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青春ユニゾン  作者: せんこう
小学六年生・美奈編
9/434

八 「十何年ぶりのゴーカート」

「コウキ、ポテチ取って~」

「ゲームやりながら食べるなよ」

「え~それが良いじゃん」

「いやコントローラー汚れるだろ」

「じゃ食べさせて」

「男に……だと……」


 言いつつ、拓也の口にポテチを入れる。


「人に食べさせてもらうの最高だわ~」

「集中しないと落ちるよ、拓也君」


 いつものように三人で集まり、洋子の家でゲームをしていた。

 兄弟がさらわれた姫を助けに行く、横スクロール型のアクションゲームだ。洋子の兄のゲームだが、自由にやっていいと言われていた。

 軽快な電子音楽が、テレビから流れている。


 冬休みになって、毎日のようにお互いの家を行ったり来たりして遊んでいた。

 すっかりこの三人で遊ぶのが定番になり、コウキがカードゲームの塾を開いたり、男友達の服選びに付き合ったりする日以外は、ほとんどこの三人でいた。

 怪獣の石像の件もあってか、三人の仲はかなり深くなっている。


「あ~言ってるそばから落ちた~!」


 拓也の操作していた主人公が穴に落ちて死んでしまう。


「次私!」


 洋子がコントローラーを手に取る。さっきから、主人公が死ぬと交代でプレイしていた。

 さすがに慣れていて洋子は上手い。無駄がない動きで、止まることなくサクサク移動している。

 拓也は格闘ゲームが好きで、こういう横スクロール系は、すぐ死んでは交代していた。


「このゲーム難しくない? クリアできんの?」


 拓也が口を尖らせる。


「洋子ちゃんがクリアしてんじゃん」

「拓也君が下手すぎるんじゃない」

「え……ちょっと、二人ともなんか俺にキツくない?」


 普段は無口な拓也も、三人だけの時は、良く喋った。

 人見知りなところがあるが、洋子ともすっかり仲良くなったので安心しているのだろう。 

 コウキも、この三人でいるときが一番楽しかった。自然体でいられるのは、二人と美奈の前だけだ。他の人の前では、気を張る部分が少なからずある。


 冬休みになってから、美奈とは会っていなかった。

 どこかで一回遊ぼうと約束したのだが、電話番号も住所も聞き忘れて連絡の取りようがない。

 最近近場にできたショッピングモールに行きたいと誘われていたが、このままだと冬休みが明けるまで会う事はないかもしれない。


「あ~! ボス強い! 次三木君だよ」

「ん、おお」


 考え事をしているうちに自分の番になっていた。

 だが、このゲームはコウキもそんなに得意ではない。慎重に、一つ一つの障害をクリアしていく。ようやくボスにたどり着いたものの、あっさりと負けてゲームオーバーになってしまった。


「あー!」


 洋子が頭を抱えて叫んだ。


「もうすぐでクリアだったのに!」


 拓也が勢いよく倒れる。


「いやあ、ごめん……」


 ノーコンティニューでクリアを目指していたので、二人の落胆は大きかった。


「もー、拓也君が死に過ぎ!」


 洋子がぶすっとした表情で、寝転がっている拓也の腹を叩く。

 カエルの鳴き声のようなうめきが、拓也の口から飛び出た。


「まあまあ、最後死んだの俺だし。次頑張ろうぜ。次は洋子ちゃん多めでよろしく」


 こういうのは得意な人に進めてもらったほうが間違いない。

 怒りをなだめるために洋子の頭を撫でると、表情がすっと和らいだ。


「うんーわかった」


 洋子は、頭を撫でられるのが好きだった。撫でると、機嫌が良くなる。

 洋子の赤ちゃんのようにサラサラした髪質はコウキも好きだった。手入れをしっかりしているのか、触り心地が良い。それに今のように怒っていても、頭を撫でると落ち着いてくれる。


