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第2話 友人は鰤(ブリ)

「おい、お前なにしてんだよ!?」

「なんもしてねぇよ! 自己紹介してちょっと握手しようと手取ったらいきなり倒れて······」


 駆け寄ると、そこにはフンドシではないが、マンボウのその大きさから白い綺麗な手足だけを出した、俺等より少し下――二十歳ほどの女の子が顔を真っ青にして倒れていた。蛇足だが顔はマンボウの口から出ていて、その隙間からは女の子らしい黒い長髪が見えている。


「お前、これやばくねぇか?」

「わかってるって。けど、こんな場所で介抱したって一体どうすりゃいいのか······」


 そんな片膝を付く佑哉の側に横たわるマンボウ――もとい、女の子の様子は変わらないまま。


 するとその時――どこからか遊園地のパレードのような軽快な音楽が聞こえた。思わず「なんだ?」と、佑哉とお互いに顔を見合わせては空を見上げると、そこにはスクリーンが現れており、こんな文字が書いてあった。


『あなた達は魚です。それぞれの特性を生かしてステージをクリアしてください。なお、全滅してクリアに失敗しても最初に戻るだけですが元の世界には戻れません』


 それを読み終えた頃、佑哉が口を開いた。


「クリアしないと戻れない? どういうことだ?」

「さぁ······。それにステージも何も、ここなんもないし······」


 再度回りを見渡すも、同じようにスクリーンを見上げる魚の群れ、群れ、群れ。皆が皆、困惑を露にした顔をしていた。そんな魚群を見回してから、


「けど、佑哉。もしあの文字通りこの状況を受け取るならだけど、もし仮にこの子が死んだとしても、全て元に戻るだけなんじゃないか?」

「どうして?」

「だってさ、もし本当に死ぬなら“あなた達は死にます“とか書きそうなもんだろ? もし人が恐怖するのを楽しむなら、簡単に死なれちゃつまらないだろうから」


 それを聞いて少し落ち着きを取り戻したのか、そっと立ち上がった佑哉はやや俯き、顎に手を当てる。


「なるほど、な······」

「だろ? だからこの子にはちょっと悪いけど、とりあえず今は様子見が吉じゃないか? クリアすれば全員、もしかしたら元の状態で戻れるかもしれないし」

「······お前、意外と冷静だな」

「だって、こんな状況あり得ねぇだろ? 郷に入っては郷に従え。長いものには巻かれろってやつだ」


 そうして、そんな風に社会で生きてきた俺が己の姿を見せつけるように仁王立ちすると、佑哉はしばらくこちらを見て「哀しいな」と嘆息。この不可思議な状況を少しずつ受け入れたように見えた。そして、傍らで横になるマンボウを見ては「お前の言う通り、もう少しこのままいてもらうか」と言った。彼女のほうもこれ以上の容態悪化は今は見られなかった。


「けど、慶介。俺等は何をしたらいいと思う? それぞれの特性生かしてクリアって書いてあるけど、なんかクリア条件があるってことだろ? でもそんな条件らしきものなんてちっともさ············って、ちょっと待って。なんでお前まで苦しそうなの?」

「いや、実はさっきも苦しかったんだよな······」

「は? さっき?」

「ほら、お前がその子に駆け寄ってる間。その時もなんか息苦しくてさ、ここ来てから収まったと思ったんだけど、またなんか······」


 そうして、もう一度ここに来る前のように「ん、んん」と咳き込む。しかし変わらず。


 すると、その時、またしてもパレードのような軽快な音楽が響いた。突如響いたものだが、二度目のその音楽には、自然と俺等の顔は空のスクリーンを見ていた。そして、短いその音楽が終わり程なくするとスクリーンの文字が変わる。


『ステージ1 生存者50/50』


 その文字の下には宙に浮かぶ、カウントダウンの数字が。

 10から一つずつ数字を減らしている。


「は? なに? いきなり始まんの? ってかあの数字って············いや佑哉、お前何してんの?」

「いや、よく分かんねぇけど嫌な予感するから、この子背負っておこうと思って」

「なんだよ嫌な予感って······」


 そんな背負おうとしている佑哉を見ている内に数字はあっという間に0へ。その後出た、遊びを思わせる、どこか腹立たしい『スタート!』という文字。佑哉は「この身体だと背負いにくいな······」と、互いの魚のボディをずらしながら背負おうとしていた。


 いまだ状況に変わりはない。――が、そう思った矢先だった。


「お、おい······あれ······」


 後方に居た誰かが、そう言って空を指差した。

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