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青春ユニゾン  作者: せんこう
小学六年生・美奈編
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三 「宣言」

「コウキ、忘れもんない?」


 玄関で、母親に呼び止められた。


「ないよ」

「あんた、今日何時に帰ってくるの?」

「お昼前かな」

「またお昼は何か買ってきなさい。お母さんも出かけるから」

「うん」


 どうせ、またパチンコだろう、とコウキは思った。

 別に母は嫌いではないが、パチンコばかりするのは嫌だった。父もパチンコが好きだし、しかもタバコも吸う人だった。


 夜は会話もするし、たまに家族でどこかに遊びに行ったりもした。母の料理は美味しいし、父は楽しい話をしてくれた。

 悪い親ではなかったと思う。

 ただ、パチンコばかり行かないでほしいとは、こどもの頃から思っていた。


 その反動からか、大人になってもコウキは、ギャンブルはもちろん、タバコも全く興味のない人間だった。

 成長して実家を出るまで、パチンコに行く両親を見続けるのは憂鬱だ。だが、さすがにこどもが親のパチンコ癖をやめさせる事は出来ないだろう。


 もう慣れてしまっていて今更な感じもするし、パチンコに行く日は昼食代も置いていってくれる。諦めて、気にしないでおく方が、精神的に良い。


「行ってきます」


 後ろを見ず、家を出た。

 今日は始業式だ。

 二学期が、始まる。


 マンションの階段を下りていく。高揚した心の影響か、足取りが軽い。

 やっと、懐かしいクラスメイトに再会できるのだ。

 昔は苦手だった子や仲が良くなかった子とも、普通に接する事が出来るだろうか、という不安はある。

 だが、コウキは元は二十八歳だ。向こうはこどもである。落ち着いていれば、大丈夫だろう。


 マンションの玄関ホールまで降りると、すでにほとんどの子が集まっていた。


「おはよー」


 皆に挨拶をする。

 沈黙。

 誰も挨拶を返してこない。


 今までのコウキは、マンションの子と挨拶を交わすような人間ではなかった。だから、不自然に見えたのかもしれない。

 今はこの調子でも、続けていれば、そのうち返してくれるようになるだろう。


 コウキの通う小学校は、学区ごとに生徒が班を作り、まとまって登校する。

 このマンションに住む生徒は、全員で登校だ。

 

 すぐに全員揃ったので、並んで登校した。

 低学年の子を挟んで、六年生のコウキともう一人が前後を歩く。


 懐かしい、とコウキは思った。

 こうして列を作って登校するのは、小学生までだった。六年生だから、低学年の子をしっかり見守るという責任感も感じて、登校の時間はいつも真剣だった。

 大した事でもないのにいちいち懐かしく感じてしまうが、十五年ぶりの小学校生活だから、自然な事かもしれない。


 校門を抜けると、班は解散する。各々ばらけて、下駄箱へ向かった。

 コウキも下駄箱で上履きに履き替え、歩き出したところで、後ろから声をかけられた。


「あ、三木君」


 振り返ると、昨日教室で会った奈々がいた。


「ああ、おはよ」

「おはよー」

 

 今日の奈々は、普通だった。

 昨日、急に無言になったのは何だったのか、とコウキは思った。

 聞きにくかったが、もやもやするのは嫌いだった。

 悩むくらいなら、聞いてしまったほうが早い。


「奈々さん」

「うえっ!?」


 上履きに履き替えている途中だった奈々は、驚いてバランスを崩した。


「な、何?」

「いや、昨日さ、俺なんかした? 急に避けられた気がしたけど」


 奈々が上履きを履いたので、並んで歩き出す。


「別に……ていうか、なんで名前? 夏休み前まで私のこと桑野さんって呼んでたじゃん」

「……あ」


 言われて、合点がいった。


「あ~、嫌だったら戻すけど?」

「え、ううん。別に良いよ。昨日も今も、急だったから驚いただけ」


 奈々は、顔を前に向けたままだった。 

 かつては、同級生の女の子を名前で呼ぶ事は、ほとんどなかった。

 だが、今のコウキからすれば、周りはみんなこどもだ。奈々も、何気なく名前で呼んでいた。

 人と早く仲良くなるには、それで良いかもしれない。

 