「なあゲームばっかで疲れたし、一旦外行かん?」


 起き上がって、ゲームを片付けていた拓也が言った。


「良いよ」

「じゃあお母さんに言ってくる!」


 立ち会がって洋子は部屋を出ていった。

 洋子の兄の部屋でゲームをしていた。使った後は片付けるという約束で、入らせてもらっているのだ。男子高校生らしく、ゲームと漫画に囲まれている。


「エロ本あるかな?」

「やめとけ」


 洋子がいないうちにと、本棚を物色しようとする拓也の足をつかんで止める。


「どうせそこにはない」

「なんでわかんの?」


 男子高校生のエロ本の隠し場所など、大体はベッドの下か机の中かタンスの中と決まっている。だが教えると拓也は探し出すので、無視する。

 ほどなくして洋子が戻ってきて、ゲームを片付けてから三人で外に出た。


 冷気が頬を打ってくる。数日前に雪が降ったので、辺りはところどころ溶け残った雪が積もっていた。

 車や人に踏まれて茶色く濁り、きれいな雪はほとんど残っていない。

 積もった日には三人で洋子の家の前に雪だるまを作ったりしたが、それもすでに溶けている


「どこ行く?」


 厚手のぶかぶかなジャンパーコートに長靴という姿の拓也。随分歩きづらそうにしている。サイズが合っていない。

 前に一緒に服を選びに行くか誘ったが、本人はこの冬格好が気に入ってるらしいのでそのままだった。

 

「私公園行きた~い」


 洋子が元気に手を挙げる。

 洋子は母親がファッション関係の仕事に勤めているらしく、服装はいつもお洒落で可愛らしい。

 今日はカーキ色のコートに黒のマフラーとニット帽、下はジーンズとブーツを履いている。


「じゃあ行くか」


 洋子の家の近くには、結構大きい公園があり、小さな遊園地や遊歩道なども併設されていて、いつもこども連れで賑わっている場所だ。

 年末が近くなると閉まってしまうが、まだ日があるので今日なら開園しているだろう。


 三人で並んで歩いていく。

 洋子の家から公園までは、徒歩で十分ほどで、大通りに面しているので、子どもだけで行っても危なくない。

洋子を真ん中に、コウキと拓也で挟み、手を繋ぐ。

さすがに洋子が急に飛び出すようなことはしないが、それでも念のためこうして歩いている。


「あれ、コウキ君?」


 公園に着き、正門を通り抜けようかというところで、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、そこには驚いた表情をした美奈と智美が立っていた。


「あ、久しぶり」


 軽く手を挙げると、美奈も手を振り返してきた。

 二人が一緒にいるところを見るのは、初めてだ。


「偶然だね。遊園地?」

「うんっ。ゴーカート乗りたくて来たんだ」

「一緒だね。俺たちもそう」


 ここに来たら、絶対ゴーカートには乗る。こどもに一番人気のアトラクションなのだ。

 隣の智美をちらりと見ると、何とも言えない複雑そうな顔をしている。

 彼女とちゃんと会うのは、夏休みの最後に近所のスーパーのフードコートで、里保に謝罪をした時以来だった。里保とも智美ともクラスが違うので、なかなか話す機会がない。こちらからは話しかけづらく、すれ違ったら挨拶する程度だった。


