復讐者の誕生
何もかもが信じられなく自分自身すらも信じられなくなった。社会から見捨てられ、全てを失った。いや、まだ失っていないものがあった。
この命か。
自分の命を絶つために全ての準備をした。そして、死んだ。
真っ暗な世界で何も見えず、どうなるのかも分からない。死んだ先はどうなるのか分からないが、この世界で生きてるよりも遥かにマシなんだろう。
・・・暗く深い闇の世界が永遠に続く。死んだはずだ。なのに何故、考えることが出来るんだろうか。
「あの・・・大丈夫ですか?」
「ッ!! 誰だ!?」
急に呼びかけられ、目を開けた。目の前には知らない女性がいる。俺は死んだはずなのに何で生きてる? それにここは何処だ? 自室で命を絶ったはずなのに見渡すと森の木々が生い茂る森の中にいるみたいだ。
「す、すいません。倒れてたので助けようかなと・・・」
「あ、悪い。ありがとう」
「いえ、困っている人がいたら助けるのは当然なので!」
「・・・そうやって何を要求するために助けたんだろ?」
「え?」
「俺は騙されない。何度もそうやって俺から奪っていった人間を知ってる」
「そんなことしません! 私は!」
「口では何とも言える! 何度も何度も何度も何度も・・・俺は騙されたんだ・・・」
辛く苦しい過去を思い出し、俺はうつむく。甘い言葉、優しい言葉の全てに騙されてきた自分にとって 人を簡単に信じることなんて出来なくなってしまっていた。自分ですらもう信じられない。
暗く冷たい闇がまた目の前に襲ってくる。何でまた生きてるんだ。俺はもうこんな世界から消え―――
「大丈夫です」
突然、目の前が明るく照らされる。闇が少しずつ晴れていき、光が世界を覆い始める。
「あなたは苦しんできました。けど、もう大丈夫です」
「何が分かる! 俺は俺は・・・」
様々な感情が入り乱れ、俺は酷い顔をしていたのだろう。相手の女性は優しく笑みを浮かべ、俺を抱き寄せる。大丈夫大丈夫と赤ちゃんをあやすように頭を撫でてくれる。
「見れば分かります。あなたの顔から苦しさが凄く伝わってきます。もう何も心配ありません。大丈夫です。あなたは強い人です」
「うわあああぁぁぁーーー!!」
年甲斐もなく女性の胸の中で泣き叫んだ。俺はこの言葉を待っていた。大丈夫だよって言葉を待ち望んでいた。俺は、この女性に救われた。
それから女性の村に案内して貰い、数年過ごした。村には若い人が少ないので仕事には困る事は無かった。助けてくれた女性は村のシスターで、みんなから慕われていた。そんな女性に惹かれた俺は、猛アタックをし続け、無事に結ばれることとなった。
「パパー! ママー!」
「おうアリシアどうした?」
「見て見てー! 凄いの拾った!」
「ん? 石・・・?」
「これは村に伝わる幸運の石ね。持ってると幸運を呼び寄せてくれるって言われてる石よ。滅多に見つかることは無いんだけれど。
よく見つけれたわね」
「えへへへ。褒められた」
娘にも恵まれ、幸せな家庭を築いていた。そう・・・いたのだ。その日、また全てを失った男は復讐者へと変貌する。
世界を壊すリベンジャーとなる。
「もういい子は寝る時間だぞ」
「うーん・・・ねりゅ~」
「よしベッドに行こうな」
アリシアを抱きかかえてベッドへと運ぶ。そのまま眠りにつく娘の寝顔を見て、こんな生活をずっと望んでいたんだと思わず笑みを浮かべる。
「幸せそうな顔ね」
「そりゃ、娘のこんな顔見たら誰だって口角が上がるさ。どうしたんだ?」
「何か胸騒ぎがするの」
「胸騒ぎ?」
「そう。村でも良くない虫の知らせがあるって騒ぎになってた」
「大丈夫さ。何も起こらない」
「ふふふ。そうね。あなたから大丈夫って言葉が聞けるなんて思わなかったわ。おやすみなさい」
「・・・あぁ、おやすみ」
村に何かが起ころうとしてるのか? けど、こんな平和な状態で何が起こるんだ?
