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一 あなたは花形だったはず

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ありがとうございます!

すごくすごく嬉しいです!

 私、イゾルデ・ユーフォニアは、自分の境遇を冷静になって見つめ直した。

 今の私は狭い密室に閉じ込められている。

 部屋はぐらぐらと始終揺れていて、そのせいで胃液も上がって来ていて新鮮な空気を吸い込みたいのに、部屋にある唯一の丸い窓は嵌めこみ窓だ。

 私は縛られてはいないが部屋からは出られない。


 部屋に唯一あるベッドに腰かけさせられているが、私の真向かいに椅子を持って来て座っている大男が笑顔を見せているので逃げられるわけは無い。

 悔しいのが、私の目の前にいる男こそ、私が今まで何度も目にしていて、友人知人と素敵だとお喋りし合った事もある、という国の有名人なのだ。


 黒髪に黒曜石のような瞳を持つ俳優以上に格好の良い目の前の男は、王宮を守る職務を担っている、ダンベール・フォーン少佐様なのだ。

 王都のパレードには必ず白い馬に乗って現れる、王子様達よりも人気の近衛兵様であるのだが、どうしてこの近衛兵様に私が誘拐されて船室に閉じ込められているのだろうか。


 彫りの深い二重の瞳は余裕しゃくしゃくな風に目尻を下げ、厚すぎない薄すぎない品の良い素晴らしい形の口元だって友好的に微笑ませてもいるが、彼からは私を脅えさせるに十分な威圧感しか伺えない。

 値が張ると一目でわかる仕立ての良い黒スーツ姿で、ボタンを外したジャケットの内側にホルスターが見えた事から、誰かを殺害してきた帰りなのかと考える程の恐ろしさだ。


「あの、わたくしとあなたは初対面ですよね?」


「初対面ですが知っていますよ。イゾルデ。君にずっと会いたいって捜していた。偶然でも君に会えて嬉しいよ。次は無いからここに連れて来てしまった。」


 ええ?探していた?


 誘拐する前にその言葉を言っていれば、私は誘拐される前に次に会う日時を決めて、次はあるからと約束だってしたのに!


「ですから、わたくしはあなたに会った事など無いでしょう。どなたの紹介であなたこそわたくしの事をお知りになったのですか?」


「紹介?そんなもので君に辿り着けると君こそ考えていないくせに。俺は君に辿り着くまで、それはもう色々と人脈を漁れるだけ漁りましたよ。」


 ええ!

 あの女性人気の高いダンベール様がストーカーだった?

 だから、彼はあんなにも人気があるのに恋人の噂が無かったの?


「半日で事足りましたが。」


 ストーカーにお前なんかは半日程度で充分だと言い放たれた気分だ!

 悔しい!


「いいから!すぐに降ろしてください!必ずまたお会いします。それは絶対にお約束いたしますから!」


「それは無理だね。船は出港してしまった。」


「出港?あなたは何を考えていらっしゃるのですか!」


「君に素直になってもらう事かな。船は一週間後にしか港につかないからね。その間、君の全てを教えてもらおうか。」


 彼はそう言いながら椅子から立ち上がり、なんと、私の真横に座ってきたのだ。

 ベッドがダンベールの重みでギシリと軋み、絶対的に体重の多い彼の方へと私の身体が揺らいだ。

 いや、彼が私の肩に腕を回してきているのだから、私は無理矢理に彼の左側に押し付けられたのだ。


 一体何が起きているの!


 私は老け顔で残念顔だと知人友人に言われている女だ。

 いかにも遊んでいそうな派手で下品な外見だと、私を嫌う同級生には陰口を叩かれてもいる。

 ああ!愛嬌のある年相応の顔で生まれてさえいれば。



――イゾルデ。君を今すぐ手放したくなんてないから、君は今年にデビューなんてしなくていいよ。


――そうよ、イゾルデ。社交界デビューなんていつでもできるのよ!



 白で清楚でリボンとレースの可愛らしいドレス。

 そんな社交界デビュー用のドレスデザインが一つも似合わない娘に対して、両親はデビューしなくていいよと言って慰めてくれた。

 私だって女学校の友人達と一緒に社交界にデビューをしてみたかったが、あんなにもデビュタント専用ドレスが似合わないとは思わなかった。


 結局私は両親の言う通りに、あと二年はデビューを諦める事にした。

 二十代になればもう少しだけデザインが派手なドレスも着れるようになるのだ。

 それまで我慢をするのだ。

 しかし、そんな私を大叔母が哀れに考えてくれたらしく、私を首都に呼び寄せてくれた。


――私の友人のパーティに一緒に出て見ない?仲間内のものでしかないから、あなたに似合うドレスが着れるわよ。



 私も両親も二つ返事でその提案に乗り、荷物を抱えて首都に辿り着いた途端に、これ、だったと私の右横の威圧感を見つめた。

 うわ!彼の左手は私を抱き締めるだけでなく、私の髪先まで弄んでいた!


「な、なにをなさるの!いやらしい!」


 ダンベールの指から自分の髪の毛を無理矢理に引っ張りだして、ついでに彼の腕から身を放すようにして彼を両手で突いた。


「え?」


 一瞬だけダンベールは驚いた顔をして見せたが、すぐに彼は笑顔となった。

 私の腰のあたりがぞわぞわする笑顔だ。


 どうして!


 脅えていなきゃいけないのに、どうして私はこの男の笑顔に魅了されてしまっているのよ!

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