二十二 「美奈と智美 二」
「ねえ、智ちゃん」
「何?」
スイカも食べ終わって、二人でだらだらと居間で過ごしているところだった。
美奈の部屋でも良かったが、狭い部屋に二人もいては暑い。風の抜ける居間の方が、いくらかマシだ。
「夏になるとさ、心霊番組とかオカルト番組とか、増えるじゃん」
「増えるねー」
「ああいうの、見る?」
「見るよ。面白いよね」
「信じてる?」
「信じてるとかはないけど、まあ、実際にあったら面白いとは思う。なんで?」
寝転がっていた智美が、顔だけこちらに向けてくる。
縁側に座っていた美奈は、庭に目を向けた。
不思議な店で元子と話してから、力は一度も使っていないし、誰にも話していない。
別に、元子が封印する道具をくれるまで、誰にも明かす必要はなかった。だが、自分ひとりで抱えるには、少し、重すぎる事実でもあった。
誰かに、知って欲しかった。
力のことを知っても軽蔑や畏怖をせず、美奈を美奈のままで扱ってくれるような人に。
そう思って浮かんだのは、やはり智美だった。
前の時間軸でも、この時間軸でも、親友として、美奈を支え続けてくれた。その智美なら、信じてくれそうな気がしていた。
「私もさ、超能力あるって言ったら、どうする?」
「あるの?」
「うん」
「へー」
「信じてないでしょ」
「美奈が、冗談言うなんて珍しいなーって」
「本当なんだけど」
智美がごろりと寝返って、肘をついて上体だけ起こす姿勢になった。
「じゃあ、見せてみてよ」
「目に見える類のものじゃないもん」
「じゃあ、何?」
「他人の心を操る力、らしい」
「らしいって、何それ?」
「詳しい人が教えてくれたの」
「なんか、嘘くさい」
まあ、自分でもそう思う、と美奈は思った。
「じゃあ、実際に智ちゃんにやってみるのは、どう?」
「私に?」
「そう。私が今から、智ちゃんを操って言う事を聞かせるから、それで証明する」
智美が、身体を起こして胡坐を組んだ。
「じゃあ、私はそれに逆らえば良いんだ?」
「まあ、そう、かな」
「良いよ、やってみなよ」
「じゃあ」
許可は得た。あまり大きな命令をしなければ、大丈夫なはずだ。
何を命令しようか、と美奈は思案した。どうせなら、少し捻りも効かせてみたい。
少し考えてから、美奈は、姿勢を正した。
「行くよ」
「うん」
「智ちゃんは、今から一分間だけ、私の言う事を聞いて。これは、命令だよ」
美奈がそう言うと、瞬時に智美の目が、変わった。力が作用したのだ、と美奈は思った。
「……分かった」
時間制限をつけてみたが、上手く行くだろうか。もし時間制限が通用しなかったら、今度は、今出した命令を取り消す命令を出す。恐らく、それは効くはずだ。そうすれば、智美にかかった美奈の言う事を聞くという命令は、相殺される。
「立って」
智美が、立つ。
「ジャンプしてみて」
智美が、ジャンプをする。
「じゃあ、座って」
それで、命令するのをやめた。
一分経つと、智美が目を瞬かせた。途端に、困惑した表情になる。
「どうだった?」
「どうだった、って」
「私の言う事、聞いたでしょ」
「???」
訳が分からないという様子で、智美が眉をしかめた。
「もしかして、自覚無い?」
「いや」
「あるんだ?」
「……」
智美は答えない。
混乱する智美が落ち着くのを、美奈は黙って待った。
美奈も、この力については分かっていないことが多い。
今まで意図せずかけてきた吹奏楽部員達は、命令され従わされたことを認識していなかった。
それはコウキや陽介もそうで、だから力の話をしても、気のせいだと言われて終わりだった。
団扇を扇ぎながら待っていると、智美が、小さく声を上げた。
「もっかいやってよ、美奈」




