第12話 最終試練、適性検査と帰り道
そこで目を覚ました。先程の事はしっかりと覚えている。俺が暁 涼という少年になって生活していた、あれは夢だろうか? と考えているとどこからか声が聞こえた。
〈はいは〜い第三試練クリアだよ〜夢の世界はどうだった? 過去の自分、って言っても君の記憶は特殊だったね、あれどこの国?〉
精霊の声だった。ようやく現実に意識が向いてきた。
「それは俺にも分からん、俺は数ヶ月前からの記憶がない、と言うか封印のような風にされている」
〈封印、か、それなら納得だよ。記憶喪失だったらその記憶を読み取れないからね。でも封印は一応頭の中に残ってるから私みたいな特別な精霊様には読み取れていますのだ〜!〉
「そうか、で、あれが俺の過去と言うわけか?」
〈正確に言うと君の過去ではなく君の周りの過去かな? 難しいけど君は今のままで、そして周りは全て君の記憶通りにしたよ! つまり君の行動とその行動に影響した事は全て夢の世界でしか起きてない事だと思って良いよ〜!〉
ではあの世界は俺の故郷、正直この世界とは全く違う。失った記憶がまさかこんな所で判明するとは、だが、人の顔が思い出せない。ここは普通の夢と同じなのか。それと、もしかしたらあの世界の俺は秋 優美を大切に思っていたのだろうか? 訳もわからず大事にしていたしな、記憶から出来た世界だから多少はあの世界の俺の心が入り込んだのだろう。
〈はいは〜い! では最終試練を始めるよ〜! 最終試練は知識の確認だよ〜! 君のライフは残り2、つまり二度間違えると失敗になるよぉ〜! 最初は精霊知識問題10問。最初の方は一般的な精霊知識だから安心してね! では、最終試練、強制スタート!〉
と夢の世界の事について考えていると強制的に最終試練が始まった。
《第一問 精霊の魔力が他の生物の中に取り込まれた時、その魔力はどうなるか》
さっきのうるさい精霊とは別に機械の声のようなものが聞こえてきた。最初の方は一般的と言っていたが学校でも習うような簡単な質問だった。
「その生物に適合した魔力に瞬時に変換される」
《まる。 第二問 生物には各々精霊の適性と言うものがある。適性があっていないとどうなるか》
これは簡単だ。
「精霊の恩恵が大幅に減る」
《まる。 第三問 精霊の適性とは何種類から選ばれるか》
これは優勝した翌日に本で目立った場所に書いてあった。
「4種類」
《まる。5種類でも正解。 第四問 精霊固有魔法とは何か》
その辺に興味を持って精霊契約に興味を持ったからな。
「精霊が一人一つ持つ魔法。精霊と契約者しか使えない特別な魔法」
《まる。 第五問 精霊の進化は可能か》
魔王化があるのだ。
「可能」
《まる。 第六問 精霊は滅ぶ場合があるそれは何をしたら滅ぶ》
これは精霊契約をする際絶対に押さえておかなきゃいけないと思ってた。
「他の生物と同じく根源や魂が壊された時又は他の生物と違って魔力切れでも滅ぶ」
《まる。 第七問 精霊固有魔法と精霊特有魔法の違いを答えよ》
精霊固有魔法と精霊特有魔法については興味を持っていたからもちろん知っている。
「精霊固有魔法は精霊とその契約者しか使えない魔法。 精霊特有魔法は精霊が契約者の元で具現化した時にしか使えない攻撃魔法」
《まる。 第八問 精霊が生き物の根源や魂を取り込むことで成長する理由は何か》
たしか根源の中のなにかだったな。
「根源や魂の中にある魔力を生み出す大切な物、魔種を取り込むことで精霊の体のつくりが少し頑丈になる」
《まる。 第九問 精霊の具現化のサイズは可能か、その状態で契約者とどのくらい離れられるか》
サイズは分かっているが距離は恐らく、
「サイズは精霊が好きに変更可能。距離は契約者による」
《まる。その距離契約は変更可能 第十問 精霊と契約者の主従関係はどうなるか》
クリアした。これはしっかりと把握している。なんせ精霊にこき使われたらたまったものじゃないからな。
「精霊か契約者のどちらかが下に付くと決めた時のみ。どちらも強要は出来ない」
