第17話 根源と心
俺とスタンは別れ、別々に学校へ向かった。教室に入っても特に変わった様子がない、唯一あるとすればキャロンがソワソワしている事だろうか。
「おいキャロンなんでそんなにソワソワしている。そんなに午後の集まりで緊張しているのか?」
「はい、でも戦争が怖いからではありません。今日朝両親に宣戦布告の話を聞いたのです、そしたら父は知らないと言い、母は知っていると言うのです。母は父がいない所で私に言ってきたのでなにか秘密があるように感じたのです。なにか、良くないものが……」
「そうか、なら父親の言うことを信じておけ。そいつの娘にはあまり言わない方が良いのかもしれないが、お前の母の言う事はあまり信じるな、信じるそぶりだけど見せておけ」
「……へ? 何故ですか? いきなりそんなふうに言われても……」
「単純な事だ、今回の騒動で裏で糸を引いている奴と関わりがあるからな。先に言っておくが国対国なんて大きな戦争なんか起こらない。これは極小数しか分からないだらう、俺も両親が殺された件が無ければ気づかなかったと思う。神経質になっていたおかげだったからな」
やはりこいつに母親を信じるな、だったり騒動の主犯の関係者だ、なんて事言わないでおいた方が良かったのだろう。だが例えどう思われようと構わないのでこの言葉を聞かせる事が重要だ。この場でこの言葉を切り捨てたとしても多少は意識していまう、その意識で多少の緊張感が出る、そのおかげで怪しさに気付くなんて事があるかも知れない。だからなんて思われようと、伝える事が大事なのだ。
「そうですか……でも全く信じないと言う事は私には無理かもです……でも、何でもかんでも鵜呑みにはしないようにします。ですが父の事は信じても良いのですね?」
「お前の父親は何の問題もない。お前の事が相当可愛い様だしな。約一ヶ月前までの厳しさがまるで嘘のように優しくなったそうだからな」
「そうですか! では一応、忠告ありがとうございます」
ふむ、意外だった。正直かなり拒否されると思っていたが意外と受け入れてくれた。それに今は鵜呑みにしない程度で充分だろう、少し疑う程度でキャロンは母親について気づくだろうからな。キャロンにはかなり使える能力があるからな。 キャロンに忠告したあとはそもまま授業が始まった、俺はいつも通りうつ伏せになって睡眠不足の解消に励んだ。
「……………く………い、……………く………い!」
うっすら意識を取り戻しながら誰か女の子の声が聞こえたが聞き取る事は出来なかった。
「…………てく……さい、…………てく……さい!」
少しずつ意識を取り戻しながら声を聞いていると「手臭い、手臭い!」と言っているように聞こえた。なんだこいついきなり人にこんなこと言ってくるとはある意味すごいな。
「そろそろ起きてください!!!!」
大声で起こされた事でようやく理解した。さっきのは「手臭い!」とは言っていなかった、俺の意識が完全に覚醒していなかったので聞き漏らしがあったのだ。さっきからおれに話しかけてたのはキャロンだったか。
「それはそうだよな、お前がいきなりそんな失礼な事言うはずないもんな。そんな度胸無さそうだしな」
「……起きてすぐ何言い出すんですか? そんな真剣なら顔しながら寝ぼけているんですか?」
「気にするな。寝ぼけていた時の思い出を思い出していただけだ」
キャロンはその発言を完全に無視して俺に出発の準備をしろと告げてきた。どうやらもう出発するみたいだ、睡眠もしっかり取れたし今日はもう大丈夫だ、早めに準備して他の人達と合流しなくては。
準備を終えたのでキャロンと一緒に他の六人がいると言う闘技場にやって来た。他の六人はもう来ていたようだ。男子の他三人は全員知っているし言葉を交わした。女子の四人は優勝者とキャロンは知っているが準決勝敗退の二人は知らない。
「よし、みんな揃ったな。全員始めましただな。ここからはこの学校の戦闘実践訓練の責任者である俺がしきる。まずは男女でともにリーダーを決めてもらう、女子は優勝者であるミザリー・レイセンがやると言う事で異論はないか?」
このミザリーと言うやつはどこでもだれとでも上手くやっていけそうなタイプだ、リーダーにも向いている。異論は出なかった。だが俺はまとめ役には向いていないのでレイ・クラノスにやってもらいたいものだが……。
「異論はなし、では女班のリーダーはミザリー・レイセンで決まりだ。続いては男子だが、ドラン・ナターシャ。君はリーダーをやりたいか?」
俺に選択を委ねると、めんどうなので質問はたらい回しだ。
「おいレイ、お前が選べ。お前がやるのならそれでいい。もしお前が俺をリーダーにしたいのなら俺はそれに答える。決めろレイ、俺は決めるのがめんどくさい」
「……そうかいそうかい! ではドランくん。君がリーダーになりたまえ!」
スタン以外はかなりビックリしていた、それは三年トップ成績のレイ・クラノスが一年の俺に託してきたのだ。そしてスタンはと言うと、良くやるものだ。疑り深く監視されていない限り本当に驚いている風に見えるだろう、なかなかすごいやつだ。
「そうか、おい責任者とやら。俺がリーダーをすることになった」
「そうか、分かった。では男班のリーダーはドラン・ナターシャに決定だ。頑張れよ」
この教師は学院長側なのか? 今回の騒動の大きさが分からない以上予想がつかない。それに三年の人達にも初めましてと言うという事はないのだろう。ならそもそも戦闘実戦訓練の責任者なんて言う何をするのか分からない役職は存在しないのかもしれない。そのあとは軽い説明を教師から受けてから九人まとまって移動した。
――おいシルフィー、なにか感じたら教えてくれ、それとあの教師は人間か?
