おまけ 俺は男爵様になりましたので
全く、イレネーの冷血漢ぶりには頭にくる。
奴に蹴られて転がされたがために、俺の制服は泥まみれだ。
今夜はイゾルデと婚約者としてワルツは絶対に踊るつもりであったというのに、全くどうしてくれるのか!
俺はベネディクトの制服を借りようと彼の執務室のドアを開けた。
真っ白のシャツにズボンがずり下がっている姿の男性と、真っ赤な踊り子にも見える派手なドレスを腰近くまで引き下ろされての半裸の女性がソファの上で転がっており、二人は俺の到来に本気で驚きソファから落ちた。
「うわあ!急に何をするんだ!鍵は掛けてあったはずだろう!」
「きゃあ!ど、どうしてここに!」
「あ、俺は何も見てはいないから続けていてください。俺はあなたの制服を借りに来ただけで。あ、鍵は開いていましたよ。俺の前で閉じていられる鍵なんて、この世に存在しませんからね。」
ベネディクトは俺の特技を思い出したか、忌々しそうに髪をかき上げた。
ここで大声を出して俺を怒鳴りつけない所は、俺が本気で称賛している彼の素養そのものであるが、実は俺を怒鳴りたいのに我慢する時のベネディクトの表情が大好きなだけだったりもしている。
「……私の制服をどうするつもりだ?」
「え?着替えですよ。見てわかりませんか?俺はイレネーのいじめで泥まみれなんです。勲章外して階級章を取り換えれば使えますんで、お借りしますね。」
「勲章を外さないでくれ。そんな事より君は今いくら払える?」
「何ですか?新品の制服があるから買えと?」
「いや。男爵位を売ってあげます。君も今日はダンススーツを着てデビュタントになりなさい。それなら制服はいらないでしょう。」
男爵位は金さえ払えば買えるという代物だが、爵位というものだから、それはそれで値が張る商品でもある。
「俺は金が無いですよ。」
「あるでしょう。隠し金が。」
言い切って見せた王子に対し、俺は皮肉そうな笑みを返した。
「本当にあなたは素晴らしき上司で王子様ですよ。俺は女房には産めるだけ子供を産んでほしいので、俺の金蔵を空にはしない程度でお願いします。」
「全く、君は。私とミラベルの行為を内緒にしておいてくれ。」
俺はにっこりとベネディクトに微笑むと、彼が外していたカマ―ベルトと脱ぎ捨てていたジャケットを拾い上げた。
「では、支払いは秘密の共有という事で。」
「おい!私のジャケットとベルト!」
「俺はダンススーツ持っていませんもの。あなたは他にも持っているでしょう。」
「全く!ああ、いいよ。貸してあげます。さっさと執務室を出て行って。」
「ありがとうございます。」
俺は俺には少しきついジャケットを羽織り、カマ―ベルトを腰に巻きながら、俺の婚約者が集められているだろうホールに意気揚々と歩いていた。
一応この後にベネディクトとミラベルは急いでホールに向かいます。
ベネディクトはダンベールにジャケットを奪われ、ミラベルはベネディクトによってドレスを皺くちゃにされている状態なので、二人ともすぐに着替えられるスーツになっていた、という事です。
では、先に出ていたはずのダンベールの登場が遅かったのはなぜか。
髪の毛を整えに寄り道していました。
という、時間枠です!
皆様、お読みいただいてありがとうございました。




