プロローグ 語り部1
夏のホラー2019の参加作品です。
あ、ちょっと、そこのあなた。
そう、あなたです、あなた。
いやいや、そんなに胡散臭そうな目で見ないでくださいよ。
そりゃまあ、ワタシの外見が胡散臭いのは認めます。認めましょうとも。
しかし、産まれてこの方、犯罪の類に手を染めた経験はございません。
ワタシ、いえ、わっちは誠実に生きて参りんす。
もちろん今回も誠実でありんす。
花魁詞を使った意味はありません。ノリです。
これだから胡散臭がられるんですよね。普通に話します。
唐突ですが、あなたはホラーがお好きですか?
ワタシは嫌いです。だって怖いじゃないですか。
わざわざ怖い思いをしたがる人の気持ちが理解できません。
好みは人それぞれだと言いますし、好きなら好きでもいいと思います。
だからって、ホラー嫌いの人間に怪しげな物を押し付けないでもらいたいです。
処分に困っているんですよねえ。
捨てるのはおっかないですし、売れもしません。
で、ワタシはいいこと思いついたのです。ナイスアイディアです。
あなたも察しがつきました?
ええ、そうそう、その通り。
誰かにあげてしまえばいいのですよ。
もうお分かりですよね。どうぞ、お受け取りください。
お代は結構です。タダです。ロハです。無料です。実にお得です。
遠慮せずに、どうぞどうぞ。
え? いらない?
つれないこと言わないでくださいよ。
大丈夫大丈夫。ほんのちょーっと怖い体験をするかもしれませんが、命に別状はございませんので。
ホラー小説やホラー映画とお考えください。
ホラーがお好きであれば楽しめますよ。
お好きでしょう?
退屈な毎日に、ほんの少しのスパイスをお届けします。
さささ、どうぞ。
今、受け取りましたね?
返却はききません。クーリングオフ? 何それ? です。
ワタシはこれで失礼しますね。
ごゆるりとお楽しみくださいませ。
美しい悪夢を。