「じゃあこれから奈々さんって呼ぶよ」

「う~……ん……慣れない!」


 奈々は顔を赤らめながらそう言うと、走り出して先に階段の上に消えていった。

 かつてのコウキなら、奈々の行動の意味は全く分からなかっただろう。今なら、分かる。

 照れたのだ。

 

 相手の様子をしっかり観察していると、思いのほか自分は緊張しなくて済む事に、コウキは気がついた。

 相手も同じ人間なのだ。緊張もするし、怒るし、笑う。反応をしっかり見ながら対応すれば、うまくやっていけるかもしれない。

 

 かつての自分は、どちらかというと人見知りのほうだった。それも、人と離れていった原因の一つだろう。

 仲良くなるには、自分から近づいていくのが一番だ。

 恥ずかしがらずに、積極的に声をかけていこう、とコウキは思った。


 教室に入り、すれ違うクラスメイトに挨拶をする。皆、ぽかんとした表情をしている。挨拶を返してくる子、返してこない子、色々だった。

 初日は、こんなものだろう。


 自分の席に座ると、少ししてから隣の森屋亜衣が登校してきた。


「おはよ」


 亜衣にも声をかける。驚いてこちらを見たが、無言だった。鞄を置くと、亜衣は離れていった。


「う~ん」


 腕を組んで、唸る。

 こども達の挨拶の返事の少なさは、ちょっとした衝撃だった。

 人と人の関係の基本は、挨拶だ。会社で、それは嫌と言うほど学んだ。コウキにとって、人と会ったらまず挨拶をするのが、当たり前だった。

 

 これまでのコウキが挨拶をする人間ではなかったから、急に挨拶されて驚いているというのもあるだろう。それにしても、だ。

 男友達の弘樹や健は、普通に返してくれた。友達だから、それは当然かもしれない。


 ふと、健は友達なのに、たまにコウキをいじめてきていた事を思い出した。

 流れ込んできた小学校時代の記憶の中でも、やはり健はいじめっ子だった。


 こども時代のコウキは、すぐに癇癪を起こす性格だった。ちょっとからかわれると、大声で怒鳴ったり、暴れたり、相手と殴り合いに発展していた。

 それを面白がって、わざと怒らせようとしてくる子の一人が、健だった。


「……なんで友達だったんだろう」


 思わず、呟いていた。

 とはいえ、大人になってからは癇癪を起こす事もなくなったし、これからもそうするつもりは一切ない。卒業までには、短気の印象を消したい。

 中学高校にも関わってくる問題でもある。


 あれこれと考えていると、チャイムが鳴り、教師が入ってきた。

 教師の話を聞いてから体育館で始業式を済ませ、教室に戻って、教師から明日以降の予定が連絡されて、それで下校となった。

 下校は、各自自由に帰宅する。


 コウキは、すぐには帰らず教室に残った。


 今日から、やるべき事をどんどんやっていこうと考えていた。

 まずは、今までいじめたり、傷つけてきた子に謝る。

 話は、それからだ。


 クラスにも、一人いた。

 福田喜美子という女の子だ。暗めの性格の子で、男子からも女子からも嫌われていた。

 

 まずは今日、喜美子に謝ろうと思っていた。

 喜美子はいつもほぼ最後に帰る。空気のように自分の机でじっとしていて、誰かに目をつけられるのを避ける。そうして、人が少なくなってから、そっと帰る。そういう子だった。

 クラスメイトが誰もいなくなった頃に、喜美子に声をかけた。


「福田さん」


 びくっとして、喜美子がこちらを見てくる。


「急に話しかけて、ごめん。実は、今まで福田さんをいじめてきた事を、今日謝りたかったんだ。ごめんなさい」


 深く頭を下げる。


「……福田さんからしたら、急に謝られても訳が分からないし、許せないと思う。ただ、福田さんをいじめていたのは、間違いだったと気づいたんだ。もう俺、福田さんをいじめたくないし、福田さんとも普通に接したい。だから、謝りたくて。本当にごめん」


