十 太陽さんであろう
朝食はイゾルデに完敗してしまった。
獣になろうの申し出を素直に受け取ったイゾルデは、なんと、素手で飯を掴んで食べ始めてしまったのである。
彼女の行為によって俺の腹筋が鍛えられたどころか、俺が呼吸困難にまで陥ったのは言うまでもない。
あんなに大笑いしたのは何年ぶりだろう。
そこで反省した俺は、昼食は手で掴めないだろう熱々系で攻める事にした。
しかし、昼食のカートを運んで来たというのに、素晴らしき彼女は、食べない、という選択を取った。
「どうして!監禁されていたら楽しみは食べることだけでしょう。」
「わかっているなら開放してよ!」
「できないからこうやって君の機嫌を取っているのでしょう。」
「素敵ね。素手で食べられないメニューばかりだわ。それに、部屋から出られないのだもの。運動不足でお腹は空いていないわ。」
「じゃあ、運動しようか。全身を動かす運動は俺が得意とするところだ。」
「あなたと運動こそしたくはないわ。」
「俺じゃないとだめだと言ってくれる女ばかりだけどね。」
「まあ!女性とって、あなたはダンスが得意でしたの?」
「いや。単なる生殖行動が得意ってだけ。遊び目的ならスポーツになる。」
「なんていやらしい!」
俺に彼女の鞄が飛んできた。
この鞄は君の大事なものだったのでは無いのか?
俺は大事では無くなったらしい鞄を脇に挟むと、そのまま不要らしいカートを押して部屋を出て行こうとした。
「ああ、ちょっと待って!」
慌てた彼女が鞄を取り返そうとしたが、俺の方が早かった。
俺は鞄を脇から出すと高く高くその鞄を持ち上げたのだ。
確実に俺よりも背が低いイゾルデは、鞄を取り戻すために俺の背中に抱きつく形で手を伸ばすはずだ。
「うお!」
膝裏を蹴ってくるとは想定外だ。
情けない事に俺はかっくんと膝を折り、イゾルデは悠々と俺の手から大事な鞄を取り戻した。
下から見上げた彼女は得意そうに微笑んでいたので、俺は下にいる事を良い事に彼女のスカートに手を突っ込んだ。
「きゃあ!」
イゾルデは俺を鞄で殴りかけたが、俺は彼女の足を掬う形で引っ張った。
鞄を掲げた棒のような姿勢のまま彼女は俺の膝に寝転ばされ、彼女の長い足はスカートが完全にめくれあがって全貌を晒している。俺はそんな美しい彼女の長い足を、ゆっくりと膝から上に向かって撫であげた。
「はふ。」
トスン。
吐息と一緒に彼女の力は抜け、彼女の鞄はごろりと床に転がった。
俺は可愛いイゾルデの唇をそのまま齧った。
最初はほんの少しだけ。
びくりと感電したようになったならば、次はもう少し深く。
抵抗が無いのならば彼女から唇を放し、彼女の耳たぶに吐息が掛かるようにして甘い言葉を囁くのだ。
「いいかげんになさいな!」
「つっ!」
俺の耳元で大声で叫んでくるとは何事だ。
イゾルデはさっさと俺の膝から逃げようと体を持ち上げ、俺は彼女のウエストリボンを掴んで再び彼女を自分へと引っ張り上げた。
「放してよ!この変態ヘンタイ、へんたーい!」
俺は膝からイゾルデをポイっと投げた。
「きゃあ!」
「なんか、気が削がれた。」
俺は立ち上がるとカートを食堂に戻すべく動くことにした。
ああ、面倒だ。
初めての女がこんなに面倒だとは知らなかった。
「ダンベール。」
「何?」
「一週間も同じ下着を着ていなくちゃいけないのかしら。」
イゾルデの俺を見上げている瞳は少々潤んでいた。
唇は俺に翻弄されたことが解るほどに腫れていて、髪の毛などぐしゃぐしゃだ。
そのしどけない姿で俺に懇願してきたのだ。
新しい下着が欲しいのって。
俺は自分の先見の明を褒めたたえながらイゾルデに微笑んでいた。
「対処しましょう。」
公爵と詐欺女の部屋から魔法葡萄を取り返したついでに、新品のシルクの下着も新品のガウンも俺達用にちゃんと盗んである。
「ありがとう。」
「いやいや、いいよ。じゃあ、まずは服を脱いで。」
「ええ!」
「シャワールームに行っておいで。君の着ていた下着は洗濯に出す。君がシャワーを浴びている間に新しい下着を持ってくるから。」
「ほ、ほんとうに?」
「俺が嘘を吐くとでも?」
「嘘ばっかりじゃないの!」
俺はイゾルデから目を離すとカートを運ぶ仕事に戻ることにしたが、おや、なんと、彼女が自主的にシャワールームに飛び込んだ。
「ま、待って。」
「ボタンを外すのは手伝うよ。安心して。君の木綿の下着には勃たない。」
「何が立つの?」
俺はぐるっとイゾルデを後ろ向きにさせると、これ以上ないぐらいの早業でボタンを外し、彼女が騒ぐ間もなくドレスを剥ぎ取った。
ドレスは部屋に放り投げた。
次にシュミーズだが、俺はそこでシャワールームから外に出た。
「俺は後ろを向いているから脱いだら手渡してくれ。」
イゾルデは何も言葉を返してこなかったが、しばしの後、俺の手には脱ぎたての温かい下着が手渡された。
「あ、あの、ありがとう。」
消え入りそうな恥ずかしそうな声で、彼女はこの俺に感謝の言葉を述べたのだ。
いやいや、シルクの下着を着せ付けるチャンスを君こそありがとう、なのにね。




