第二話 聖女の力は絶大
泥棒である黒髪美女のレオ(本当は男)との恐怖の鬼ごっこが終わったあと、私の顔に当たるレオの豊満な胸の感触を感じながら私は『ぜぇ』しか言えなかった。
「おい、大丈夫か?」
「ぜぇぜぇ(大丈夫にみえる?)。」
「そんなに体力がないのか。……癒しの力は?」
「ぜぇぜぇ(体力は別よ)。」
「体力は回復できないのか。追っ手が体力ある奴ばかりだったらどうするんだ?」
「ぜぇ……ぜぇ(頑張って……逃げる)。」
「前途多難だな……。」
やれやれと言いたげにレオは首を振って、私を木の側で横にさせる。なんだ意味が通じたのか?私はぜぇしか言えてないのに。
レオは着ていたジャケット(泥棒っぽく、ポケットだらけでなんか重い)を私に被せた。
「今は寝ろ。念のため守りの力は使え。軽い食事と服を調達してくる。」
わがままな子供を寝かしつけるように私の頭をポンポンしてくるレオ。若いが私よりは年上だろう。気は強いが優しいお姉さんのように感じた。
ちょっと、待て。騙されるな私。元は男だ。ほら、女性はこういう急に優しくなる男性に弱いというか、そうそう今まさにこんな感じの!!
……レオが魔女をハント出来ていた意味が分かった気がする。慣れているんだ、女性の扱いに!!
女の敵!と睨み付けているのが分かったのだろう。レオがビクッとして手を引いた。
「と、とにかく今は体力を回復しろ。追っ手が来たら逃げられないだろ。」
「ぜぇぜぇ(分かってるわよ)。」
「じゃあ俺は行く。」
シュッという音とともにレオは消えた。何だかトレジャーハンターというよりは黒髪だし、忍者みたいに感じる。……そんなこともないか。忍者は誠実そうだ。うん、やっぱり別物。
それにしても、レオは私が逃げないと思わなかっただろうか?もし体力が回復出来ないことが嘘だったら、私は今頃体力を回復して逃げている所だ。
嘘を見抜いていたのか、はたまた逃げた所で『俺はトレジャーハンターだから捕まえることができる』と思っているのか。
考えれば考えるほどムカムカとしてきたので思考を放棄することにした。疲れており、守りの力を使った後、すぐに眠気が襲って来るのだった。
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何だか耳が曇っているように遠くから声が聞こえる。それがだんだん近付いて来た。煩すぎて目が覚めるもぼやけており、光しか見えない。ドンドンという扉を叩くような音と、低めの女性の声が聞こえた。レオだろう。
「おい、サクラ!!サクラ起きろ!!」
「ふぁ……朝っぱらから何なの?うるさいなぁ。」
「周りを見ろ!!」
「周り?なにが…………」
視界が開けてきた所で気づく。
私は木の根が絡み合った丸い籠のような物の中にいた。所々開けた場所から光が漏れている。そういえば外なのに寒くて起きなかったな、快適な温度をありがとうとこの籠の外にいるレオに言う。
私を守るようにこれを作るなんてレオは器用だなと思っていると、レオは違うと叫ぶ。
「戻って来たらこれだ!一体何をしたんだ!!」
「何って?何もしてないけど?」
レオは根の隙間から鋭い目を此方に向ける。
「何もしてないはずがないだろう!それほど俺から逃げたいか?!」
「いや、本当に何もしてないし、逃げようと少しは思ったけど疲れたし寝たわ。しいて言うならレオに言われた通りに守りの力は使ったけど。」
「それか!!守りの力が自然に影響したんだ!!」
「え?聖女の力って人間限定じゃないの?」
お互いに沈黙が落ちる。
私は理解が出来ないから。レオは呆れからか、ため息を吐いた。
「聖女様の力は絶大で自然にも影響するって言い伝えがあるが……今、正に木の根がサクラを守るように取り囲んでいるんだ。真実だろう。それを聖女様本人が知らないってどうなんだ?」
「それは……えっと……ごめんなさい。勉強なんて退屈過ぎて寝てました。」
「流石聖女様、サクラ様だな。……食事を持ってきているから、今はそれを解除しろ。」
「解除って……いつも通り唱えたらいいの?」
「俺が知る訳ないだろう。」
怒っている美女は怖い。強気に出ることが出来なくなり、震えながら手に力を込め、唱える。
「我、守りの力を持って命ず。我を守る魔法を解け。」
すると、しゅるしゅると木の根が動き、地面に吸い込まれていく。最後に残ったのは地面に座り込む私と、レオのジャケットだった。
守りの力で魔法が解除されたということはやはり、レオの言うとおりその力が自然に影響したのだろう。
あれ……?これってもしかして、もしかしなくとも気をつけなきゃ聖女ってバレるんじゃないか。このままじゃ、あの退屈な生活に直ぐに戻ることになってしまう!?
