第15話 学校長
「大変だ! 魔族の国の中の一つの国だけだが、いきなりこのガーレリア王国に宣戦布告してきたんだ。その国は魔界インデール王国だ……」
さっきまでがやがやしていた闘技場に緊張が走った。魔界インデール王国は魔族の国の三大王国とされている国の一つだ。そんな国が一国で宣戦布告してくるとは何かあったのだろう。だがそんなことを考えている暇すら与えてくれなかった。学校長に告げられた次の言葉で緊張が全て別の感情に変わった。
「そしてこの戦争、戦闘訓練学校の生徒たちも加わってもらうこれは国が決めた」
さっきまでの緊張が各々別の感情に変わった。怒り、恐怖、悲しみ、そして呆れ。いきなり戦争に行けなどと言われては怒りや恐怖がこみ上げてくるのは当然だ、それに戦いが始まるのだから心優しい者は悲しむだろう。そしてしっかりと学校長を観察している人ならば分かる、あの学校長は自分の名誉のために生徒を戦争に行かせようとしているという事に気づくだろう。そんな欲に目が眩む大人に対しての呆れ。人それぞれだ。そもそも国王が学生全員を戦争に召集するなどありえない、確実にあの学校長だろう。
「ちょっと待てよ! いきなり戦争とかいくら学校長でも断るぜ!」
「そうよ! 私たちまだ学生よ? それなのに学校ごと戦争なんて納得出来ないわ!」
「案外志願制だったけど学校長が自分の株を上げたいがために生徒を全員協力させようとしてるんじゃないのか?」
「それありそう。あーいうデブジジイってのは自分の欲望に忠実な人ばっかだからね!」
とんだ偏見に聞こえるが俺もその考えは何故か納得してしまう。それに確実に生徒が言っている事が正しい。だが学校長は恐らくこのまま引き下がらないだろう、まだ入学式でしか見てないからどのような人間かは予想がつかない。だがあの感じなら簡単に予想はつく。
「えぇ~い! 決定事項なんだ! それと前の大会の男女能力者のベスト4の8人は集まりに呼ばれてるから参加するように、このクラスには二人いたはずだ。良いな?」
入学式の学校長は優しそうな雰囲気だったが本性はこんなのだったか。こんな事をして株が上がるとは思わないし、これは逆効果だろう。せっかくだしその集まりで色々調べてみよう。
「おいキャロン、その集まりとやらは一応行くがその時は俺の近くに居ない方が良いかもしれない。危ないぞ」
「え? あ、はい。ドランさんが言うなら……」
納得はしてないようだったがはいとは言ってくれた。近くにいたらかなり危なくなりそうだししょうがない。そのあとも皆は文句を言う奴も大勢いた。泣く奴もいる。割り切っている人も数人いた。キャロンは真顔で何かを考えているようだった。
「俺は戻る、お前も後の事を考えておけ」
「は、はい」
キャロンに先に飯を食いに行くと言い先に闘技場を出たが、飯は食いに行かず話しておきたい人と話すためにある場所へ行った。そいつはちょうど一人でいたので話しかけた、こっそりと。
「スタン、話をしたいんだが時間作れるか?」
スタンが了承してくれたのであまり人の来ない場所へ来るように頼んだ。人に聞かれてはまずい事を話すわけではないが、両親の件で動くのが難しくなるので極力接触は控えたいが今は緊急だ。
校舎裏の倉庫の裏でスタンが来るのを待っている間にシルフィーと話した。
――ねぇねぇ、あの人の名前何? あの人と何を話すの?
――あいつはスタン・インゼルフ、そしてさっきの宣戦布告の話をな
――急すぎだしあの学校長必死過ぎるでしょ、戦争なんて急すぎ
――多分だが戦争はないだろう、キャロンも気が付いていたんじゃないか? さっき何か考えていたようだし
――わお! キャロンちゃんって凄いんだね! でも戦いがないってどういうこと?