ドオーン!! という爆発音が次の瞬間に鳴り響く。な、何が起きてるんだ!?
「オラー!! 女、金品を寄越せ!!」
「盗賊だー!! 女性と子供と老人は逃がせ! 戦える奴は抗戦して時間を稼ぐんだ!」
突然の襲撃だが落ち着いた指揮を取る人間がいたため、何とかパニックにならずにやるべき事を出来ている。だが、相手は戦いにも慣れている相手。時間を稼ぐといっても長くはもたない。
「お前たちだけでも逃げるんだ。俺が何としても逃がすから」
「パパー!! ママー!! 怖いよー・・・」
「あなた。私も戦います。軽い魔法なら使えます」
「魔法? そんなものがあるのか。だが、逃げろ。お前たちは絶対に傷付けさせない。俺が守りたいと思えたかけがえのない人だから」
「ここに女の匂いがするぜぇ!!」
「行け!」
「行かせるかよ!」
「ガハッ!」
「よえぇのに誰かを守れると思ったのか?」
そして、盗賊による非人道的行為を目の前で見せつけられ続けた。あぁ、どうして世界はこんなにも残酷なんだ。前の世界でも俺は裏切り続けられ、命を絶った。
今度はこちらの世界でも裏切り続けられる。世界に。
許せない。許せない許せない許せない許せない許せない許せない。奪われたくない物が出来た俺から奪っていくモノ全てを・・・俺はコワス。
「おいおい。この女、何も言わなくなっちまったぞ」
「バーカ。お前がやべぇプレイをしまくるから壊れちまったんだろが。いや、これは死んでるのか? ギャハハハハハハ!!」
「何だよ面白くねぇな」
「なら、死ね」
「はひゃ?」
変な声を出して盗賊の上半身が崩れ落ちる。その光景を見ていた別の盗賊は身構えるが、次の瞬間には真っ二つになる。
「アリス・・・アリシア・・・うわわわぁぁぁーーー!!」
アリスとアリシアだった亡骸を抱えて泣き叫ぶ。涙は血に染まり、心は復讐によって黒く染まる。頭に鳴り響く声が反響し続けて割れそうになる。
『システムエラーシステムエラーシステムエラー』
「うるさい・・・うるさい・・・」
『黒への移行を確認。身体構造、精神構造、魔力構造を再構築します』
「うがあああぁぁぁーーー!!」
体が引き裂かれそうな痛みに襲われる。苦痛に悶え続け、痛みが収まる。
『完璧な移行を確認。職業、リベンジャーを獲得しました。ステータスの大幅な上昇などを確認』
「何が起こった・・・」
痛みでまだうまく動かない体を引きずりながら家を出る。アリスとアリシアの死体をそのままに出来ないが、村のことも気になる。
だが、淡い希望など打ち砕かれ、そこは凄惨な物になっていた。
己が欲望を満たすために無法者共が次々と襲っていた。
「なんだ・・・よ・・・これ。嘘だろ・・・」
『システムへの干渉を確認。スキルを獲得、魔法を獲得、パッシブスキルを獲得しました』
「頭に響く声は何なんだ!? もう全部破壊する・・・」
『スキル”オールデリート”を発動』
「オールデリート!!!!」
スキルの発動と同時に地図上から村一つが消え去った。莫大な魔力の発動によって、世界の賢者、魔王、魔人、勇者、英雄などの実力者達が強大な存在を知ることになる。
そして、それと同時に世界を構成する神と呼ばれる存在からも目を付けられることになる。
『面白い存在となりました。あなたの名を聞きましょう』
「俺の名・・・きみし―――いや、違うな。俺の名はネメシス」
『ネメシス・・・面白いですね。では、あなたと共に世界の行く末を見守りましょう。私が作った歪な世界を正す存在となるのかどうか』
何を言ってるのか分からなかったが、とりあえず頭に響く声は敵ではないことだけは分かった。俺は、俺から奪っていく世界を破壊する!!