三ノ序 「恋愛マスター・三木」
一学期で、もっとも生徒が浮わつく日といえば始業式だろう、とコウキは思った。
この日だけは、誰もがそわそわと落ち着きがなくなる。
新しいクラスに振り分けられ、それまでの交友関係がリセットされる可能性もあるのだから当然だ。
下手をすると、これからの一年間、暗い学校生活を送ることにもなりかねない。それくらい、クラス替えは思春期のこどもにとって重大事である。
久しぶりに、拓也と登校していた。
普段は二人とも部活動の朝練があって時間がずれるため、別々に登校している。こういう時くらいしか機会が無いので、コウキから誘った。
クラス替えが気になるのか、さすがに拓也も挙動に落ち着きがない。
コウキ自身も緊張していないと言ったら、嘘になる。この二年間、多くの子達と関わってきた。それでも、まだ話したことのない子が沢山いる。
また一からクラス内の関係の構築をしなくてはならないのだから、緊張するのは自然だろう。
早めに登校したつもりだったが、三年生の下駄箱にはすでに生徒が群がっていた。
東中では、毎年一学期の始業式には下駄箱に紙が貼り出され、クラスの振り分けが発表される。それを見て、それぞれの教室へと向かう。
早く自分の名前を探そうと、大勢がクラス表の前で騒いでいる。
コウキと拓也も最後列に並び、前が空くのを待った。
「あ、拓也くんおはよー」
聞き慣れない声に振り返ると、拓也の後ろに、桑野奈々がいた。小学六年生だった時、同じ四組だった子だ。コウキがこの時間軸に戻ってきて、最初に会話をした同級生でもある。
中学に上がってから、一度も同じクラスにはならなかった。
「おーおはよ」
軽く手をあげて、拓也が応える。
この二人は、こんな風に挨拶する仲だったのか、とコウキは思った。随分と親し気だ。
「クラスの振り分け、もう見た?」
「いや、まだ」
「めっちゃ人多いね」
「前が空かないんだよなあ」
「あれっ、三木君じゃん、久しぶりっ」
コウキに気づいた奈々が、背中を叩いてくる。中々の力に、じんわりと背中が痛んだ。
「久しぶり、奈々さん」
にこりと笑いかけてくる。
奈々は、小学生の頃から垢抜けた感じの子だった。今も、制服の着こなしが洒落ている。一層華やかな見た目になっていて、コウキは感心した。
「二人って仲良かったの?」
二人が親しそうに話しているので疑問に思って尋ねると、拓也と奈々は顔を見合わせた。
「……良いよね?!」
奈々がぐいっと近づいて、拓也に同意を求める。
彼女が、つばを飲みこむ音が聞こえた気がした。
「まあ……悪くはないような」
「うんうん、良い、絶対良いよ!」
拓也の反応に、満足気だ。奈々のその様子で、分かった。
奈々は、拓也が好きなのだろう。
「いつから? 小学校の頃はそうでも無かったくない?」
「去年クラス同じだったからな」
「それだけじゃないでしょっ。一緒に遊んだりしたじゃん」
「遊んだっていうか……買い物に付き合ったというか……」
それ以上は、とコウキは思った。
案の定、奈々の顔がみるみるうちに不機嫌になっていく。止める暇もなく、奈々が拓也の脇腹に向かって、拳を打ち付けた。
拓也の口から、絞り出したような呻きが漏れる。
「馬鹿っ」
呟いて、奈々は無理やり人だかりの中へ入っていった。押しのけられて、周囲の生徒が顔をしかめている。
脇腹をさすりながらぽかんとした様子でそれを見送り、
「なんで馬鹿って言われなきゃいけないんだよ?」
と拓也が言った。
「相変わらず女の子に興味ないのな」
「どういう意味だ?」
「分かんないなら、良いよ」
疑問符を頭の上に浮かべているのが、見えるかのような様子だ。
放っておこう。
