二十七 兄によるお膳立て
夕食時に兄がダンベールに宣戦布告をしてきたと言い出した。
「お兄様!宣戦布告って、決闘でもされるのですか!」
「いいや。銃や剣の扱い、および体術で私が彼に勝てるとは考えていないよ。あれは戦場の申し子らしいからね。だから、私は社交という彼のもっとも苦手とする分野でのクエストを与えた。」
「それは何ですの?」
「君との三か月後の結婚準備だよ。もちろん。準備できれば君は奴の妻になる。出来なければ奴は無駄金と労力を使っただけの間抜けになる。まあ、確実に散在する間抜けになるね。馬鹿な男だ。どうしてそれなりの家が結婚まで一年ぐらいの婚約期間を設けているのか考えればわかるはずだ。」
「ひどいわ。」
「ひどくない。君を三日も泣かせたんだ。君の一日は奴には一か月に値する。よって、三か月間は苦しませる。」
「もう!でも良くってよ。では三か月後に私はお嫁に行くのね。お母様!ドレスは間に合うかしら。ドレスだけは花婿が選んではいけないものですものね!」
母はうふふと笑い、私の手の甲をつんつんと指先で突いた。
これは、良い子ね、という意味と、注意して、の二つの意味がある。
どちらかしらと母の顔を真っ直ぐに見ると、母の瞳は父の方を見ろと言う風にぐりぐり動いていた。
まあ、父はぐすりと半泣きで鼻を啜っている。
「お、お父様!」
「僕は君をまだ手放したくはないのに。」
「父上。そこも大丈夫ですよ。あいつに渡した書状には、結婚後は妻の為に妻の実家に同居するべしと書いておきました。これで奴がいつ死んでもイゾルデが寂しくはありませんし、イゾルデが獣に蹂躙される事もありません。」
父はイレネーの言葉を聞くや、パッと顔を輝かせた。
「そうか!流石だ!イレネー!君は本当に自慢の息子だよ!」
「ありがとうございます。」
「なあ、良かったな、イゾルデ。イレネーのお陰で、君は安心して結婚をする事が出来るじゃないか。厭らしいことをされたらお父さん達の部屋に逃げてきなさい。お父さん達があの男を叱ってあげるからね!」
散々厭らしい事をされてそれを求めてもいる私は、私を純粋無垢だと信じ切っている父と兄に乾いた笑いしか返す事が出来なかった。
そして、一番大事なことを思い出した。
「私は婚約しているって事なの?では明日には新聞に婚約発表をして頂けるのかしら?」
兄はあからさまにしまったという顔をして、それから父と顔を見合わせた。
あ、絶対に結婚させる気は無かった様子だ。
つまり、この先ずっと私の婚約が新聞の社交欄に載ることも無いという事ね。
きっと兄の差し出した指令書に怒ったダンベールが、私に駆け落ち婚を持ち掛けたところで終了の宣言をするつもりだったのかもしれない。
だとすると、今夜か明日の夜にはダンベールが押しかけてしまう?
どうしよう。
その可能性だけで私の心臓がドキドキと大きく鼓動を立て、彼に触れられた事もある下腹部の恥ずかしい所がしゅんと別の生き物のように感じてしまった。
まあ、私ったら。
そこで、自分の身体によって自分への疑問が湧いてしまった。
私が彼に会いたいのは彼を愛しているから?
もしかして、彼に厭らしい事をされたいからの方が強いの?
だって、彼の指はとっても刺激的で気持ちのいいものだったのだ。
彼の腕の中でそのまま熟睡してしまう程に。