 喜美子は、何も言わない。

 里保の時と同じだ。当然だろう。

 いきなり謝られても、またいじめの一種かも、と困惑したりもするだろう。


 黙って、喜美子の反応を待った。


「……三木君が謝ってきても、他の人は私をいじめるから、変わらないよ」

  

 随分経ってから、喜美子が言った。

 喜美子の危惧は、コウキも分かっていた。自分だけがいじめをやめたところで、他の子が彼女をいじめる。それでは、本当にただのコウキの自己満足だ。喜美子が傷つかない生活を送るという根本は、解決しない。


「俺がいる前で、そういう奴がいたら、止める」

「出来ないよ……そんなの」

「いや、やるよ。いじめとか、もう嫌なんだ。俺がするのだけじゃなくて、他の子がするのを黙って見てるのも」

  

 本心だった。


「そんな事で、許してもらえるとは思ってない。けど、俺がしたいからする。それだけ、伝えたかった。じゃあ、また」


 そう言って、コウキは教室を出た。

 

 今までいじめられてきた子達が、急に謝られて、はいそうですか、とはならない事は分かりきっていた。

 言葉を尽くしても、意味はない。

 行動を見せていかないと、結局は何も変わらないのだ。


 明日から、クラス内でのいじめは、喜美子に限らず、絶対止めて見せる。

 この世界の全てから、コウキ一人でいじめをなくせるとは思っていない。学校全体でも、難しいだろう。ただ、自分の目の届く場所だけでも、無くしてしまいたい。


 そのためには、ただ止めるだけでは駄目だ。

 計画的にやらなくては、単にコウキが孤立するだけになる。

 クラスの輪に溶け込みつつ、その輪を広げるようにやっていく。それが最善だろう。

 いじめをする必要が無い、と皆が思うようになれば、自然といじめは無くなるはずだ。

 

 困難な道だろう。

 それでも、やる。

 そのために、薬を飲んだのだ、とコウキは思った。 





















 翌日からは、授業が始まった。

 国語、算数、社会、理科。

 コウキには、つまらないを通り越して無駄に思えて、ひたすら睡魔と戦うだけの時間だった。

 すでに覚えている小学校程度の内容を勉強するのは、苦痛である。


 昼休みに、図書室で本でも借りてこよう、とコウキは思った。

 教科書に隠して読んで、時間つぶしに使う。

 こんな授業をあと半年も繰り返すのかと思うとちょっときついが、戻ってくる選択をしたのは自分だから、仕方がない。


 四時間目まで授業が終わり、給食を食べて、昼休みとなった。

 掃除も終えて、早速、図書室へ向かった。

 中には、ぱらぱらと人がいる。


 児童向けファンタジーのコーナーから、適当に一冊選ぶ。なんでも良かったが、まだ読んだことがなくて題名だけ知っている作品があったから、それにした。

 カウンターに借りに行こうとしたところで、突然、隣の低学年用の絵本室から怒鳴るような声が聞こえてきた。

 男の子の声だ。女の子の泣く声もする。


 扉の窓から様子を覗くと、女の子が読んでいたらしい絵本を、二人組の男の子が無理やり引っ張って取り上げたところだった。女の子が、泣いている。

 思わず、飛び込んでいた。


「おい、お前ら何してんだ」


 二人に近づき、勢いよく絵本を取り返す。慌てた二人が、声を上げた。


 記憶が戻っていたおかげで、この二人には見覚えがある。四年か五年の子だった。

 以前小学生だった時は、クラスに居辛い時期があった。その時期は、放課の度にひたすら校舎内を歩き回っていた。そのおかげで、大方の生徒の顔は覚えていた。

 

