第14話 外部講師
悪夢を見た日の朝はかなり目覚めが悪かった。時計を見るともう学校が始まってる時間だった。隣には待っていたのか起きているスタンだいた。
「学校始まってるぞ、律義に待ってる必要なかったんだがな」
「いえ、せっかく弟子入りしたのですから! 自分は待っていました。」
つきてきて良いと聞き、ついてくると言って来たあれは弟子入りすると言う意味だったのか? だが良いか弟子でも配下でもなんでも良いこいつが決めた事だ。
「そうか、まぁもう始まってるから早く学校行くか」
そのまま急ぎめで支度をし学校へ向かった。授業中の教室のドアを開けるのってかなり緊張しないか? 俺は緊張しないがな。てなわけで普通にドアを開け教室に入っていった。そしたらやっぱり目線は一斉にこっちに向いてきた、一番最初に声を掛けてきたのはエミール・レーン、このクラスの担任だ。
「あ、ドラン君おはようございます。遅刻ですよ? とりあえず今は席に座ってください、もうすぐ闘技場で授業がありますよ~」
魔法を使う事が出来るのなら使ってみよう。そして席について隣のキャロンに一つ聞いてみた。
「なぁキャロン、昨日の明け方起きてたか?」
「いえ、昨日は10時頃まで寝てましたか」
「そうか、なら良い。忘れてくれ」
「は、はい」
キャロンに聞きたいことを聞き、授業中の暇つぶし相手のシルファーと話を始めた。
――おい暇だ。話し相手をしろ
――あなたね、今授業中なんでしょ? それに精霊を暇つぶし道具として使う人なんて聞いた事ないよ
――当たり前だろ、精霊を暇つぶし道具としてみるやつなんて普通いない。だが俺は普通じゃなかった、それだけだ。
シルファーの呆れてる感情が分かりやすく流れ込んできた。しょうがないあとで行く闘技場のことを考えよう。と言っても魔法の練習と応用方法を考えるだけなのだが。
「ドラン君、聞いていますか? あなたはこの間の大会で優勝して精霊試練の資格の持ち主なのですよ? 精霊の授業くらい聞いておいた方が良いと思いますが」
「いや聞く必要はない。精霊のことなら本人に聞く、伝承や言い伝えは当てにならないからな」
「それでもドラン君もいつかは精霊試練に挑むのでしょう? その時のためにも___」
「それならもう行ってきた。だから言っただろう、精霊のことは精霊本人に聞けば良いのだと」
言ってから気が付いたが少し遅かった。この事は言わないでおいたほうが良かったかもしれない、これからは自重しよう。教室はもともと静かだったが雰囲気まで律儀にシーンと言った。誤魔化した方が良いのだろうか。
ーーあのね、ドラン君? 普通は資格を獲得してから何年も念入りに準備してから挑戦してもほとんど失格になるの。それなのにあなたは資格を獲得してその数日後に契約するというとんでもないことをしたのよ。自分がどれだけの事をしたのかよ〜く覚えておくように! でも言うも言わないも自由だけどね、ドラン君しだいよ!
精霊にも注意を受けた。でも隠さなくて良いのか、でも隠しておきたいから一応誤魔化せるだけごまかしておこう。
「それって、精霊契約をしたっていう事、なの? ドラン君、私びっくりなんだけど?」
「嘘だ、気にしなくていい。つーか気にするな忘れろ」
やはりそれとなく言い回す事やうまく誤魔化したりするのは苦手だ。だが言いたいように言うので良いだろう、恐らく今ので周りのみんなは口には出さずとも契約したと思っているだろうが。
ーードラン君って本当に面白いね! ド直球で気にするな忘れろなんて言うとは思わなかったよ! 私これから楽しくやっていけそうだよ! ドラン君の目標とかも手伝うしさ!