《まる。 ちなみに主従関係が成立しているペアは極少数》
そりゃそうだ。誰も対等な人の下に付きたいと思う人はいないと思うし。極少数と言う事は精霊も同じ考えなのだろう。
〈は〜い。おめでとう〜、精霊の知識はしっかりあるんだねぇ~なら最後は生命知識や一般の魔法、魔術知識問題全五問! 頑張ってねぇ!〉
無性に腹が立つ声だ、仮にこんなのと契約させられたらストレスで死にそうだ。
《第一問 生物の魔力回復はどのように成されている》
これは学校の一般知識だ。
「空気中の魔素を根源にとりこみ魔種に入れ込む、そこから魔力が作られる」
《まる。 第二問 魂と根源の問題。根源が消え、魂のみとなった生物はどうなるか》
これは生命知識か。
「魂のみとなった生き物は魔力や行動力と言ったあらゆるものを失い、廃人と化す」
《まる。 第三問 魂が消え、根源のみとなった生物はどうなるか》
先程とは逆の質問か。先ほどの答えを知っている者なら誰でも知っているだろう。
「根源のみとなった生き物は、魔力制御ができなくなり、自我を保てなくなる。それによりただただ魔法で破壊活動を行う化け物と化す」
《まる。 第四問 攻撃魔法や攻撃系魔術について。同じ術でも攻撃力が変わる理由をそれぞれ3つ以上答えよ》
全てでは流石に時間がかかりすぎるからか個数を指定してきた。
「魔法。一つ目、術者の魔力の量や大きさ。 二つ目、その魔法の熟練度。 三つ目、能力による強化の有無。 魔術。一つ目、魔法陣の正確さ。 二つ目、その魔術の熟練度。 三つ目、術者の人数」
この質問は降雨指定だけしているので簡単に答えればそれで良い。下手に難しいものを選ぶと失敗しそうなのでな。
《まる。 最終問題 神について答えよ》
(……は? なんだこいつ)
いきなりのイレギュラー過ぎる質問に少し驚いた、神と精霊は関係ないように思っていたが。幸い俺はあの金髪白衣の青年に神についてや魔王について、記憶についてと色々聞かせてもらってたので答えられるが、他の者なら教会や宗教にでも入ってない限り答えられないんじゃないか? もしかしたら一般なのかもしれないが……
「神エセール。様々な世界を行き来きし世界の狭間を渡れる空間を超越した存在。そしてこの世界は神エセール自らの手で作られた世界。この世界最多の信徒数を誇るエセール教が崇め奉る神」
《まる。 ただいまを持って、試練者ドランの契約を認める。 ただし、どの精霊にも適性がなかった場合契約資格は没収とさせていただく》
こっちが最終試練のようなものじゃないか。
〈は~い! じゃあ精霊たちの本当の住処に行きましょう! ごめんねぇ~、本当はここ、精霊の住処じゃなくて精霊試験場なのぉ~ 騙しちゃって、ご・め・ん・ね・てへっ♪〉
今日で一番イラっと来た。別にそんな事を騙すのは良いんだが、この試練官らしき精霊がむかつく、何を言ってもむかつく。あとで姿が見えたら何度かぶん殴ってやろう。
「おいそこのバカ精霊、さっさと案内しやがれ、それとてめぇ姿見せろや殴らせろ」
〈いっやぁ~んコワいーー~! 扉開けてあげるからそこ通れば行けるよぉ~!〉
何もなかった壁の部分がいきなり開いた。そこに入ると精霊の住処とは言い難い(というか絶対違う)場所に出た。
〈はっはは~。 ざんねぇ~ん想像してたのと違うでしょ? はっはっは~ここは住処ではなくて精霊の適性検査を行う場所だよ~。真ん中の魔法陣に乗って乗って、ほら早くぅ~!〉
(こいつ本当にうざったい。姿を見せた時は覚えていろよ畜生)
心の中で愚痴を吐きつつも魔法陣には乗った、ようやく契約が出来るかもしれないのだから。魔法陣に乗ったら陣がいきなり光りだした。そしてしの正面には半透明の精霊らしき女の人が現れ、さっきの精霊とは真逆のどこか落ち着くような声で話し始めた
〈それでは、精霊適性検査を始めます。目を積むって十秒ほどお待ちください〉
言われた通りに目をつむって十秒ほどまった。すると困惑したかのような声が聞こえてきた。
〈えっっ、えっっ、こんな結果は初めてですよ、? そのまま帰していいのか……〉
