十一 裸よりも恥ずかしい
ダンベールに期待した自分が馬鹿だったのだ。
私は彼に手渡された新品の下着の美しいデザインや肌触りのよさにうっとりとしてもいるが、この下着は服の下に着るべきものではない。
繊細なリボンのような肩紐では、上に服を着たらきっとぶちんと肩ひもは切れてシュミーズは下に落ちてしまうだろう。
また、連続模様の素晴らしいレースが胸元を飾っているが、胸の頂がそのせいでうっすらどころか丸見えだ。
さらに言わせてもらえば、胴体部分は膝下まであるが、足が丸出しになりそうな深い深いスリットが入っているのである。
追い打ちの様に、シュミーズは濃い紫に染め上げられていた。
これは人づてに聞いた事がある、娼婦と言う女性達が着るものではないのか?
どこで彼はこれを手に入れて来たの?
尋ねように当人は鼻歌を歌いながらシャワーを浴びている。
私は彼から手渡されていたもう一枚の服、シュミーズの上から羽織っているシルクガウンの前立てを、今の扇情的な自分の姿を少しでも隠せるようにとぎゅうっと握った。
このシルクガウンは薄グレーの普通のものであるが、シルクの光沢によって銀色に輝いてみえる。
「本当にどこで手に入れて来たの?」
「気に入らないのなら脱いじゃいなよ。」
「きゃー。」
シャールームから出て来たから湯上りなのは当たり前だが、濡れた体を拭きながら全裸で出てくるとは何事だ。
プラプラしている所ぐらい隠してよ!
ダンベールは全裸で頭を拭いているという格好のままプラプラと私の前までくると、すっと身をかがめて私の唇にそっと口づけた。
ちゅっという、それだけのキスだが、私は腰のあたりがなぜかぞわっとした。
彼からのキスに慣れてきたことも問題だが、彼のキスに嫌悪感どころか体がじわっと感じてしまう事こそ問題だ。
私は調教されているの?
「で、お互いにさっぱりしたし、何して遊ぶ?」
「遊ぶ?」
「ああ。夕飯はまだまだ後だしね。この格好じゃ外にも出られない。すると、俺達は仲良く昼寝するか仲良く遊ぶしか選択肢が無いんだ。」
「本は無いの?本くらい持っていないの?そして、あなたがまずする事は、体を隠すためにガウンぐらい羽織ることよ。」
「わかった。それじゃあ俺にそのガウンをくれるか?それは俺用のガウンだ。」
「え、嘘!」
「本当。君が恥ずかしいだろうからそれを渡したけど、俺の裸が嫌だって言うのだったらそれを俺に返してくれ。俺も下着を洗濯に出したんでね。」
それは本当だ。
ダンベールはどこで脱いでいたのか、シャワーを浴びる時にスーツとシャツを脱いだ時にはあるはずの下着を身に着けていなかったのだ。
私は布団に潜り込むとガウンを脱ぎ、それをダンベールへと手渡した。
「きゃあ!どうしてあなたまでベッドに入ってくるの!」
「俺も寒いから。しばらく全裸にされていたから冷えちゃったみたいだ。」
私はベッドの端へと急いで逃げようとしたが、ダンベールは私を捕まえて自分の胸元へと引っ張った。
ああ、確かに背中が温かい。
でも、彼は全裸だ。
「どうしてガウンを羽織らないのよ!寒いんでしょう!」
「やることが無いならやることに決めただけだよ。だったら裸でしょう。」
「え?やるって?」
「子供が出来たら結婚しよう。」
彼は私の耳元に低い擦れ声で囁いた。
それは彼が先ほど言っていた生殖行動の事?私と?
「だ、だめ!遊びましょう。ゲームをしましょう。ええ、ゲームがしたいわ。」
「ハハハ。そうか。じゃあ、ベッドから出よう。」
ぐんと掛布団は剥がされて、私はきゃあと叫んで体を丸めた。
すると、そっと私にガウンがかけられた。
「え、でもあなたの服は?」
ダンベールはいつの間にやらタオル地のバスローブを羽織ってた。
彼はしてやったりの顔で私にウィンクをして見せた。
「優しい子は好きだよ。君は本当にいい子だ。別の服も探してくるよ。」
彼は私に布団をかぶせた。
「そんな格好で外をうろついたら!」
私は慌てて布団を撥ね退けて起き上がったが、ダンベールが丁度部屋を出ていくところで、彼は私にちゅっとキスを投げてから外に出て行った。
「本当に、あの人の考えている事はわからない。」
私はベッドにぺたりと座り直した。
そして、自分がほとんど全裸に近いシュミーズ一枚だった事にようやく気が付いた。
「あんの、ど助平!」
ドアの向こうで彼の天真爛漫な憎たらしい笑い声が聞こえた。




