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青春ユニゾン  作者: せんこう
中学三年生・文化祭編
35/444

四ノ四・五 「ある男の過去」

 高校を卒業し、企業へ就職して二年目のことだった。

 同期が集められ、社内で研修教育が行われた。


 三週間の研修で、三十人ずつのクラスに分けられて様々な研修を受けた。そのクラスで、コウキは彼女に出会った。

 昼食を一緒に食べたり、クラスでの懇親会で話したりするうちに仲良くなり、研修が終わる頃には、二人は交際を始めていた。


 なんとなく馬が合う、という感じで、緩やかに始まった恋だった。

 最初は順調で、食事に行ったり買い物に行ったり、普通の若い恋人らしく、互いの関係を深めつつあった。

 だが、研修が終わってそれぞれの部署に戻ってから、ひと月ほど経った頃に、彼女の他県への異動が決まった。

 車で高速道路を飛ばしても、三時間はかかる距離だ。


 遠距離恋愛になることに、二人とも不安は感じていたが、それほど長い期間にはならないだろうという淡い期待もあって、互いに乗り越えよう、と約束しあった。


 彼女が転勤してから最初の数か月は、月に二、三回はコウキが彼女に会いに行った。だが、次第に彼女の仕事が忙しくなり、月に一回、ふた月に一回と会う回数は減っていった。


 彼女と付き合いだして一年ほどして、彼女の誕生日に、コウキは彼女の元へ向かった。

 若さゆえの軽率さと無知は恐ろしい。

 彼女を驚かせて喜ばそうとしたコウキは、内緒で彼女の家に向かい、そこで別の男と家に入っていく彼女を見てしまった。


 コウキは、彼女に詰め寄ることも、男に暴言を吐くことも出来なかった。ただ、事実に打ちひしがれ、何もしないまま、帰宅した。

 彼女との連絡は断ち、ほどなく自然消滅のような形で、彼女との縁は切れた。


 よくある話だ。


 彼女も、最初はコウキと会えることを心から喜んでくれていた。

 だが、時間が経つほどに、その顔から喜びは減っていた。コウキはそれに気づきながら、そんなわけはないと気づかないふりをしていた。

 二人なら乗り越えられると思っていた。


 そのつけだ。

 彼女を責められるものではない。


 誰だって、大切な人にはそばにいてほしい。

 そばにいられないのなら、その気持ちは離れてしまう。

 もしかしたら、他の恋人を作ったのは、彼女ではなくコウキであったかもしれないのだ。


 遠距離恋愛のすべてが同じ結果になるわけではない。だが、それでもコウキは、大切な人と離れるのは、もう嫌だった。


 なぜ離れなくてはならないのか。

 仕事だからか。生活だからか。


 大切な人のそばにいること。目の前にいる人を大事にすること。それが、何よりも重要ではないか。

 大切な人が隣にいないのに、何が人生なのだ。

 

 彼女とのことがあったから、今のコウキがある。

 コウキにとっては辛い過去の一つだが、そのおかげで、今、コウキの周りには大切にしたいと思える人が大勢いる。


 もう二度と、あんな思いはしたくないのだ。

 そうなるくらいなら自分の気持ちを告げないほうが良い

 告げてしまって、また同じことが繰り返されたらと思うと、恐ろしい。


 またあの気持ちを味わいたくはない。それなら、この気持ちが消えるのを待つほうが、ずっと楽なのだ。

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