怒ったとはいえ、本気で嫌いになった訳ではないだろうし、奈々も他人から自分の気持ちをばらされたくはないだろう。
しばらく待っていると、前の人だかりが張り紙の見える位置まで進んだので、自分の名前を探し始めた。
「お、俺、一組だ」
自分の名前を見つけて、拓也が声をあげた。
「うーん、大分クラスメイト変わるなぁ」
コウキは、三組だ。結局、拓也とは三年間違うクラスだ。残念だが、仕方ない。
続けてクラスメイトの名前を見ていく。知った名前が何人かいる。奈々も同じクラスだ。六年生の時のクラスメイトが、ちらほらいる。
これは幸運だ。バランスよく友達と知らない子とが混ざっているので、新しい関係を築きやすいだろう。
「何組だった?」
「三組」
「近いじゃん、やったな」
一年と二年の時は、互いの教室が廊下の端と端くらい離れていた。そのため学校では中々会えなかったのだが、これからは会う機会も増えるだろう。授業によっては一緒にやる事もあるかもしれない。
後の人に場所を明け渡すため、たまり場を抜けて、階段を上がった。三年生は四階だ。
「じゃ、また帰りに」
「うん」
一組の前で拓也と別れた。二年の時のクラスメイトがいたのか、拓也と男子生徒のはしゃぐ声が教室から聞こえてくる。
拓也は、小学生の頃ほど無口ではなくなった。サッカー部に入ったのも影響があるかもしれない。今では人から慕われる男になっている。
二組の教室の前も通り越し、三組の扉の前で止まる。中からは、すでに人の声が聞こえてくる。
何度経験しても、最初の一回は緊張する。この始まりで、その後の一年が決まるのだ。
今年も、うまくやれるだろうか。
深呼吸をして、扉を開けた。
中にいたクラスメイトの視線が、一斉に集まってくる。
「おーっ! 三木!」
すでに教室に来ていた友人が、顔を輝かせながら近づいてきた。
肩を組まれながら中へと連行される。
「三木がいて良かったぜ、マジで! お前が居るとクラスの空気良いんだよなっ」
友人が、笑いかけてくる。去年も、同じクラスだった。
「一年間またよろしくなっ」
「ああ、よろしく」
黒板に書かれた席順を見て、自分の席へ向かう。他のクラスメイトからも、挨拶が飛んでくる。
席は、窓際の一番後ろという一等地だ。苗字がま行のおかげで、高い確率で最初は窓際になれる。窓際の一番後ろと言えば、目立たず好きな事をしていられるし、つまらない時は外も眺められる、最高の席だ。誰もがこの席に座りたがる。
鞄を置いて、友人達と雑談に興じた。
奈々が席に座っているのは見えていたが、まだ不機嫌そうだった。拓也の自分の事に関する鈍さは、女の子達に同情したくなるほどだ。恋愛自体に興味が無い男だし、振り向かせるのは至難だろう。
やがて朝礼が始まり、担任の話とそれぞれの自己紹介が始まった。
奈々以外に元六年四組の子は、森屋亜衣と福田喜美子がいた。
それと、同じ小学校だった中村智美もいた。彼女とは、五年生までは仲が良かった。五年生の時に、クラスメイトだった吉田里保を、コウキがいじめていた。智美と里保は、友達だった。その件で、智美とはずっと気まずい関係のままだった。
里保には、この時間軸に戻ってきてすぐの時に、謝罪していた。中学一年生の時には、同じクラスになっていて、彼女が話してくれるようになったおかげで、今は友達として、普通に接することが出来ている。
智美は、五年生以来、初めて同じクラスだ。挨拶程度なら、していた。今も、智美はコウキを許していないかもしれない。
うまく、やっていけるだろうか。
クラスメイトの自己紹介を聞きながらぼんやりと眺めていたら、智美と目が合ってしまった。慌てて目を逸らす。
智美を前にすると、うまくいかない。何となく、苦手意識がある。
