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四 だって休暇中だもの

 船医は俺に死ねという顔を見せた。

 イゾルデが俺の最高の敵手として頑張ってくれるらしいと、俺が嬉しさに治療中ずっと笑っていたからかもしれない。


 あれじゃあ、あの童貞王子はひとたまりも無いだろう。


 派手派手しい外見のくせに、彼女の振る舞いは無垢な少女そのものだ。

 そして、この、噛みつくという攻撃。

 ああ、なんて可愛いんだ。

 ハハハ、この俺こそ彼女が哀れな乙女に見えて、一瞬でも彼女に騙されるところだったじゃないか。


「フォーン少佐?あなたはフォーン少佐なのですよね?」


 俺の指に包帯を巻きつけ終わった船医は、口調は冗談めいていたが俺を諫めるような目でじっと見つめて来た。


「ああ、そうだよ。休暇中のね。ドクター、あなたは何が言いたいのですか?」


「本当に休暇中ですか?これはかなり深い傷でしたよ。噛んだ方はあなたの指を噛み千切るぐらいの勢いですね。敵兵か暴徒か、この船にあなたが秘密裡に制圧しなければいけないぐらいの犯罪者でも乗っているのですか?」


 白髪頭の船医は俺を冷静な目で見据え、俺は彼を安心させるために更なる笑顔を返した。


「言いましたよね。一緒に乗った可愛い女の仕業だって。あははは。この船が次に寄港するまでに俺に彼女が落ちたら俺の勝ち、彼女が俺に屈しなければ彼女の勝ちなんですよ。これは、ええ、どっちにポイントが入ったと思います?」


 船医は本気で俺に死ねと言いたそうな顔を再び見せた。

 その顔には医務室に次に来ても治療しないからな、という脅しも含んでいた。


「おお、怖い。」


「ふざけるのも大概にして下さい。この船には高貴なお方が乗っていますからね。あなたが問題を起こされたら船長がとっても困りますし、あなたの主君だってもとてもお困りになられるのでは無いですか?」


 俺は本気で驚いていた。

 うちの主君という王族様が困る相手と言えば、ブリュッセン公爵様ではございませんかと、奴が来ていたのかと驚いたのだ。

 王様になりたい病を発症中の無能男だ。


「ブリュッセンか?あの人がこの船に乗っていたのですか?」


「あなたは一応でも近衛の人なのですから、公爵を敬う言い方をされては如何です?誰が聞いているのかわかりませんよ。」


 俺はおしゃべりな自分の口元を押さえた。

 今日の俺はハイすぎる。

 酒もまだ飲んでいないのに、酩酊しているかのように気分が良いのだ。

 と、ああ、酒だ。

 イゾルデに酒を飲ませてみよう。

 酒に酔って互いに打ち解けるのも面白そうだ。


「では、俺は休暇中ですので船室に戻ります。」


「待って。薬を渡しておく。」


 医者は俺に三角に折られた小さな薬の包みを俺の右手に落とした。


「何の薬ですか?」


「痛み止めで解熱剤だよ。噛みつかれての怪我は犬猫からによるものでも、獰猛な女からなら尚更に、高熱を呼ぶ可能性が高いですから。少佐殿の頭は既に沸騰しているようですけどね。」


「ハハハハ。確かに。」


 俺が船医にウインクをして見せると、彼は嫌がらせの様に大きなため息を返してくれた。俺は笑い声を上げながら医務室を出て、この沸騰した頭のままふらふらと強い酒を求める旅に出た。

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