「返せよ!」


 二人が身体に取り付き、絵本を奪おうとしてくる。

 腕を高く上げて、取られないようにした。背が高い方ではなかったが、それでも二人に比べれば高い。


「先にこの子が読んでたんだろ。人の読んでる本を取るな」 

「うるせぇ! 関係ないだろ!」

「あるよ。つまらない事、するなよ」


 鋭く睨みつけたら、二人は怖じ気づいたのか、もごもごと捨て台詞を吐きながら絵本室を出ていった。

 上級生に睨まれてやめるようなら、初めからしなければ良い。

 自分より弱いと見た相手には強気で、強いと見た相手は避ける。典型的ないじめっ子だ。

 

 完全に二人が立ち去ったのを確認して、泣いていた女の子のほうに向きなおり、絵本を渡した。


「もう行ったよ。泣かないで」


 なるべく優しく、声をかけた。本を渡して、頭を撫でる。

 まだ、すすり泣きを繰り返している。


 この子は、見覚えがなかった。見た目的に、三年か四年だろう。

 隣に座り、頭を撫でながら絵本を朗読していたら、そのうちに泣き止んでいた。

 予鈴が鳴って、戻る時間になった。


「俺、六年四組の三木コウキ。またいじめられたら、言ってきな。ここにも、たまに顔だしてあげるから」


 女の子の頭をもう一度撫でて、コウキは絵本室を出た。

 借りるつもりだった本を受付の図書委員に渡して借り、教室に戻ろうとした。その途中で、ふと思い出した。


 かつて、同じような事があった。

 絵本室にたまたま入ったら、いじめられている女の子がいて助けてあげたのだ。あの時も、二人組の男の子から助けた。

 今まで忘れていたが、もしかしたら、あの女の子も男の子達も、同じ子だったかもしれない。

 偶然だったのに、前の時間軸と同じ事を経験したのか。


 前の時間軸では、あれからどうなったのだろうか。助けたのは、一度きりだった。

 そもそも、前はどうやって助けたのだろう。今回も、全く同じ行動をしたのか、違う行動をしたのか。いや、前の自分なら、頭を撫でながら絵本を読むなどという事は、しなかっただろう。

 いずれにしても、またあの子がいじめられる事がないよう、しばらく図書室は気にかけたほうが良い。


 午後の授業が始まっても、コウキは大半を読書でやりすごした。

 教師に当てられても問題なく答えられるよう、意識は半分授業の方にも向けておくことを忘れず、こっそりと読書をしていれば、苦痛だった授業もあっという間に過ぎた。

 高校生の時も、同じように授業中に漫画を読んだり小説を読んだりしていたので、慣れたものだった。


 あまり褒められた行為ではないが、読書が捗るのは良い。今後の授業のほとんどを読書にあてれば、かなりの量を読めるだろう。

 この機会に、いろんな本を読んでおくのも良いかもしれない。

 歴史物の名作漫画も図書室にあったし、そういうのも読み返しておこうか。


 あれこれ考えているうちに、一日の授業が全て終わった。

 後は帰るだけだ。六年生のクラブ活動で所属していた金管クラブはもう引退していて、学校に残ってやる事は無くなっている。

 教師の話も終わって、解散となった。

 通りがかりに、喜美子に挨拶をした。


「福田さん、ばいばい」


 喜美子は、返事をしなかった。


「おい、三木!」


 教室を出たところで、クラスメイトの健と元気に首をつかまれた。


「なんで福田に挨拶してんの!?」

「キモくねぇの!?」


 クラスのいじめのリーダー核の二人だ。健は、友達でもあった。


「キモくねぇよ。もう俺いじめとかしないから」


 そう宣言すると、二人は大笑いをはじめた。


「何言ってんの!? キィッモ! キモッ! 三木めっちゃキモいわ~!」


 健が、廊下中に響くような声で馬鹿にしてくる。

 こういう人間だった。からかって、相手を怒らせ、それを楽しむのだ。

 だが、単純な煽りだった。何も、心が動かない。


「キモくねぇって。お前らが他の子をいじめてたら、やめさすからな」


 睨みつけると、健と元気は途端に怒りで表情を歪めた。


「何生意気言ってんだ! ウゼェ!」


 肩を殴られる。

 元気も反対の肩を殴ってきた。

 さすがに、少し苛立ちを感じた。だが、こどもの喧嘩だ。ここで怒れば、前と同じになる。短気の三木として、馬鹿にされる。


 気持ちを切り替え、にっこりと笑いかけて二人の肩を掴む。


「まあまあ、二人も仲良くしようよ」

「はあっ!?」

「喧嘩しても面白くないじゃん。一緒に帰ろうぜ」


 そう言って、コウキはさっさと歩き出した。

 