精霊にバカにされた様な気がした。だが世の中自分の言いたいことを言いたくても言えない人だっているのだ、なら言いたいように言いたい事を言える人は素晴らしいと思う。……と思い込むことにした。
「は〜い! 授業終わったよ〜! これから闘技場に行って外部講師の話しを聞きながら実践訓練とかするんだぞ〜! なので皆遅れないようにね〜!」
外部講師とやる前にこの学校の他の教師とでもやれば良いのに、だが顔くらいは覚えよう。
「ドランさん、みんなにはあぁ言ってましたけどもしかして精霊契約出来たのですか?」
キャロンは俺が気にするな忘れろと言った事で本当に精霊契約していないと思ったのか、それともクラス全体がそう思ってくれてるのなら助かるがどうだろう? いやないかキャロンがバカ正直なバカってだけか。
「まぁお前になら良いか。俺はしたぞ、昨日までの連休で契約試練をしてきた、そして合格した。具現化はまだ全然できないが精霊は俺の中にいる」
キャロンは驚きの表情を浮かべた。やっぱりこいつはダメだどう思っているのかも、何を考えているのかも分からん。こいつの能力があれば多少は楽になりそうなのに、疲れる。
「とりあえず行くぞエミールも遅れるなとか言ってたし外部講師とやらは少し気になる」
とだけ言い闘技場に向かった。後ろにはキャロンもついてきた。
闘技場に着いた時には他の生徒ももう来ていた。やれやれこのクラスには優等生が多いのだろうか?
「お、これで全員か! 少し早いが始めるぞ。このクラスにはペアというものがあるんだったな、そのペアで固まって座りな」
やはりこの学校の授業はペアで行動することが多い。全員がペアと隣同士に座り教師の話を聞いた。
「とりあえずこのクラスで一番強いペアはどのペアだ? そのペアと俺とエミール先生のペアで戦いこのクラスの実力を大まかに把握させてもらいたい。で、このクラスで一番のペアは誰だ?」
みんながしゃべり始め、一番のペアを話し始めたのだが、絶対俺とキャロンだろう。
「やっぱり大会優勝者と準優勝者のあの二人だろ?」
「そうだよね? あの二人他の人とは喋らないし本当に別世界みたい」
「というかあの先生の強さが分からないけどもしかしたらドラン一人で倒しちゃったりして」
「お~い。ドラン・ナターシャ君とキャロン・サンドールちゃんで良い?」
「あ、私は良いですよ?」
「あぁ」
魔法の実戦もやってみたいので了承した。キャロンもなにも不満はなかったようだ。
「よし! では、そこのドラン君とキャロンさんだな? よしではすぐにでも始めよう。俺とエミール先生は能力を使わない、教師だからな少しのハンデだ」
とりあえずは俺たちのペアが行う事となったのでさっさとやろう、ハンデと言われたのはむかついたが向こうも自信があるというわけだろう。審判は学級委員になっても何もそれらしい仕事をしていないユーリだった。
「それでは、教師班vsドラン班……始め」
そう言えばエミールが一度も喋ってない、教師が生徒を恐れていいのだろうか? ハンデで教師は能力を使わないと言われてから様子が変わったから能力があれば良いがなくなると自信がなくなるなら能力が強いのだろうか?