――あの人は人間だね。洗脳だとか操られているようなところもないようだね!
そうか、なら人質の可能性もないか。シルフィーにも協力を頼み、手練れたちが集まっていると言われていた場所まで連れられてきた。そこは屋内闘技場の様な場所だったが扉を開けても誰もいなかった。
「まだ誰もいませんね、もしかしてこれも……」
「間違いない、ここには誰も来ない。それに……」
――ドラン君! この建物の全体に結界が張られていて、しかも建物中のドアや窓が開けられないようになってる!
つまり閉じ込められたというわけか。さてどうしようか、こういう状況になってもリーダーとして動かなければいけないのか?
「あれ? さっき私たちをここに連れてきた先生はどこに行ったの? この状況、なんかまずい気がするんだけど……」
女班のリーダーのミザリーが呟いてからは他の者も文句や疑問を口にしだした。しかし取り乱したり混乱はしていなかった。当然といえば当然か、あの学院のトップ連中なのだから。
――ドラン君! 何人かが転移魔法でこの中に入ってきたよ! 人間じゃない生き物か混じってる! 全員で十人くらいいるぞ! 恐らく魔族だと思うよ! 何かした方が良い?
――そいつらのいる場所を教えてくれるか?
シルフィーに場所を教えてもらい、何の前触れも無にその場に<魔砲炎>を打ち込んだ。ほとんどの人は俺が魔法を使えることを知らないから不意打ちには最適だった。
「おい! なんでだ! この結界の中じゃ人間の魔力は使えなくなるんじゃないのかよ!」
<魔砲炎>を打ち込んだ場所から声が聞こえてきた。どうやらこの結界じゃ人間は魔法を使えないらしい。
「おい、そこのお前! お前は人間じゃないのかよ!?」
「お前にこたえる義理は無い、うるさいやつはさっさと死ね」
俺が魔法を撃つ時に使ってる魔力のほとんどはシルフィー(精霊)の魔力を使っているから人間の魔力は全然使っていない。なのでこの結界があろうと何の問題もないのだ。他の者は魔法を使おうとしても発動できないよだった。だが能力を使って攻めようと考えても、俺が魔法を撃って暴れているのでむやみに手は出せないというわけで傍観している。
――ねぇねぇドラン君? 魔王化するなら一定以上の根源を破壊しなきゃいけないから壊しておいた方が良いと思う
シルフィーはこんな状況で意外と呑気な感じだった、こいつが焦ることはほぼないか。俺は倒した魔族五人が倒れている場所まで歩いて行った。そのまま俺はその魔族にとどめをさした。これで死んだはずだ。そのあとは両親の根源と魂を捕まえた時のように捕獲魔法を使い根源を捕まえた。
(根源を捕まえたのは良いが、根源の壊し方なんて知らんぞ? 殴れば壊れるのか?)
捕獲魔法で五つの根源を宙に固定してそれを能力を使って殴ってみた。しかし根源は壊れなかった。がダメージを与えた手ごたえはあった。一撃で壊すには何かで刺せばいいだろうか。ならスタンが持っている件を借りよう、あくまで他人風に。
「おい、そこの剣持ってる奴、それを貸してくれ」
「え? あ、はい。いいですけど」
スタンもうまく受け答えしてくれた。そのまま剣を借り、能力を使いながら剣で根源を斬った。うまく壊すことが出来たので残りの四つも斬った。そのあとはそのままスタンに剣を返して残りの五人の方を向いた。
「お、お前、今何をした? それに、何故この中で魔法を使えるんだ!」
そう言ってきたのは見た目は完全な学院長だった。
「こいつらの根源を破壊した。俺が魔法を使えるのは人間の魔力を使っていないから。それ以外にあるか」
「な、貴様、まさか…………人間ではないのか!?」
そう考えたか、もう受け答えはしなくていいや自分からは言う必要はない。そう言えばユージとやらはどうなんだろうか、この件は知っていたのだろうか? それも見ておかないとな。などと考えていると学院長の隣にいるものが声を掛けてきた。
「……お前には、精霊が宿ってるのだな。だから人間なのにこの結界の中で魔法が使えるわけだ」
俺が言わなかったのに勝手に言いやがった。キャロンとスタンは知っていたのでリアクションをしなかったが他の五人はオーバーリアクションと言えるほど騒いでいた。仕方がない事かもしれないがいいとしよう。
「そうか、お前は分かるのか、なら良い。隠さなくて良いか、俺は精霊と契約している。で、それがなんだ?」
「いや、その年で精霊契約できるというのはかなりのものだと思ったのでな。興味を持っただけだ」
興味なんか持たないでほしい、面倒ごとはもうごめんだ。
――シルフィー、あの学院長殺していいと思うか?
