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十三 騎士として

 ダンベールは魔法使いなのかしら。

 彼は私の為に普通の下着をほんの数分で手に入れて戻ってきたのだ。

 私は彼から新品では無いが洗い立ての清潔な下着を受け取ると、彼にしばらく部屋を出て欲しいとお願いした。


「着替えを手伝うよ。君のドレスは簡素だが、そのボタンは殺人的だ。よくもまあ、小間使いも付けずにこんな大量ボタンの列に挑戦すると思うよ。」


「まあ、小間使いはいましたわ。あ、そうだわ。ジェイニーはどうしたのでしょう。わたくしが消えてきっととっても困っている筈だわ。」


 ダンベールはピシッと体を強張らせ、私に訝し気な視線を返して来た。


「どうなさいましたの?」


「いたの?小間使い。」


「ええ。トイレに行きたいからって言いますから、私が鞄を持って彼女を待っていたのですわ。鞄を持ってトイレに行くと言い張りましたが、大事な宝石をトイレなんかに持ち込まれては適いませんから鞄は私が取り上げました。あら、まあ、あの子はお金もなくて一人ぼっちでは無いですか!」


 ダンベールは考え込んだ風の顔をした。

 本当に彼の脳みそが考えているのかわからないが。

 だって、彼は性的な事ばかりに傾倒しすぎではないですか。

 私の批判的な視線を感じたのか、考え込んでいる風だった彼は、パッと笑顔になって私を見返した。


「取りあえず着替えようか。」


「きゃあ!」


 ガウンを一気に引き下ろすなんて!

 しかし彼はシュミーズを脱がせるのではなく、新たなシュミーズをそのまま私に着せ付けた。


「に、二枚重ね?」


「片方ずつ肩ひもを脱いでご覧。」


 私は言われた通りに片方ずつ助平なシュミーズの紐から腕を抜いた。

 きわどいシュミーズはすとんと床に落ちた。


「まあ!そうね。素晴らしいわ!裸にならずとも着替えられたのね!」


 あら、ダンベールの顔が真っ赤だ。


「どうなさったの?」


 真っ赤な顔の彼は、私をそっと自分に引き寄せた。

 濃厚な抱き締めもキスも無しの、本当に引き寄せただけだった。


「どうなさったの?」


「俺はさ、守る価値もないものを命を懸けて守ってきたからね。それで汚れ荒んで、本当に守るべきものが見えなくなっていたのかもしれない。」


 彼はそっと私を手放すと、私の頬に手を当てた。

 彼の大きな手は私を思う存分まさぐったものだが、今のこの温かい手の感触は私が初めて受けた触れ方である。

 いや、時々彼は私をこうやってそっと触れた。

 それが優しいからこそ私は完全に彼を拒絶出来なかったのでは無いのか?


「イゾルデ。俺にキスをしてくれ。」


「え?」


「お願いだ。俺を騎士に戻らせてくれないか?」


 真面目な男の振りの冗談にしては、彼の目はまっすぐに私を見据えているだけでなく、きゅっと結んだ唇が何か辛いものを抱えていそうに見える。


「どうしたの?」


「俺は君を傷つけていた。君からの許しが欲しいんだ。」


 私はつま先立ち、ダンベールの唇に軽くキスをした。

 本当はしてはいけないのだろうけれど、何度もキスをされてよく知っている唇だったから。いいえ、辛そうな瞳をしている彼は初めてで、私の胸の中がじわっと温かい何かが広がってしまって、慰めたいなんて考えてしまったのだ。


 それも違う。


 ええ、認めよう。

 彼の柔らかい唇にキスがしたかったのだ。

 彼にキスをされる度に、私の中にビリっとした何かが走るから。


「ありがとう。」


「いいのよ。」


「よかった。これで君を思い切り食べられる。」


 はい?


 はいいい?


 私はベッドに転がされていた。

 私の上にはバスローブがはだけた鬼畜が覆いかぶさっている。


「あ、あなたは騎士になったのではないの?」


「俺は君の騎士になったんだ。心置きなく主人である君に快楽を与えよう。」


「あなたはいっぺん死んだ方が良くてよ!」


 私は思いっきり彼の身体を両手で突き飛ばした。

 無駄だと思いながらも。

 しかし、彼は簡単にベッドから転げ落ち、続いて私もベッドから転がり落ちた。

 船は大きく揺れて、気味の悪い軋む音を艦内に響かせていた。

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