何事かと尋ねてみると、四種類の精霊の適性値が全て0だったらしい。この事例は初めてだそうだ。
普通の精霊契約は適性値70越えの場合に行われる。しかし適性がなかったとしても今までの者に0はなく全員30程度だったのだそうだ。それが今回初めて適性値0が出たのだ、それも四種類全てで。普通この場でどの精霊適性値も70を下回るなら即帰還させられるのだが今回の結果はイレギュラー過ぎるので帰して良いのか分からないらしい。
目の前の精霊が困っているといきなり奥の壁が扉になりそこが開いた。
〈そんな凄い結果が出る人なら私の適正があるかも!〉
開いた場所からモヤっとした何かが出てきてそこから声が聞こえた。目の前の精霊と何やら会話をしていたが聞いているとそのモヤの正体が分かった。恐らくあれは五種類目の精霊なのだろう。さっきの問題で精霊の数を聞かれて四種類と聞かれた時、「五種類でも可」と言ってきたのはこういう事なのだろう。 予想は当たったらしいモヤがこっちに飛んできて喋りかけてきた。
〈ごめんね? 今は姿を見せられないからこんな見た目だけど、私との相性チェックしない? あ、適性検査っていうんだっけ? 私は公にされていない五種目の精霊、他の四種類と違って特に呼び名がないから、「特別体精霊」って呼ばれることになったの。私との相性は皆と悪すぎていつしか検査にすら出してもらえなくなったの。でもそんな時イレギュラーの君が現れたからもしかしてと思ってね? 寂しかったけど私ももしかしたら誰かと一緒になれるかと思って飛び出してきちゃった……〉
この精霊にはなにか事情がありそうだ、だが他の四種類の精霊との適性値が全て0という絶望的な俺からしたら救世主なのかもしれない。なので迷わず検査を頼んだ。するとびっくり、またもや異常な事が起こったらしい。
〈こ、こ、こ、これは凄いです! 過去最大値ですよ! 適性値がなんと、96です!〉
過去最大値が出たようだ。俺には普通はないのだろうか?
〈あら、私たち運命ね! もしよかったら私と契約してくれるかしら? そしたら私、うれしいな、?〉
本人は可愛く言っているつもりなのだろう。だがモヤッとした場所から聞こえるだけなのでラジオにしか見えない。残念ながら可愛いとは思わなかった。だが精霊契約は果たせそうなので取り敢えずは良かった。
「あぁ、こちらからも頼みたい。どうすれば契約出来るんだ?」
〈うふふっ! ありがとう♪ これからよろしくね! で、契約の方法は簡単! こうだよっ!〉
声と一緒に俺の体の中にモヤが入り込んでいった。契約方法はこの魔法陣の中で精霊が契約者の中に入り込む、それだけなのだそう。本当に簡単だった。
(で、どうやって喋りかければ良いんだ?)
――私が具現化してないときは脳内に直接喋りかけるよ! だから思念で私に言いたい事を伝えてね!
なるほど、体に入り込んだままか。だが簡単には具現化はしてくれないだろう。だがそれも時間の問題、か。
〈えぇっと契約はぁ、それと脳内で精霊と喋ることは出来ました?〉
「あぁ、どちらも問題なく出来た」
〈おめでとうございます! 普通ならここで色々と言う事があるのですが……〉
――いい! 早く出たい! 冒険したい!
――脳内で騒がないでくれ慣れてないから余計に響く
「早く出たいそうだ。子の精霊はわがままだな。俺もだが」
〈で、ですよねぇ~。 それでは地上にお帰ししますね。試練用の結界は張られていない元の森にお返しします。それと、また来てくださいね? あなたには聞きたい事も沢山あるのですから! 契約した精霊さんに聞けばここには来れますから! それではまたいつか!〉
はぁ、ここ数分で偉く雰囲気が変わったなこの精霊。もうあの落ち着くゆったり感はないのか。と考えながら光に包まれ視界が染まっていく。視界が戻った時には森に居た。どうやら明け方の様だ。
――なぁ精霊よ、俺が試練を受け始めてどれくらい経ったんだ? まさか夢の世界とこの世界の時間の流れは等倍だなんて事はない、よな?
