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十四 混乱の兆し

 俺は混乱していた。

 最初にイゾルデが着ていたものよりも大人びて繊細なレースもついているシュミーズは、清楚な造りであるのに関わらずイゾルデの美しさを引き出していた。

 俺が彼女を食べてしまいたいと渇望するほどに。

 しかし、イゾルデはどこまでもイゾルデだ。

 裸にならずともシュミーズが着替えられると大喜びし、俺に感謝や尊敬の視線までも向けて来たのである。


 いたたまれなくなったのは生まれて初めてだ。


 俺は今まで彼女に言ってしまった酷い言葉や行為を無いものにしたくなり、情けない事に彼女に許しまでも求めた。

 どこまでも純粋で優しい彼女は俺の頼みを受けいれ、聖女のようなキスを、いや、なぜか俺の劣情までも再び揺り動かしたキスを俺に与えてくれた。

 俺は本気でこの女を守りたいと抱きしめたが、彼女の俺を慈しむような視線を受けた事で俺のろくでもない自分自身が首をもたげてしまった。


 お前は結局ろくでなしにしかなれないんだよ、と。


 俺は一般人には騎士階級という特権階級になるのかもしれないが、爵位のある貴族に使われるだけの使用人階級である事で一般人以下でしかないのだ。


 俺は今回の事でイゾルデと結婚をするだろう。

 しかし、彼女はきっと幸せにはなれまい。

 俺という存在や職務を知れば、俺との結婚など伯爵令嬢様である彼女には後悔するしかないものとなるのは明白なのだ。

 だったら、最初から期待もされない関係のままでよい。


 俺は彼女をベッドに横たえ、やっぱり俺は助平なヒヒでしかないと彼女に思わせようとした。


 船の異常さえなければ。


 ベッドから転がり落ちた俺達は床で抱き合い、傾いて悲鳴を上げる船の異常が収まることを、恐らく二人とも神に祈っていた。


「大丈夫だ。俺が君を絶対に家に戻す。」


「では、服を着ましょう。これではどこにも逃げられないわ。」


「ハハハ。本当に君は最高だ。おっしゃる通りにいたしましょう。」


 だが、とりあえずキスをしてからだ。

 死んだら二度とキスは出来ない。

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