10.いざ参る
「………」
いつもと様子の違う薫とくつ箱で別れ、俺は今教室のドア
の前に立っている。くつ箱に靴があったため七宮さんが教室
にいるのは間違いない。
「ふう…参る」
ガラガラと教室のドアを開けたあと俺は下にうつむきなが
ら席に着いた。横を通り過ぎたとき顔は見てないが、やはり
七宮さんはいるということは分かった。
俺は膝が震えそうになるのを手で抑える。
「おはよう、桜田くん」
声にびくっとなるも七宮さんの方へ視線を向ける。
「お、おはよう、七宮さん…」
「どうしたの元気ないね、熱でもあるのかな…」
七宮さんは心配そうに俺を見つめる。
いや…元気がないのは七宮さんのせいですよ?あの5時間
前の出来事をお忘れですか?
「ちょっとごめんね」
「えっ…」
俺は今起こっていることに目を疑った。七宮さんが俺の額
に自分の額をくっつけてきたのだ。あと少しでも前に近づけ
ばキスしてしまうほどの距離だ。こんな近くに美少女の顔があるため俺は顔が熱くなるのを感じる。
「桜田くんすごい熱いよ?熱なんじゃ…あっごめん、つい流
れでっ…」
俺が恥ずかしくて顔が赤くなっているのを見て、自分がと
んでもないことをしていることに気づいたようで急いで俺との距離をとった。七宮さんも俺と同じくらい顔を真っ赤にしている。
「わたしも熱なのかな…」
ボソッと恥ずかしそうに呟いた。このタイミングでその言
葉は反則だ!俺は胸の高鳴りを抑えようと頑張る。
それと同時にクラスメイトからの痛いほどの視線を感じる。
「み、みた七宮さんと桜田くんが…」
「あの2人って付き合ってるのかな…?」
「七宮さん大胆…」
「桜田殺してやる…」
「なんだ桜田って青春の代表の花の入った名前しやがって…
花むしり取って枯田にしてやろうか」
前半のクラスメイトの発言は普通の反応だろうけど後半の
発言はただの殺害予告だろ!なんだむしり取るって俺の髪で
もむしり取るつもりか?そして全国の桜田さんと枯田さんに
謝れ!
◇
今は朝のHRで先生が諸連絡を行なっている。
さっきの出来事で分かったがどうやら七宮さんは学校ではい
つも通り(?)に接してくれるらしい。
それは俺にとってはありがたい話だ。学校でもあんな感じ
になってしまったら理性が保てないし、不純異性好友と判断
されて停学…下手すれば退学になってしまう。
「んっ…?」
机に半分に折られた白い紙が置かれた。
七宮さんの方を向くと俺の方をチラッ、チラッと横目で見
ていたので七宮さんからだろう。
(えっ…怖いんだけど…)
あの手紙のせいで手紙恐怖症になってしまっている。
正直中身は見たくなかったが七宮さんがずっとチラ見して
くるため俺は唾を飲み込み、そっと手紙を開く。
『今日弁当?』
ごく普通のことが書かれていた。俺はいつも節約のために
昼ご飯はほとんど弁当を作ってきている。
しかし今日は色々あったため疲れて作る気力が出ず、購買
でパンでも買おうとしていた。
俺は『今日は違うよ』と七宮さんが書いてあった文字の下
に書き、七宮さんの机に置いた。
するとすぐに手紙を手に取り、俺の返答を見てどこか嬉し
そうな表情になり子どものように足を振っていた。
もう少しで新ヒロインがでる…かも…しれません。