「中村さんも、久しぶり」

「うん」 

「元気?」

「うん」

「吉田さんはどうしてる?」

「普通だよ。あ、三木君とまた話そうかなって言ってた」

「ほんと? よかった。じゃあまた学校でも声かける」

「うん」


 智美の口数は少ない。

 五年生までは智美とも仲が良かった。それまでは、学校でも授業後でも、一緒に遊ぶことがあったのだ。

 近所のこどもが集まる児童施設で、一緒に本を読んだりした思い出もある。


 コウキが里保をいじめたせいでもうずっと嫌われていた。自分の友人をいじめた相手と、仲よくしたいとは思わないだろう。

 コウキがした罪は消えない。智美に嫌われていても、仕方がない。


「じゃあ、俺たち行くね」


 拓也と洋子を促して先へ行こうとする。


「あ、コウキ君!」


 美奈に呼び止められてまた振り向いた。


「ちょ、ちょっと……二人だけで話せる? せっかく会えたし」


 頬を赤く染めて、もじもじしながら上目遣いで見つめてくる。その仕草に、思わず胸が音を立てた。

 美奈はこれが素だから良い。

 たまに、いかにも演技ですという感じで上目遣いで見てくる子もいて、そういう子は丸わかりだったりする。


「じゃあ……二人とも先行っててくれん?」

「え~……早く遊びたいよー」


 洋子が口を尖らせる。

 渋る洋子の腕を無理やりひっぱりながら、拓也が公園の中へ入っていった。心の中で、礼を述べる。


 智美も美奈に何かささやいてから、一人で先に歩いて行った。すれ違うときに、ちょっと目が合った。

 怒っているとも違う、何か訴えかけてくるような目だ。一瞬のことで、振り向いた時にはもう、智美は正門の向こうへ消えていた。

 二人きりになり、正門そばのベンチに美奈を誘った。


「元気してた?」


 少し汚れていたので、美奈のほうに持ってきていたハンカチを敷き、二人で座る。


「ありがと……うん、元気だよ。ごめんね。連絡先聞くの忘れてて全然連絡できなくて」

「いや、俺も忘れてて。ごめん」 


 二人の前を、幼稚園くらいの小さなこどもの群れがはしゃぎながら駆け抜けていった。後から、母親達が追いかけていく。


 冷たい風が吹いて、美奈の髪がふわりと揺れた。

 久しぶりに会った美奈は、どこか冬休み前と違って見える。

 何が違うのか分からなくて横眼で見ていると、髪の毛が少しだけ短くなっている事に気がついた。梳いたのか、全体的に軽い印象になっている。


「あれ、髪切った?」


 思わず尋ねると、美奈はぱっと顔を輝かせて頷いた。


「うん! 少しだけ!」

「良いね、似合ってる。軽くなった印象」


 そう言って笑いかけると、美奈は恥ずかしそうにうつむいた。

 お母さんに切ってもらったの。そう言って、はにかんでいる。

 肩より少し上くらいの長さで切り揃えられた髪のおかげか、長かったときよりも、雰囲気が明るく感じる。母親がやったにしては、上手い。


「で、話って?」

「あ、うん。前、ショッピングモール行きたいって言ったの、覚えてる?」

「うん、覚えてるよ」


 ついさっき、洋子の家で思い出していたばかりだ。


「あれ、どうかなって思って……」


 窺うようにこちらを見てくる。


「良いね、行こうよ。せっかく約束してたし。俺もまだ行ったことないんだよね」


 正確には前の時間軸で何回か行ってはいたが、さすがに言えない。この時間軸では、まだ行っていないのは本当だ。

 美奈は、今日一番というくらいの笑顔になって、勢いよく立ち上がった。


「ほんと!? 良かった、嬉しい! じゃあ、また連絡するね!」


 心の底から喜んでくれているのであろう表情を見て、嬉しくなった。

 美奈は、いつも演技ではない素の表情を見せてくれるところが良い。こういう顔を見せられると、こちらまで笑顔になる。


 どうしても、他の子と接しているときは、一歩引いたような感覚で接してしまう。

 無理をしているわけではないが、それこそ素ではない自分を見せている感覚で、結構疲れるのだ。

 美奈と居ると、その必要がなくて、気持ちが楽だった。


 互いの連絡先を交換した後、美奈とは分かれて、それぞれ待たせている人の元に戻った。

一度振り向くと、美奈もこちらを振り向いていた。目が合うと、恥ずかしそうに前に向き直り、そのまま小走りで去っていった。


 拓也と洋子が歩いて行った遊歩道に向かうと、カモが泳いでいる池を、頬杖をつきながらつまらなそうに眺めている二人を見つけた。

 洋子が、不機嫌そうだ。待たせ過ぎたか。売店で売っている餌を、つまんでは池に投げ込んでいる。


「あ、三木君!」


 コウキに気づくと、ぱっと笑顔になり、洋子が駆け寄ってきた。そのまま、ぎゅっと腕にしがみついてくる。

 

