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二十 彼を怒らせたら駄目だ

 俺は俺のイゾルデを侮辱し始めた二人が許せずに立ち上がりかけたが、俺に先程まで殺気を浴びせていたイレネーの方が早かった。

 イゾルデを指さして小間使いの詐欺師だ下賤の女だと言い出した二人の真ん前に彼は出ると、王様よりも高慢ちきな目線で二人を無言で散々に見下した後に、痴れ者が、と言い放ったのだ。

 俺の腕の中のイゾルデが、ヒューと小さな変な悲鳴を上げていた。


「はあ?わたくしの妹だと?こちらの方が?初めましてですね、お嬢さん。わたくしこそ次代ユーフォニア伯爵となるハルファム子爵と申します!おうや、公爵様。あなたはわたくしこそイレネー・ユーフォニアではないと申し上げられますのでしょうか?これは悲しい!先月の観艦式でお会いしたばかりではございませんか!」


「いや、ああ、子爵、すまなかった。いや、あの、これは、それは!」


 公爵は見るからに慌て始めたが、イレネーは公爵など相手にしていなかった。

 彼はジェイニーこそターゲットに定めたのだ。


「女、お前が我が妹なのだと言い張るのであらば、家名を汚したものとしてここで銃殺して海に落とす。」


 俺の腕の中のイゾルデは本気でガタガタ震えた。


「だ、大丈夫だ。君を銃殺させない。」


「そ、そうね。まずはあなたからでしょうからね!」


「あ、そうか。俺からか。よし、逃げるか?」


「どこに?」


「泳いで逃げよう。陸に上がって最初の教会で式を挙げるぞ。そうすれば俺の命は安泰だ。」


「あなたの命だけですか?」


「夫が死ななきゃ妻を守れるだろ。」


「そうよ!あたしは伯爵令嬢じゃないさ!でもねぇ、不細工で伯爵令嬢に見えないあの女が悪いんだよ。ぜんぜん令嬢に見えないのに、あたしと同じ名前だからって、ああ、あたしが召使だからってあたしの名前を奪ったんだ!どうしてあたしがジェイニーなんだよ!あいつこそジェイニーという名前がふさわしいじゃないか!安っぽい酒場がお似合いの不細工女さまにはさあ!」


「あの、アマ。俺の可愛いイゾルデこそ清純美人だろうに!」


 俺はジェイニーに言い返したいと立ち上がりかけたが、俺を下に引っ張る者がいて立ち上がれなかった。

 イゾルデだ。

 彼女はこれ以上ないくらいに顔を真っ赤にして、なんと涙まで両目に浮かべて俺が立ち上がらないように両手でしがみ付いているのだ。

 俺は立ち上がることはすんなりと諦めて、可愛いイゾルデを抱き直した。


「よしよし。寒いか。俺が温めてやるからな。」


「美人って、それも清純までつけて言ってくれてありがとう。」


「何度だって言ってやるよ。お前は最高の美人で純な女だ。」


 イゾルデは俺に抱きついただけでなく、俺の胴体に自分から腕を回すという初めての行為をしてくれた。

 一方的に抱くのも楽しいが、抱かれる事の心地よさよ!


「ああ、君は本当に可愛い。今ここで俺のものにしてしまいたい。」


 ダン!


 俺とイゾルデは銃の音にイゾルデの兄へと数分ぶりに視線を動かした。

 銃を出した子爵様は、ジェイニーの足元近くの床に穴を空けていた。


「銃で撃ち殺すのは弾の方が勿体無い。はっ、美人?私の妹よりも美人?女神よりも自分が勝っていると言った女は、神の怒りで化け物に変えられるのが習わしです。その自慢の美人だという顔、焼いてしまいましょう。」


 イレネーはジェイニーの後頭部をグッと掴んだ。


「さあ、厨房に行こうか。腐った心も顔と一緒に焼き尽くしましょう。」


 俺に抱きついているイゾルデは再び本気でガタガタ震え、俺も実はやばい男から逃げてしまいたいと海の真ん中で逃げ場を捜して視線を彷徨わせていた。

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