聖女の力の絶大さの意味に今更気付いて青ざめていると、レオはまたため息を吐きながらしゃがみ、私と目線を合わせた。呪いを解くことに対して必死に見えるレオも流石に面倒になって諦めるだろう。
そう思っていると手が伸びてきて私の頭を乱暴にぐしゃぐしゃと撫で出した。
「泣くなよ。」
「泣いてなんかないわよ……」
そう思っているのに目から溢れ、頬を伝う雫。認めるしかなかった。私、こっちに来てから初めて泣いたわ。
ポロポロ溢れ出すと止まらなくなった。
「そうよ、泣く。もう泣いてやる!この世界に来てからずっと一人なの!!城以外知らないし、聖女って言われてもはぁ、そうなんですかって感じよ!!私は私なのに私じゃないみたいに扱って。私って何なの誰なのって不安だったの!!ずっと怖かったの!!」
城に入った直後は信頼出来る人、あわよくば友達になれる人を探していた。しかし、人形のようにしか喋らない人たちしか居なかったため、早々に諦めたのだ。それからはどうにかなると自分を偽って強気の姿勢で来たが、この世界には頼れる者がおらず、不安は溜まるばかりで必然と一人ぼっち。文字通り退屈で死にそうだった。
だが、今は……レオだけは人形のような表情ではなく、ちゃんと私を人としてみてくれ反応も返ってくる。レオにあってからは色褪せた私の世界が鮮明になったのだ。彼から逃げつつも心の何処かで安心していたのだ。
女を捨ててボロクソに泣いていると、レオが貸してやると言わんばかりに豊満な胸を押し付けて来た。胸を貸してくれるのか。いいだろう。存分に借りてやろう。
鼻水を付ける勢いで泣いていると、背中をポンポンと叩かれる。何だか昨日から思ったが子供を宥めるように私は扱われていないか?
そう思うも、心地良くて言うことが出来なかった。
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「はぁーすっきりした。」
「俺は疲れた。」
目は開けづらく腫れていると思うがすっきりした私に対して、レオは仕事に疲れたOLのような顔をしていた。流石に悪いと思い、癒しの力を使う。
「我、癒しの力を持って命ず。かの者の疲れを癒せ。ついでに……我、癒しの力を持って命ず。我の目を癒せ。」
目がぱっちりと開いた所でレオに顔を合わせるとありがとうと便利だなと言われる。
「疲れが取れるって魔女なら喉から手が出るくらい欲しそうだ。」
「魔女が……なんで?」
「魔女って仕事や研究、魔法の材料集めに没頭して年中睡眠不足なんだ。」
「詳しいわね。」
「そりゃあ、付き合ったし。…………逃げようとまだ思うか?」
レオがニヤッと意地悪に笑う。そりゃあ、女の敵だし逃げたいとは思うけど。何だかんだ信頼したいと思う。
「私が退屈じゃない平穏な生活を過ごせるようになるまでレオといるわ。」
「それは良かった。それより腹減ってないか?」
お腹を抑えるようにして言うレオ。それで気付いたことがあった。
周りを見渡し、木の上の辺りにある、目当ての物を見つけて近付く。
「我、癒しの力を持って命ず。小さき実の成長を促せ。」
そう、癒しの力は自己再生の能力を促すようなものであり、木に生っている果物の成長を促せないかと思い癒しの力を使った。青かった身がどんどん成熟し、まん丸と大きくなったオレンジ。それをもぎ取って剥き、食べる。
うん、甘くて美味しい!!
モグモグと頬張っていると、調達してきた食事を出そうとしていたが固まって此方を見ているレオがいた。
食べたいのか?いや、これは私のだ。と食べている所で気付く。
「自然が味方してくれるし、私、一人サバイバルできるんじゃない?退屈しなさそう!」
そう言うと、レオは食事を乱暴に投げてドシドシと此方に近付いて来た。
目の前まで来て私の頭をガシッと掴んだ。
「俺から逃げるのが懲りない馬鹿か!!」
「馬鹿って何よ!!馬鹿って言った方が馬鹿なのよ!!バーカ!!」
「駄目だ。もう駄目だ。女だからって甘く見てた俺が馬鹿だった。もう容赦しない。」
「容赦しないって何?」
「一回こらしめる。」
「こらしめる?そんなこと出来るの?私は聖女よ。聖女の力は絶大よ!!」
「ああ、やってやる。」
「いいわ、捕まえてご覧なさい!!」
吹っ切れしかも自然を味方にした聖女な私に、睡眠を取っておらず更にお腹を空かした泥棒は勝てるはずもない。
私は人気のない森の中で勝利のポーズを掲げるのだった。
これで逃げようと思えばチャンスを見てレオから逃げ出せることが分かった。弱みを握られた私にとって少しの強みにはなるだろう。
満足した所で森の開けた元の場所に戻ってくるとふてくされたレオがいた。うろんな眼を此方に向けている。
それよりも気付いたことがあったので空を見上げる。太陽は真上に来ており、もう昼だろう。城から脱出してから大分時間が経過しているのだ。
レオと目を合わせる。
「ねぇ、もうそろそろ追っ手が来ても可笑しくないような気がするんだけど。」
「サクラに言われたくない!」
吐き捨てるように言うレオ。
流石にやり過ぎてしまったらしい。自分でも思うが浮かれすぎてしまった。反省する。
「ごめんなさい。さっきの一人サバイバルは冗談よ。」
「冗談にも程があるだろう!?」
不機嫌を露にして投げた時に潰れた食事を乱暴に掴んで食べるレオ。少しでも機嫌を戻してもらおうと癒しの力を使い、オレンジを調達してレオに渡す。食べるのを渋っていたが 、一口齧ったあと、直ぐに平らげていた。美味しかったらしい。少しだけ不機嫌が治まった。
もうちょっとしたら機嫌治るんじゃない?ちょろくないか?
ほんの少しだけ心配し、しかし、私にとっては都合が良いと再度オレンジをレオに貢ぐのだった。
それにしても、不機嫌でもうっとりしてしまうほどの美貌をレオは持っている。何で礎の魔女はこんな呪いをかけたのか。
私だったら面白い顔にするか、豚とかになる呪いをかけるのに……と疑問に思うのだった。
続きましたがまだ冒険していません。次こそは話進みます。