表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/52

二十二 王子様!お願い!

 わが国では第二王子が近衛連隊長の任につくという慣例によって、第二王子であるベネディクトは戦歴も無いのに大佐で俺の上司である。

 ベネディクトはブリュッセンと親族だとよくわかる金色というよりもクリーム色の髪色と、母親のファーレン伯爵家由来の猫目石のような瞳を持つ。

 俺はその瞳は女を落とすに最高だとも思うが、彼は薄い色の入った眼鏡をかける事でその瞳の効果を台無しにしている。


 まあ、それには可哀想な理由もある。

 数年前に汽車の脱線で敵陣に車両ごと突っ込んだのだ。

 彼は車両が横転した時の怪我によって視力をかなり落としたが、失明もしなかったのだし命も失わなかったのだから、眼鏡を一生かける事で済んで幸運と考えるべきであろう。


 ちなみに、俺はその時に彼を敵陣から救出した手柄により近衛に召し上げられて現在に至る。


 さて、俺は第二王子の執務室に入り彼の机に魔法葡萄の宝石箱を置いたのだが、常に俺によって助けられている第二王子は、休暇中なのに働かされた俺に対してねぎらいの言葉一つよこさなかった。

 いや、ありがとうは貰ったか?

 俺は他の言葉も欲しいと机の前に立ったまま待っていると、ベネディクトは嫌そうに机から顔を上げた。


「どうしたのです?他に何かあるのですか?」


「俺は休暇を潰されたのです。休暇の延長を要請させてください。」


「それは構わないけど、休暇中にユーフォニア伯爵家には近づかないように。」


「婚約者に会いに行くための休暇ですけれど。」


「婚約していないでしょう。」


 王子は俺の存在を無視しようとするように再び書類に目を戻し、俺は彼が全て知っている事に大きく舌打ちをした。

 あの金髪が俺の先にベネディクトにご注進でもしたのだろう。


「フォーン少佐。私は一応は王子様なのですけどね。無礼じゃありませんか?」


「ああ、申し訳ありません。舌打ちはあなたではなく、自分の境遇に対するものです。いや、生まれてくる俺の子供へのものかな。」


 ばきっと、ペン先が折れる音が小さく響いた。

 ベネディクトは虫を見つけたような目で俺を見上げて来た。


「君は、何もしていなかったのでは無かったのかな。ああ、ハルファム子爵の嘆願どおりに君を銃殺するべきって気がしてきたよ。」


「ハルファム子爵?ああ、そういえばたかが子爵にブリュッセンもびびってましたね。確かにあの気性はビビりますけど、たかが子爵でしょう。どうして王子のあなたがそんなにもあの金髪を気になされるので?」


「――。彼のお母様はフォルトゥーナ侯爵の娘じゃないか。」


「ただの侯爵でしょう?」


 ベネディクトは厭味ったらしい溜息を吐いて見せた。


「彼は私の大叔父になります。つまり、私の祖父の弟ということです。侯爵や公爵の爵位を持つ者は大体が王家由来の人達だと認識してください。」


 俺は再び舌打ちをしていた。


「フォーン少佐。私こそ王子様なのですけどね?」


「申し訳ありません。ただいまのは自分のしがない境遇に向けてのものでした。」


「……。いいですよ。許しましょう。あなたがそこまで女性に執着するのは初めてですからね。」


「そうなんですよ。もう、目を瞑れば俺の上に乗っている姿を想像してしまいましてね。あいつは最高ですよ!」


「今すぐ、銃殺しましょうか!人目のある所で散々に令嬢を弄んだそうですね!あの船に何人爵位持ちやそれに連なる金持ちが乗っていたと思っているのです。」


 俺は今初めて後悔していた。

 俺は甲板での夜、艦橋から俺を睨む金髪野郎と腕の中の可愛いイゾルデにしか注意を向けていなかったのである。


「やっば。周りをぜんぜん見ていなかった。可愛く身もだえるイゾルデを衆目に晒してしまったという事か!ああ、失敗だ。」


「君が失敗ですよ。ちょっと今すぐ絞首台に乗せましょうか?」


「初めての子に父親と名乗れないらしいですからね、いいですよ。」


 ベネディクトは俺をじっと見つめ、すでに筒になってリボンをかけられている書状を俺に差し出した。


「はあ、嫌だが仕方が無い。これをユーフォニア伯爵に渡してください。そこで、今後を話し合ってください。いいですか?私の使者として伺うだけですからね。これ以上伯爵家をスキャンダルに巻き込むような振る舞いは止めてくださいよ。」


「念押しだなんて、あなたの信頼が無いって悲しいですね。」


 真っ直ぐに俺を見つめていたベネディクトは、片手を目がしらに当てた。


「君に助けられたのは一生の不覚。ただし、いざという時は君にしか頼れないというこの身の上の情けなさよ。」


「殿下。もうすぐご結婚でしょう。服を脱いだ婚約者様でも思い浮かべてハッピーな気分でいましょうよ。上が暗いと下がどうしていいかわかりませんからね。」


「そうですね。君がこれから休暇を取って姿を見せなくなりますものね。一週間は幸せだと今から噛みしめる事にします。」


「なんだ、俺がいなくなって寂しいって事ですか!」


「違う。ちがうが、ああ、心配だ。わかった、私が伯爵家に行きます。あなたは私の警護としてついて来なさい。あなたをたった一人で伯爵家に放流した時の方が危険です。」


「ハハハ、信用がなくて残念ですよ。」


 あなた様には玄関口で書状だけ奪ってさようならは出来ませんからね。

 俺を伯爵家の中に入れてもらわねば。


「玄関で追い払われたら、君は窓から令嬢の部屋に突撃するでしょう。」


「ハハハハ!それができませんでね!母親が添い寝しているベッドには近づけませんて!あの金髪野郎は陰険ですね!」


「全く君は!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