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七 鍵はお尻の穴に入れた

 たった二杯でダンベールは酩酊してしまったの?

 彼は懐から取り出した薬らしきものを一気に煽るとすくっと立ち上がり、それからなんと、服を次々に脱ぎ出し始めたのである。

 ジャケットを放り投げ、シュルっとベルトを解くとズボンも脱ぎ捨て、そして、白いシャツをボタンが飛ぶのではないかと言う勢いで体から剥いだ。

 残っているのは肌着にズボン下だが、彼はそれも無頓着な様子で脱いでしまうと、もそもそとベッドに潜り込んだのだ。


「な、なにをなさっているの!」


 彼は横向きでベッドに潜り込んでいるので、私から見えるのは布団の盛り上がりと彼の後頭部だけだ。


「ああ、今回は君の勝ちでいいよ。ネックレスはどっちを返して欲しいのか明日の朝まで決めて置いてくれるかな。俺は寝る。熱が出て来たらしい。」


「そう。」


 私はダンベールの脱ぎ捨てていた衣服を拾い集めていた。

 部屋の鍵を見つけるのだ。

 そして船室を出たら真っ直ぐに船長のもとに行って掛け合い、ダンベールから離れていられる部屋を確保するのだ。


「部屋の鍵は俺の尻の穴の中だな。隠し場所には最適なんだよ。」


「あ、あなたはどこまで下劣なの!」


「やっぱりお上品ぶっているだけか。君は男と一緒の部屋が死ぬほど嫌だったんじゃないのか?ここで諦めるのか?熱の出ている俺は動かないでいてあげるよ。」


 私は頭のどこかがブチんと切れた。

 ダンベールの服を一応は皺が付かないように部屋に備え付けのクローゼットに片付け、そして、私もワンピースを脱いでシュミーズ姿になるとワンピースをハンガーにかけて片付けた。

 一枚しか服が残っていないのならば、出来うる限り汚したく無いではないか。

 それから、彼が酒と一緒に持って来たタオルを取り上げると、ベッドの布団の膨らみにまで歩いた。


 深呼吸を一回。

 もう一度。


「よし。お医者さんごっこだと思えばいいのよ。飼い猫のウンチを触った事もあるでしょう、わたしくしは。」


 私はダンベールの尻のある位置に手を布団の中に突っ込んだ。

 クスクス笑いが聞こえるが、この笑いをしくしく泣きに変えて見せるという意志で私は彼のお尻へと手を伸ばした。

 私の指先は最初に臀部の柔らかい場所に触れた。

 男の肌でもお尻はビロードのように滑らかなのだと知った事で、羞恥心を押しのける形で好奇心の方が私の中で首をもたげた。

 彼が布団に潜る時に見えたお尻。

 女性と違ってえくぼがあるきゅっとしたものだった。

 私の指はそのえくぼを捜し始めたが、一分もしないでぎゅうと手を掴まれて探索は終了した。

 私の手を握る彼の手はとても熱かった。


「動かない約束ではなくて?」


「ごめん。くすぐったくて死んでしまいそうだ。お詫びにネックレスを二つ明日返すよ。それで今夜は許してくれ。」


「わかったわ。では手を放してくださる?」


「君の手は冷たくて気持ちがいい。」


 彼は私の手の位置を変えた。

 引っ張られて私は彼の背中に上半身をぶつけてしまった。

 布団がめくれて裸の背中に私の額が当たったが、彼の背中はとてもとても熱かった。まるで火山のマグマのようだ。


「大丈夫?お医者を呼んできますわ。」


「冷たい君。俺を背中から抱き締めて俺から熱を冷ましてくれ。」


「な、なにを言って。」


「君はここから出られない。それなら俺と一緒に布団で寝た方が良いよ。今日の俺は病人で何もできないからさ。大丈夫だよ。」


 どうして私が彼の言う通りに動いたのか。

 彼の声から俺様の雰囲気が消えているから?

 いいえ、私はほんの少しだけ彼のお尻を撫でまわした事で、持っていなかった愛情らしきものが芽生えてしまっているのに違いないのだ。

 生まれたての猫を撫でたら、もうその子の虜になるものでしょう。


「いいえ!虜に何てなるわけ無い!お尻を触ったぐらいで。」


「は、ハハハハ!君は!いいよ。俺と一緒に寝るのなら、俺の尻は君のものだ。」


「もう!どうしてそんなにわたくしと一緒に寝たいのよ!」


「何もしないでいい相手と寝たいからだよ。」


「え?どういう意味ですの?」


 意味が解らないと彼を見返せば彼は本気で寝てしまったのかびくりとも動かなくなり、一瞬で眠れる彼を羨ましく感じながら私は彼の言うとおりにした。

 右手は彼に掴まれているままなのだ。

 私は彼が言った通りに彼の背中に貼り付くようにして身を横えた。

 気が付けば右手は彼から手放されていたが、私は彼を後ろから抱き締める様にして右手を彼に回した。

 私が触れた彼の胸から鼓動が手の平に伝わり、その鼓動の響きが私になぜか安心感を与えてくれた。



――何もしなくていい相手と眠りたい。



 ただ一緒に横になっているだけなのに、こんなにも安心感と幸福感を感じるのは何故なのだろう。

 犬や猫が仲間同士で団子になっているのは、こんな気持ちを感じたいからなのかしら。

 でも、嫌ってた相手に安心感なんて抱くなんて、私はやっぱり外見どおりのふしだらな女なのかしら。

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