「それじゃあ私はエミール先生相手に最近練習してた火属性魔法試しています。 <魔砲炎>」
<魔砲炎>火属性中位魔法、魔力消費が他の中位魔法よりも少ない代わりに他の中位魔法より威力が弱い。その代わりこの魔法に慣れ、熟練度を高めれば威力は他の中位魔法よりも強くなることがある。火属性魔法を得意とする人が使うと威力もその分高くなる。
キャロンが使った魔法はなかなかだった。だがエミールは簡単にそれを避けた。だがそこにもう一度魔法を撃ちこみエミールに攻撃を与えた。エミールもやられるばかりではなく反撃もしている。段々ヒートアップしてきた二人をよそに外部教師と俺は対峙した。
「やぁ俺はイル・イノス隣町の戦闘学院で教師をしている者だ。君は?」
「ドラン・ナターシャ。このクラスで一番強いとされた」
「ふむ、ドラン君か。君は俺とどのくらい張り合えるのかな?」
言い終わると同時に何か変な物が体に纏わりついてきた。体の自由を奪うわけではなく体を重くするという所が地味に鬱陶しい。
「どうだい? この魔法、地味に鬱陶しいだろ! 体の自由を奪うわけではなく体を重くするという所が特に!」
「なんだ貴様俺の思想読むなコラ」
「威勢がいいじゃないか! せいぜい頑張って俺に示してくれ!」
流石戦闘学院で出張にも選ばれる教師だ。中位魔法をガンガン撃ってくる。だが、
「……なに? まさか複数の中位魔法を食らっても余裕とは、これほどとは思わなかったよ。次はドラン君着てみな! 君と戦うのは結構楽しいかも」
「んじゃ遠慮なく。楽しむことは難しいかもしれないぞ?」
イルに忠告らしきことを言ったらすぐに胸元まで一瞬で迫った。
「「……!?」」
イルもこのスピードには驚いていたが俺もかなり驚いた。このスピードにイルの目がついてきているのだから。あれだけ大口を叩いたのだから受け止められたくはない。なのでスピードを出しながら進んでいたが左足を地につけそこを軸として回転し背中側に行きそのままかなりの威力で背中を押し出した。殴って気絶させるよりもインパクトがあるだろう、イルはそのまま闘技場の壁まで飛んでいき衝突した、けがはしたが上手く衝撃を和らげた様で軽症で済んでいた。あれだけの衝撃で軽症はなかなか凄いだろう、気絶やら重傷を負ってもおかしくなかったが。
「ドラン君、君は凄い! 俺はここでギブアップするさ! あとは二対一だ」
「いや、俺はキャロンとエミールの戦いには手を出さない終わるまで見てるさ。って事で俺もギブアップ」
その場から少し離れ座った。エミール対キャロンはなかなか接戦だったようだが、こちらが終わったのに気付いたかお互いの動きが止まった。
凄い衝撃音がした。そちらを見ると男の先生が壁に衝突して倒れていた。ドランさんがもう一人の先生を倒したのだ。それに加えドランさんも何故か戻って座ってしまった。これは私だけで決着をつけろというわけなのだろうか。ならその気持ちに答えよう。
「さてエミール先生? 私だってがむしゃらに戦うだけしか出来ないわけではないんですよ? 私だって負けてしまいましたが決勝まで行ったんですから!」
「そっかそっか! ならあれからどれだけ頑張ってか見せてもらおうかな?」
言われなくても分かっている、絶対に成功する。エミール先生にはまだ一度も見せていないし今までの私を見ていたのなら絶対に予想しないと思う。なら次で終わらせる! 魔法で身体強化をしそのままエミール先生との距離が二メートルくらいの場所まで詰めた、そこで当たっても無害ともいえるほど威力が弱いが地属性魔法で砂や土をかなり濃く出した。先生は目くらましだと思っているだろうが違う、その土砂の右半分だけを水魔法で濡らし地面に落とした、そこから左側から先生の頭を狙い一気に飛び出した。だが頭はフェイク、実際は上に意識を向けた途端、いきなり姿勢を低くし先生の足の間を潜り抜け後ろ首を掴みそこで中位魔法を二発発動した。二発が限界だったが油断した先生には十分だった。
「私は一年生で精霊大会に優勝したドランさんに鍛錬とか技を教えてもらったりしているんですよっ! 私だってそこそこの自信はあるのですよ」
そこで決着はついた。
「そこまで。一人の降伏宣言と一人の戦闘不能により教師班の負け。それによりドラン・ナターシャ&キャロン・サンドールの勝利」