――それはスタンが来たら話す
両親の件と関係があるかは分からないがあれは学校長本人の意思ではない。そのことをスタンにも話しておかなければならない。
「ドランさーん、すみませんお待たせしました」
「気にするな奴と喋ってた」
「奴ですか?」
「あぁ気にするな。俺の契約した精霊のシルフィーだ、一応覚えておいてくれ意外と役に立つからたまに名前を出すかもしれん」
――たまにて何よ! いつもでしょ! ほら! いつも役に立つって言って! さっきの言葉撤回して! 撤回!撤回!」
「あ~うっさい黙ってろ駄々っ子精霊……………………あ、声出てたな、駄々っ子精霊が脳内で騒いでいたものでな。気にするな」
「は、はい……それで話とは?」
そうだった駄々っ子精霊のせいで話すの忘れてた。脳内に頭の悪そうな声で撤回!撤回!と騒いでる声が聞こえたような気がしたが気にしないでおこう。
「単刀直入に言う、言い回しは無しだ。戦争は無い、あるとすれば少数で攻めてくる襲撃だけだ」
「そうなんですか。それで自分に何かを頼もうとしたのですか?」
「疑わないんだな。こんな事をいきなり言ったのに」
「ドランさんが言っている事は当たっているように感じるので」
「そうか、、まぁ良い。だが今すぐ頼みたい事があるわけではない、今度ベスト4が召集される時に気をつけろと言いたいんだ、それと俺のペアの顔は知ってるだろ? そいつに接触せずに見ておいてくれ。なにかあるはずだ」
「了解しました!」
「…………今更なんだがあんた年上だよな?」
「はい、年上です、先輩です」
「俺は言葉遣いを気にしたことは無いがお前はそうじゃないだろう、俺はお前の後輩だ。周りの目はしのいでいるが、後輩に敬語ってのはお前は気にしないのか」
「気にしませんよ? 私が望んで作り上げた関係ですから」
不思議な奴だな。関わってても嫌ではないし面白いから良いが。
「とりあえずお前は長く席を外していると皆から不思議に思われるから戻れ、明日は頼むぞ」
「はい、ではまた」
話し終わった後はキャロンに話しをするために教室に戻る、結局昼食は食べなかった。教室に戻ってもキャロンの姿はなかった。昼食を食べているのだった、あいつは体が小さいわりに結構な量を食うのだった、忘れてはいけない。
「私の事を待っていたんですか? なんか珍しいですね」
知らないうちに戻ってきていた。それに俺が人を待つのはそんなに珍しくはないはずだが、さっきも人を待ってたわけだし。
「あぁ、お前に話さなきゃいけないことがあってな」
「おおよそ予想はついています。学校長の話ですよね?」
「そうだ、何故学校長はいきなりあのようなことを言ったのか気になってな。もし戦争が起ころなんて嘘の情報を生徒に流したなんて事が知られたら相当な罪に問われるはずだ、更にその出来事が外部に流れる可能性はほぼ100%、そんな危ない事をして何をしたかったのかが気になってな」
「えぇ私も気になります。そんな危険なことをして得るものとは何なんでしょうか……」
この言い方から察するにやはり宣戦布告されたというが嘘というのは知っていたらしい。この場合は気付いたと言った方が良いか。
「第一にあれは本来の学校長じゃない。可能性を考えられるのは操られているのか、体を乗っ取られているのか、人質を取られ言いなりになっているか、または学校長自身の体に何か仕掛けられているか、くらいだな。さっきはあいつと距離が離れていてあまり様子を観察できなかったからあいつの感情を読み取ることは出来なかったが恐らくはその辺だろう」
「そうですね。それとその予想のどれかなのだとしたら黒幕がいるという事になります。その黒幕の目星とかはあるのですか?」
「いや、それは全くついてない。それも見つけなきゃいけないな」
「ドランさんが事件解決のような事をするのですか?」
「いや? これは俺が調べたいだけだ、もしかしたらそいつは俺が探している奴かもしれないしな、見つけられるのなら早めに見つけなければな」
「なにかあったのですか? ドランさんがそんなに人を見つけ出そうとするとは思わなかったので、勝手な思い込みだったらすみません……」
「いや、お前の思い込みはあっている。普通なら人を見つけ出そうとはしない、だが無視できない事があってな」
「何があったのか聞いても良いですか?」
「父親と母親が殺された。その犯人の目星はついているがその黒幕は全く分かっていない。もしかしたら両親の件の黒幕と今回の件の黒幕は同じなのかもしれないと考えた。が、確証はない」
「………………すみません……聞かない方が良かったですね……両親が……」
「気にするな、俺が勝手に言ったことだ。だが、このことは他言無用だ良いな?」
「分かりました。私もその黒幕探しお手伝いしましょうか?」
「学校長の件の方なら良いが俺の両親の件は協力しないでくれ、しちゃだめだ。まぁ今回の件を解決するのに協力するなら明日だ。もうすぐ授業が始まる、寝るから起こすな」
起こすなと言ったらキャロンは呆れた顔をしながらも「分かってますよ~」と言いながら隣の席に座った。さて、明日は面倒になるぞ。キャロンも協力すると言っているがキャロンにはスタンとの関係を知られたくないので慎重に行動しなくては、しっかり予定を立てて行動しよう。シルフィーにも働いてもらおう。
――私は協力する前提なの!? 協力はするつもりだったけど私だけ扱いが雑……
――なぁ駄々シルフィー、精霊って泣くのか?
――駄々ってなによ! 私だって役に立つし!
――駄々ってのは役立たずって意味じゃないぞ? 勘違いするな、役立たず=シルフィーだ。
――この人は……私は一応特別体精霊なんだからね! 他の精霊よりも一段とすぐれているんだよ!
(そうか、普通の精霊はこんなに便利ではないのか? だとしたらシルフィーは凄いな)
――ふふ~ん! そうよ、普通の精霊はここまで素晴らしくないの! 私だから出来るのよ? わ・た・し・だ・か・ら!
「だぁぁ、だからうるせぇ、それに考えを読むな」
「あのぉ、ドラン君急にどうしたのかな? 心中会話か何かで誰かと会話していたのかな?」
「…………あぁそうだ。だれと話していたかは言わん、俺は寝るのでな、それじゃあ」
「あ、! ちょっ! ドラン君! 寝ないでくださいよ~!」
――クスクス。脳内通信している時に直接声を出すなんてねぇ! ま、明日は協力するから!」
無駄な会話も終わりようやく眠れると思ったらまさかのチャイムが鳴てしまった。でも俺は気にしない男だ、たとえ放課後でも眠ければ寝るのだ。起きたら夜とかになってたりして、とかくだらないことを考えて眠りについて行った。