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三十九 ドレスを作ろう

 ダンベールは私のお金とシャロン達の作りかけのドレスを奪い返してくれただけでなく、見覚えのあるお針子二名を連れての凱旋だった。


「マダムパニュアンに馘にされたって言うんでね。やっぱりドレス製作には専門家の腕があった方が良いでしょう。」


 私はダンベールに、最高の贈り物です、と言って抱きついていた。

 実は私達四人組は、裁縫はそんなに得意ではない。

 ええと、裁縫も、かしら。


「ねえ、イゾルデ。俺はすっごく嬉しいけどね、周囲の、目。」


 私はダンベールの胸から顔をそろそろと上げて、周りを恐る恐る見回した。

 シャロンもエマもアデールも、目を大きくして私を見ている。


「え、ええと。その。」


 私はダンベールから慌てて離れた。

 すると、シャロンは右手で目元を隠して、ストップという風に左手を掲げた。


「よろしくてよ!ええ!わたくしは何も見なかった。ああ!羨ましいと思ったけれど、何も見て御座いませんわ!仲良くなさってもかまいませんわ!」


 アデールもシャロンの真似事をした。


「そうですわ!羨ましいと思いましたが、ええ!私だって何も見ておりません。」


 そこにエマも参戦だ。


「その通りですわ!麗しのダンベール様にそのような事が出来て羨ましいと思っても、友の幸せ、わたくし達が何を咎めましょう。」


「え、俺が麗しなの?あ、そうか。俺は抱かれたい男だっけ?」


「よ、余計なことを考えなくともよろしくてよ。」


「わかった。余計なことを考えないよ。」


 ダンベールは一歩前に出ると、ばっと両腕を開いた。


「さあ!君達も抱きしめてあげよう!」


「それ余計な事!それこそすっごく余計な事よ!」


 しかし、私の抗議など空しく、友人達は悲鳴のような歓声を上げてダンベールの腕の中にぎゅっと三人納まってしまった。


「まああ!これがフォーン少佐の胸板ですのね!エマ、アデール、筋肉って素晴らしいですわね。触ってごらんなさいましよ。」


「まああ!フォーン少佐は何をつけていらっしゃるの?良い香りがするわ!ほら、エマ、シャロン、嗅いでみなさいな。」


「まああ!腕もたくましくていらっしゃるのね。でも綺麗な腕でございますわ。お父様みたいに太くてもぶよぶよされていない。美しいばかりですわ。そう思いません事?アデール、シャロン!」


 シャロンもアデールもエマもここぞとばかりにダンベールのそこ等じゅうをベタベタ触りはじめ、ダンベールは数秒で私に助けてほしいという視線を送った。

 もちろん、友人思いの私は、彼に唇を尖らせて見せただけで彼を助けてはあげなかった。



 さて、そんな私達であったが、デビューの日は近づいてきている。

 ダンベールデザインのドレス製作に、すぐにでもかからねばいけない。

 お針子が二名しかおらず、私達は裁縫が得意じゃないのだ。

 そこですぐにもと、私達は全員で衣装製作用の部屋に移動した。

 ダンスホールだ。

 布を大きく広げられる場所としてダンスホールは最適であるし、そこにドレスを縫うためのスペースと採寸や試着の出来る小部屋を衝立で作れば、ドレス屋のような空間を作り上げられるのだ。

 執事がミシンもあると小間使い達に運ばせてきたが、そのミシンにはお針子達の方が喜びの悲鳴をあげた。


「明りも沢山あって、おまけにミシンまで。ああ、マダムパニュアンのお店よりも待遇の素晴らしさに涙が出ますわ。」


 私達よりも少し年長らしきロザリーは涙を流していた。


「ええ、ええ。お給金も頂けて。ええ、頑張りますわ。お嬢様達の成功の為に最高のドレスになるように縫わせていただきます。」


 ロザリーと同じ年ぐらいのアンナは涙目で胸を張った。

 以前の暮らしのせいで二人はとても痩せており、だが頬は生来のものかぷくっと丸みを帯びていて可愛らしい顔立ちだ。そしてそんな顔立ちは言うに及ばず、明るい茶色の髪色から目の色まで彼女達はよく似ていた。


「いいえぇ。従姉妹です。まあ、姉妹みたいに仲がいいんで、アンナと一緒に首都に出て来たんです。裁縫が大好きで二人で服屋を持つのが夢だったんです。」


「でんも、騙されたねえ。住み込みだから部屋を借りなくていいって喜んでいたら、住み込み代を引かれてさあ。住み込みだから毎日のように徹夜だった。」


 マダムパニュアンは彼女達には住み込みだからと雀の涙ほどの賃金しか渡さず、彼女達の考案したデザインを自分のものだと奪ったりもしていたそうだ。


「今回の事は、ええ、あたしらのせいに全部されましたが、あれも全部マダムパニュアンの指示なんです。純粋なお嬢様方に三種類のパターンしか見せないでしょう。それこそが詐欺みたいなもんです。」


「そうなんですよ。三種類という事で布もレースも大量に同じものが買えるでしょう。そうすると仕入れ値がグンと安くなるんです。同じ店だから似ているのは当たり前。そこを騙すのがあたしらの仕事で、レースを増やしたり、リボンを増やしたり。その増やした分がまたお嬢様達からいただく代金に上乗せされるわけで、本当に辛かったです。」


 アンナとロザリーの裏話に、私は乙女としてぞっとした。


「まあ!それではわたくし達はお揃いがいっぱいだったという事ですのね!」


「そうだね。でもまあ、これからは俺デザインだし。ふふ。」


 ダンベールは一人長椅子に優雅に座って本を開いていた。

 ああ、隣に座りたい。

 でも、お人形がいる!

 私はダンベールのところに行くと、ジョゼフィーヌを抱き上げた。

 本当の名前がルルでもルリファでも、私にはどうでもよい。

 そこは私の場所なのだ。

 ダンベールは私にどうしたのという風に、彼の形の良い眉、右の眉だけを器用に動かして見せた。


「この子にも私達と同じ服を着せてさし上げます。よいこと?あなたも新しい服が欲しければふらふら動いてはいけませんよ。」


 人形を抱いてアンナ達のところに戻り、彼女達に人形を差し出した。


「お嬢様?」


「この子にも同じドレスを作って下さる?追加分は支払います。」


「え、ええ。よろしいですけど、まあ、お綺麗なお人形。お嬢様のお人形様でいらっしゃいますか?」


「いいえ。少佐のお人形よ。浮気相手なの。」


 お針子たちは目を白黒させて対応に困っていたが、長椅子のダンベールは腹を抱えて長椅子に転がり、そして、あらいけない、シャロン達はあからさまな憧れの視線でダンベールを見つめているじゃないか。

 もう!

 どうしてダンベールはそこにいるだけで誰もの目を惹いてしまう人なの!

 て、ああ!笑うダンベールの腕の中にいるのは、クマさんじゃないか!

 もう、この泥棒猫!

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