――あぁ、確かにあれは人間じゃないから大丈夫だと思うよ?
「おい、学院長、お前は偽物だろう? 本物はどこにいるんだ? 死んでいるのなら言わなくていいが」
「ふん! なにを言っているのだか、とにかくあの生徒らを始末だ! 八人全員皆殺しだぁ!」
見破られたから焦ったのか、すぐに始末とはなかなか乱暴なおっさんだ。なら俺も
「おい、国と国の戦争は嘘情報だ。だがこの規模だとしても戦争は戦争だが、どうすんだ?」
さっきから俺の中で何かが変わったような気がする、他人に殺しは勧めないとだけは考えていたのにこの様な発言を躊躇いなくした。だが、皆はすでに決心していたのかすぐに戦闘態勢に入った。それにはユージも含まれていた。多少の緊張も感じられる、ならこいつはこの件とは無関係なのだろう。
「おい魔族、五対八だ。お前らで勝てると思うなよ?」
その言葉と同時に俺は一番弱そうなやつとの距離を一気に詰め、首をへし折った。そのあとは戦闘訓練学校の皆も本気で向かってきた、よく見たら俺以外の全員が何かしらの武器を持っていた。俺も今度良さそうな武器を調達しよう。
開始してから十分ほど経った今、生徒の中にはけが人すらいない。魔族側は学院長に化けたやつと、俺が精霊契約していることを見破ったやつだけだった。
「なっ! おいやめろ、お前たち! ワシは学院長じゃ! 目上の人に刃を向けるとはタダでは済まさんぞ!」
「お前学院長じゃないだろ、それにここで死ぬんだからお前にこの後は無い」
「馬鹿を言うな、くそっ…… おい、ネーク、俺を助けろ! いったん離脱だ!」
精霊契約を見破ったやつはネークと言うのか、あいつはなかなかの強者に見えるからな、ここで殺し合いすると確実に犠牲者が出ると思うがここで殺しておきたい。
「いいえ、君はもう終わりだ。俺には君を助けるメリットがない。俺は今のうちに逃げるとするよ。俺がここからいなくなればこの結界と扉と窓のロックも解けるから心配しなくていいよ」
そのままネークは消えていった。学院長に化けているこの魔族を見捨てていなくなったのだ。そこでこの魔族は戦意を喪失した。そこでこいつの処理をどうするかの話し合いが始まっていた、戦意喪失したところで逃げるかもしれないのに呑気な奴だ。俺は話し合いの最中にその魔族を殺した。
「……え……ドラン……君? 君何やってるのよ!」
女能力者、準決勝でミザリーに負けてた奴は消えそうな声で問いかけてきた。
「俺を殺そうとしてきた敵だったから殺した。人を殺そうとしてるんだ。自分が殺される覚悟もあるはずだ」
「でも、戦意喪失してるのよ? 殺す必要はなかったわよ……」
「さっきも言っただろ、俺を殺そうとしてきた敵だったから殺した。戦意喪失しているかなんて関係ない。それにもうすでに三人死んでいるんだ。今更一つ死体が増えようと変わらん。それにお前は学院長が偽物という事すら知らなかっただろうしな。お前はこれからこいつが牙を剥かないと言い切れるのか? 無理だろ、それにお前じゃ強い魔族には勝てない弱い奴はすぐ死ぬから気をつけろ~」
そのまま俺は室内闘技場を出ていこうと歩き出した。外はもう夕方だった。
「待ちなさいよ! 話はまだ終わってないわ! それに年上に向かって何よその態度!」
「シア、その辺にしておきな。あの人の言い方はあれだったけど間違いだとは思えない……」
突っかかってきた女、シアはミザリーに止められたことで不満はありそうだったが一応止まった。そのあとは一人ずつその闘技場を出て行った。
――なんかさっきのシアって子、後ろから凄いにらんでるよ?
――鬱陶しい奴だな、俺が魔王になったことを知ったら確実に敵になりそうなやつだ、だが今は無視で良い、邪魔になるほど脅威ではないそれと一つ聞きたいのだが根源破壊はいくつすれば良いんだ?
――人によって違うぞ? でも壊す頻度が高ければ高いほど少なくて済むはずだぞ? あとは、達成したら分かるんじゃないかな?
魔王も適当だな、だが根源を壊すと心は少しずつ作り変えられていくというのは本当なのかもしれないな。あとは武器をいくつか持っておこう。収納庫にもいくつか入れておけば便利だろうな、と武器について考えながら家に向かって歩いて行った。