恐る恐る聞いてみるといつも通り無邪気に語りかけてきた。
――はっはー君が夢の世界で何日過ごしたかはしらないから倍率は知らん! だが君がこの森に入って約二日と言ったところかね!
ふむ、なら明日からまた学校か。キャロンの事もあるが多少自分の魔法も使ってみたい。
――それはそうとー、君の名前はなんて言うんだい? ちなみに私の名は特別体精霊名付けはよろしく!
――初めて聞いたんだが、それも契約条件なのか?
――ん? 違うよ? 私は特別体だから名前がないの! だからつけて!
無茶ぶりだ、名付けなんて初めてする。だがまぁせっかくだから名前くらいは付けてやろう。
――お前の名前か、じゃなお前の名前はシルフィーでどうだ
――オッケー! 私の名前はシルフィー、気に入った! 今日から私は特別体精霊シルフィー!
あっさり決めたなこの精霊。でも俺もこの名前は良いと思った。自分のネーミングセンスが救いようのないくらい悪かったらどうしようと思ってたので良かった。しかしシルフィーと言う名前が付いたのに特別体精霊というのは付きっぱなしなのか。
その後も森を歩いて町の方に向かっていると一人の男の子が膝をついて倒れていた。見ればまだ十三歳ほどだろう。こんな明け方にこんな場所でこんなボロボロになっている、何があったのだろう。声を掛けるか迷ったが無視してはいけない様な気がしたので一応声を掛けてみた。
「おい、こんな時間にこんな場所でこんな時間に何をしている。そんなにボロボロになっているが」
「あ、ちょっと家の事で……」
「まぁ言いたくないのなら言わなくてよい。だが家族内だけの問題かもっと大きな問題かだけ教えろ」
「……家族の宗教の問題です…………」
家族が宗教に入っておかしくなったと言う事か? それは俺が気にすることじゃない。なにかでかいものがこの辺で動いているのだろう。
――なぁシルフィー、俺って今回復魔法使えるのか? 使えるなら実験がてら試してみたいのだが。
――あはは、君ってば知らない人を実験に使うなんてすごいこと考えるね、えっと、私の名前付けてもらったのに君の名前聞いてないじゃん! 教えて教えて!
――俺の名はドランだ、ドラン・ナターシャ。 せっかくの実験のチャンスなんだ使えるものは使う、それが俺だ。
――ドラン君だね! 考えが危ない気がするけどまぁ回復魔法は君の記憶や僕との融合魔力で十分使えるよ!
そうか、つかえるか。なら使ってやろう。タダで怪我を直してやろうか少年。感謝しろ。
「とりあえず回復魔法をかける」
そう宣言をし、俺は少年に手をかざした。すると少年の傷跡の数々が光りだし光と一緒に傷が消えていく。回復魔法は成功だ。
「ほら直ったぞ、家に帰るのか?」
「ありがとうございます! 疲れまで直ってしまいました! 憂鬱ですけど帰ります! また会ったら何かお礼をさせてください!」
ふむ、元気になりすぎだ。だが魔法とは良いものだ。俺の能力で強化したいが回復魔法はどうにもならん。今度適当に実験してみるか。
――凄いねドラン君! 回復魔法使ったの初めてだよね!? それでそんなに使いこなせちゃうんなら練習すれば中級魔法、いや、頑張れば上級魔法まで使えちゃうかも! 普通は魔法が使えない人が精霊契約したら中級魔法を使えて凄い方なのに君は色々と抜けてるねぇ~
――そうか、そんなもんなのか。俺には常識は通用しないらしいな、こんなことは今日初めて思ったが…… そんな事は良い、俺の家に行くぞ。お前も知っておけ我が家を
――そうだね! 楽しみだぁ!
と、精霊ともすぐに打ち解けたので家に帰ることにした。