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十七 人目があろうとなかろうと

 私達は別の船に乗せ換えられている。

 乗っていた船は船底に穴が空いたらしく、沈没する一歩手前だったらしい。

 けれど、すぐそばを航行していた軍船がいたことによって私達は救助される幸運を得る事が出来た。


 そういう事にしておこう。


 海軍元帥の大叔父の命令で客船に魚雷が発射されたのかもと、それが私のせいかもしれないと想像する方が恐ろしい。

 とりあえず、乗せ換えられたこの船は軍の高速船なので、一日もあれば私達乗客は首都の港に戻れるだろう。

 客船に乗っていた乗客全員軍艦の甲板に集められ、海風に震えながら真っ暗な海を眺めるだけ、という状態でも文句を言うべきではないのだ。


「やばいな。ユーフォニア元帥閣下。海軍じゃなくて俺は良かった。」


「大叔父の事、ご存じだったのね。」


「有名人の親族の娘が結婚詐欺を働いているって情報だ。間違いでしたじゃ誰かの首が飛ぶだろう。せっかく慎重に動いていたというのに。あの閣下のせいで台無しだよ、台無し。」


「あなたは辞書で言葉を勉強し直す方が良いと思うわ。ぜんっぜん慎重じゃないじゃない。間違えました、だったじゃないの!」


「本物の伯爵令嬢を保護したじゃないか。」


「保護されている気がしないのですけど。」


「保護しているでしょう。今も!あっためているじゃないか。まだ寒いの?」


「寒くはないけど、恥ずかしさで一杯よ!」


 私はダンベールに後ろから抱き締められる形で、彼と同じ毛布に包まれているのだ。また、彼はそれをよい事に、私を抱き締めながら時々私の耳を舐めたり居眠りしたりしている。温めてくれてありがとうなのかもしれないが、耳を齧られるたびにびくりとしなければいけなくて、眠いのに寝れないのは拷問じゃないかな、と彼に感謝の気持ちなど一ミリも湧かない。


 ああ、早く自宅でゆっくりと、ひとりで、眠りたい。

 大叔父も変な人だけど、ダンベールはもっと変な人だ。

 きっと軍人は変な人になるのに違いないわ!


「寝なさいよ。俺が見守っているから大丈夫だよ。」


 時々優しい言葉をかけるとは反則では無いだろうか。

 私は胸にほわっと温かいものを感じながら、でも、私の右の太ももを撫でてきた手をパシッと叩いた。


「悪戯しないでくれたら数秒で寝れるのですけれど。」


「ハハ。びくびくするところが可愛くてねぇ。」


「かわいいと思う相手に優しくしようと思わないの?眠いのですけど。悪戯するのは煩いから止めて頂戴。」


 ダンベールはむっとした顔を見せると、私の胸の下あたりを彼の指でそっとなぞった。

 ろっ骨をなぞられただけなのに、私は全身がビリっと痺れた気がした。


「ひゃあ!」


「ああ、君の感度は実に俺好みだ。」


 ちゅっとうなじにキスをされた。


「ひゃあ!こ、この!ど、ど助平。」


 彼は嬉しそうに笑いながら、私を自分に押し付ける様にさらに抱きしめた。

 私も人目があることを忘れた。

 彼に押し付けられた事で私の頭は彼の右肩に乗せ上げられる形となり、私の視界には彼の右耳が私を誘うようにして存在しているのだ。

 私は今までの仕返ししか考えていなかった。


 だから、噛みついてやった。


 甘噛みをして、耳たぶの下も舐めてやった。


 驚いたのだが、あのダンベールが数秒体を硬直させたのだ。


 しかし、私に勝利など無く、後は言わずもがな、だった。

 ダンベールは私に深いキスをし出し、あまつさえ私の身体を指で探検もしてきたのである。指が触れる箇所はどこも痺れ、触れてくる指先は私を宥めもする。

 だから、私は温かくて気持ちが良いその行為に耽溺してしまい、情けなくも彼に身を任せたそのまま、深い眠りに落ちてしまった。


 ああ、伯爵令嬢の矜持はどこに行ってしまったの。

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