 以前の自分だったら、ここで喧嘩になり、六年生中の生徒が喧嘩を見て騒いだだろう。

 そのうち教師がやってくるか、他の男子に止められて終わるのだ。

 ああいう事には、もうならない。


 拍子抜けしたのか、二人はしばらくしてからコウキを追い越すと、走って階段を下りて行った。


「だ~れが一緒に帰るか! ば~か!」


 捨て台詞を吐きながら、二人はすぐに見えなくなった。

 階段を勢いよく駆け下りていく音だけが、遠ざかっていく。

クラスを変えていくと決めたが、一番手強いのはあの二人だろう。他人をいじめる事が、当たり前になっている。あと半年で、あの二人も変えられるだろうか。


「ねえ、三木君!」


 肩を叩かれて、後ろを振り向く。

 奈々と亜衣と、違うクラスの女の子がいた。


「何?」


 三人は驚いた表情でこちらを見ていた。


「どうしちゃったの!? いつもなら絶対あれキレてたよね!?」

「絶対喧嘩になると思った!」

「私も!」

 

 苦笑した。分かってはいたが、やはりそういう認識をされていたのだ。


「いや~、キレたら解決するわけじゃないしね」


 へらっと笑って、歩き出す。

 三人も後を付いてきた。


「三木君、夏休みでなんかあったの? 前と違くない?」


 奈々が横に来て、顔を覗き込んでくる。


「いや、そんな事ないけど……」


 本当の話は言えないので、適当に誤魔化すしかない。だが、なおも三人は突っ込んで質問をしてきた。


「それにさっき福田さんに挨拶してたでしょ!? なんで!?」

「マジ!? なんで!?」

「なんでって……クラスメイトだし挨拶くらいするでしょ」


 三人はぶんぶん首を振る。


「誰にでも挨拶しないでしょ! するのって、友達くらいじゃない?」


 亜衣が言うと、他の二人も同調して頷いた。


「それに三木君も福田さんの事嫌ってたじゃん!」

「あ~……前はそうだったけど、もうそういうの、しないから。他にいじめてる奴がいても、止めるよ」


 その言葉を聞いた三人は、口をぽかんと開けて呆然とした。

 多分、他の子からしたら、コウキの急な変わりようはおかしく見えるだろう。

 いままでいじめをしていた人間が、急にやめると言いだしたのだ。夏休みに何かあったと思っても、不思議はない。

 いっそ、本当に何かあった風にしておけば良いのだろうか、とコウキは思った。


「三木君、良いカッコしぃ?」


 不意に、違うクラスの子がにやっと笑いかけてきた。それが、妙に勘に障った。

 名前は覚えてないが、こんな子だっただろうか。


「……まあ、そうかもね。三人も仲良くしてよ」


 受け流して笑いかけると、三人はきゃあ、と声を上げた。


「え~!」

「ど~しよっかな~」

「ね~!」


 思わず、ため息をついていた。面倒だったので、三人に挨拶だけして、さっと走り去った。


 小学生の女の子は、ああいう感じだったのか。以前はあまり関わりがなかったから、ちょっと意外だった。

 だが、あの三人はスクールカーストでは上位の子達だ。

 仲良くしておくと、いざという時、助かる事もあるかもしれない。

 別に完全に打算で仲良くしようというのではなく、本当に仲良くなりたいという気持ちもあるが。


 どうするにしても、一気にいかずに、徐々に、だろう。

 いきなり全部を変えようとしないほうが良い。

 焦らず、一つずつ。

 まだ始まったばかりなのだ。

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