「ごめんなー、お待たせ」


 洋子の頭を撫でる。嬉しそうに、目を閉じている。


「遅かったなあ」


 拓也がポケットに手を突っ込んだ格好で、不満そうに近づいてくる。


「洋子ちゃんがめっちゃ不機嫌だった」

「ごめん、待たせ過ぎて」


 片手でごめんの形をつくる。

 そこで、じっと洋子が見つめてきていることに気づいた。


「どした?」

「ねえ、私もコウキ君って呼んでいい?」

「ああ、もちろん、いいよ」

「やった!」


 嬉しそうに洋子が跳ねる。くっついているコウキの身体を支えにして跳ぶせいで、身体ががくがくと揺れた。


「よし! じゃあ揃ったし、ゴーカート行こうぜ!」


 言うが早いか、拓也がすでに先へ歩きだしている。


「あーやりたいやりたい!」


 洋子もぱっと身体を離すと、慌てて拓也の後についていった。

 二人のあとを追いかける。


 この公園の名物は、観覧車とゴーカートだ。こどもは乗り物が安く乗れる。

 観覧車は高台の上にあって町が見渡せるし、ゴーカートは本格的なコースになっていて走りがいがある。

 前の時間軸では、数回しかゴーカートに乗ったことが無かった。だから、今日はかなり楽しみにしていた。


 三人でゴーカートの列に並ぶ。

 かなり前の方に、美奈と智美も並んでいるのが見える。楽しそうに笑いあっている。美奈の前だと、智美も笑うらしい。


 五年生以降、智美がコウキの前で笑うことはなくなった。それは、当然の事ではある。

 また、前のように仲良くしたいとは思っても、きっかけがない。むしろ、五年生までは、何故ああやって普通に遊べていたのだろうか。

 家が近いわけでもないし、クラスがずっと同じだったわけではない。何かきっかけがあったのかもしれないが、取り戻した記憶を思い返しても、思い当たる節は無い。

  

 洋子と拓也が、ゴーカートの料金を財布から取り出しながら話している。


「洋子ちゃんどれに乗りたい?」

「青のやつがいいな~私の時に戻ってこないかなあ」


 ぼんやりとその光景を眺めながら待っていると、順番がきた美奈と智美がスタート位置から走り出した。

 すれ違う一瞬、美奈と目が合った気がした。なかなかのスピードで通り抜けていった。

 二人のゴーカートは、すぐにカーブを曲がって見えなくなった。


 美奈とショッピングモールに行くのは楽しみだ。

 こどもに戻ってから、女の子と二人で出かける約束をしたのは初めてだった。美奈だったから、誘いに乗ったところはある。他の子とだったら、決して二人きりで行ったりはしなかっただろう。


 ただ、できれば、他の同級生には見られたくない。茶化したり、美奈の陰口を言う子が現れるかもしれない。それは嫌だ。美奈には、そういう目にあってほしくない。

 人が集まるところだ。防ごうと思って防げるものでもないかもしれないが、せめて、帽子でも被って分かりにくくしようか。

 うんうん悩んでいると、いつの間にか順番が来ていて、洋子と拓也はすでに走り去っていた。


「ま、後で考えよう」


 とりあえず今はゴーカートだった。十何年ぶりに乗るのだ。また、これに乗れる日が来るとは思わなかった。

ヘルメットを被り、アクセル全開でスタートした。風が身体を打つ。

 これだ、これがやりたかったのだ。

ハンドルが細かく揺れ、タイヤが振動を全身に伝えてきた。


 高揚感が、身体を包み込んだ。

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