ユーリはしっかり仕事をした。それは良いが問題は教師二人だ、こんなに圧倒的に生徒に負けておいて授業は出来るのだろうか? 教師のメンタルが弱くないと信じよう。
「このクラスはレベルが高いようだね、皆こうなのかい?」
他の生徒は一斉に首を横に振った。そのあとにユーリがイルに言った。
「えっとぉ、この二人は一年生の中でトップ2だと思ってください。最初にペアを組んでいたのはクジの結果で組んだとはいえ今は学校内でもトップレベルのペアだと思います」
「え? そうなんだ、それじゃあハンデなんて生意気なこと言わずにちゃんとやった方が良かったのかな? 失敗したな」
女子能力者ブロックの優勝者の能力は確か認識入れ替え、それは怪しいものを認識した途端何でもかんでも力と速さでぶっ飛ばせば何とかなるから勝てる。ならもしかしたら俺らのペアは学校トップなのかもな。
「さぁどうしようか、こんなことになるとは予想してなかったから……」
なにを迷っているのか、予定通りすればいいのに。それか魔法の授業をしてほしい、授業しなくても良いから魔法の練習をさせてほしい。
「ならこうしよう。ペア同士でお互いに練習を見合う。そして俺とエミール先生が全体を回っていくから聞きたい事やアドバイスが必要なら呼んでくれ!」
なるほどこれは最高の形だ。だが俺たちのペアは良くも悪くもイルに目をつけられてしまった。絡まれたら面倒だな。
「キャロン行くか?」
声をかけ壁の近くで開いている場所に向かうとキャロンもついてきた。
「お前の<魔砲炎>は始めて見た。火属性魔法は得意なのか?」
「はい! 私がドランさんにコツを教えてあげても良いんですよぉ~! なーんてそんな事は――」
「そうだな、頼んでも良いのか?」
笑顔のままキャロンの動きが完全に止まった、そしてその数秒後
「…………へ?…………えええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!」
「なんだ、いきなり止まったかと思えばこれでもかと言うほど叫びやがって、俺らはいつもなぜこんなにクラス中から視線を集めなければならない。そもそも俺が魔法が苦手という事は言っていただろう。それともあれか? 俺が魔法使うのはそんなにおかしいのか」
「いえ、そういう意味ではありません。が、私に頼み事ですよ? 精霊がドランさんの体に寄生し始めると性格まで変わるのですか?」
「何故お前もシルフィーも__」
「シルフィーって誰ですか!!!」
「俺と契約した精霊の名だ。でだ、何故お前たちは精霊契約の事を寄生と表現するんだやめてもらいたい、つーかやめろ二度と言うな俺が嫌だ」
「だって寄生って表現間違って無くないですか?」
――だって寄生って表現間違ってないじゃない!
二人そろってイラっと来る、つーかシルフィーは俺らの会話に入ってくるな。とりあえずは強引に話しを戻して答えを聞いたらOKが出た。いつも教えている側だから教わる側を経験するのは久しぶりかもしれないな、授業は聞いてないし。
それから火属性魔法を教わろうとしたのだが、予測していなかったことが起こった。なんと、火属性魔法は俺の方がうまかったという事実が発覚してしまった。自分から頼んでおいてこれは失敗だな。キャロンは何かすごい落ち込んでいる。
「せっかく、ドランさんに、ドランさんにものを教える日が来たと思ったのに、思ったのに……」
「なんか、悪い事したな、? まずはその変な顔を直せ」
そのあとキャロンが元に戻るまでにかなり時間を使った。それだけで闘技場での授業が終わってしまいそうだった。キャロンが戻った今でも五分程しか残ってないが。周りではかなり練習したのか皆疲れている様子だった、結局魔法はまたの機会という事になった。
「はい! 俺の授業は終わりだ! 今週いっぱいはこの学院に居るので聞きたい事があれば気軽に聞いてくれ! それじゃ、解散」
解散したので俺を含め皆は昼食をとるために教室へ戻ろうとする。その時闘技場の扉がいきなり勢いよく開いた。そこに立っていたのは入学式以来一度も姿を見なかったので存在すら忘れていた学院長だった。学院長は慌てた様子でとんでもない事を言い出した。
「大変だ! 魔族の国の中の一つの国だけだが、いきなりこのガーレリア王国に宣戦布告してきたんだ。その国は魔界インデール王国だ……」
さっきまでがやがやしていた闘技場に緊張が走った。