今後近寄りたいとも思わないよ。今までもそう伝えてきたつもりだったけど…………」


 僕は目を細めて現在のダリアナ嬢を観察する素振りをする。


「君には態度で示しても通用しないようだから、ねぇ?」


 暗に馬鹿にしたことは通じたようでダリアナ嬢は鼻息も荒く声も大きくなる。


「ふんっ! 本当にバカな男ね。私と結婚すれば公爵になれたのにっ!」


 ダリアナ嬢は鼻を高々と上を向かせて横を向いた。小馬鹿にして返したつもりだろう。一人称が『わたくし』になったり『私』になったりと落ち着かない。どちらが本当のダリアナ嬢なのだろうか?


 ともかく僕は公爵など望んでいないから嫌味にもならない。そんなことに気が付かないほどダリアナ嬢自身が欲望に塗れているのかもしれない。

 しかし僕の意思がダリアナ嬢と一緒ではないことを伝えるべくさらにゆっくりとゆっくりと諭すように話した。


「君は一体何を言っているのかな?

――全く理解ができないよ。

僕はクララと一緒にここを継ぐんだよ。

あ〜、そうだなぁ。その時君らにはここにいてほしくないから後で君たちを監禁できるような領地の屋敷を確認しておこう」


 僕はあえて『監禁』という言葉を選んだのだがこれにはダリアナ嬢は反応しなかった。今回のクララの監禁には関わっていないのかもしれない。


「そう、それにね。公爵は兄上が継ぐんだ。それなのに君が僕を狙う意味がわからないなぁ? 君にはここを継ぐ権利はないはずだ。そして僕にも爵位はない。君は何が狙いなんだい?」


 ダリアナ嬢は後妻の連れ子なので伯爵家の血を継がないのでマクナイト家の伯爵位は継げないのだ。

 僕だってもしクララとの結婚がなくなって父上の持つ爵位の一つをいただいたとしても伯爵位だ。それを『公爵』だと言い切るダリアナ嬢の真意を計りかねる。


 ダリアナ嬢は両手を腰にあて上半身をこちらに倒してきた。まるで『仕方がないから教えてあげるわ』とでも言いたそうな態度である。


「ふんっ! だ、か、ら、そのお兄様がもうすぐ死ぬのよ。死んだらあんたは公爵を継がなきゃなんないでしょう? そしてクラリッサは伯爵を継がなきゃなんない。あんたらは絶対に上手く行かないのよっ」


 ダリアナ嬢の口調が乱れご令嬢のそれではなくなっている。まるで下町の娘のようだ。


 ダリアナ嬢が僕を指差しながら高らかに宣言した内容はとても恐ろしいものだった。さすがに僕も兄上の死を口に出されて眉根を寄せて睨んだ。


 隣にいる護衛からまたカチャリと音がする。この護衛は公爵家に長くいる人で僕も兄上も幼い頃からとてもお世話になっている人だ。兄上の死を望むようなことを言われて気分がいいわけがない。僕が許可しなければ動かないとは思うが心情穏やかではないだろう。


 僕や護衛の顔つきが変わったことに気が付かないダリアナ嬢はまだ続けた。


「ハハ。その時まで待ってあげるわ。頭を下げてわたくしを乞うなら許してあげる。わたくしの寛大さにあんたはわたくしを一生崇め奉るのよ」


 ニヤリとひしゃげた口角は決して美しいものではなくこズルい下民がするような表情だ。ダリアナ嬢はそんな自分に気がついているのだろうか? 兄上に何かあったとしてもダリアナ嬢に頭を下げるなんて万が一にもありえない。

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