コウキが誰かをいじめた事実は、決して消えない。それで他の誰かから恨まれたり憎まれても、仕方がないのだ。
自分の取った行動には、一生責任がついて回る。それを取り消すことは不可能だ。
始業式とホームルームが終わって、解散になった。初日は午前終わりだ。
今日は部活動もすべて休みになっている。
どこのクラスも大体同じ時間にホームルームが終わったので、廊下は下校する生徒で溢れていた。
帰宅する友人達に挨拶を済ませて教室を出ようとしたところで、奈々に声をかけられた。
「相談したいことがあるんだけど……一緒に帰ってくれない?」
言いにくそうに、もじもじしている。相談内容は予想がつく。拓也のことだろう。
拓也と帰る約束をしていたが、先に帰ってもらったほうがよさそうだ。
「わかった。じゃあ、校門で待ってて」
頷いて、奈々は教室を出ていった。
「コウキ君」
また誰かに話しかけられたので、振り向く。
にこにこと笑顔を浮かべながら、喜美子が立っていた。
「一年間よろしくね」
「ああ、よろしく。また、同じクラスだな」
「うん! 良かった、最後のクラスがコウキ君と一緒で」
「そう言ってもらえると、嬉しいよ」
「今の私があるのは、コウキ君のおかげだから」
「そんな……」
「じゃあ、またね」
「……うん、また」
手を振りながら、喜美子は教室を出て行った。
彼女はすっかり変わった。服装や清潔感を自分で整えられるようになったことで、自信が持てるようになったのだろう。以前からは想像もつかないほど、明るい女の子になっていた。
友達も出来ているし、確か奈々や亜衣とも普通に会話していたはずだ。
彼女が笑顔で学校生活を送れるようになったことは、素直に嬉しかった。過去に戻ってきた甲斐があったと思える。それを目指していたのだから。
喜美子の姿を見送っていたら、後ろの扉から出たのだろう、智美が廊下を通った。一瞬目が合ったが、何も言わずに、去って行った。コウキも、口を開けなかった。
やはり、まだ嫌われているのかもしれない。
ため息をつきつつ、教室を出る。一組の前でホームルームが終わるのを待った。まだ担任が話している。
ホームルームが終わると、生徒がわっと出てきたが、拓也はまだだった。
中で話しているのだろう。
何気なく、廊下の窓から外を眺めた。
校舎の裏は職員駐車場になっている。背の高い木々で囲まれているうえに、校舎の陰になっていて、少し薄暗い。あまり生徒は立ち入らない場所だ。
木で視界を遮られていて、学校の外もうまく見えない。
もう少し陽が入ると校舎裏の景色も良いのに、などと考えながらぼんやりと過ごしていると、
「さっさと帰れー」
という一組の担任の声が漏れ聞こえてきた。
すぐに、拓也がクラスメイトと一緒に姿を現した。
こちらに気づいて、近づいてくる。
「お疲れ」
「お疲れー帰る?」
「ごめん、ちょっと相談事を持ちかけられたから、今日は先に帰ってくれん?」
「おー、わかった。がんば」
そう言って拓也はさっさと歩き出す。こういう時、拓也はすぐに事情を察してくれる。あっという間に、拓也の姿は角を曲がって見えなくなった。
滅多に一緒に帰られないから、本当は拓也と帰りたかったが、仕方がない。
拓也に関する相談なのに、本人に聞かせるわけにはいかない。
中学に上がってから、同級生から相談をされることが増えていた。
困っている子がいると見過ごせなくて、持ちかけられた相談には出来るだけ乗るようにしていたからか、相談と言えばコウキ、と周りから認識されている。
中学生と元二十八の男とでは、人生経験の量が違う。その分出来るアドバイスも多いから、頼られるのだろう。
とはいえ、仮に二十八の身体のままのコウキが、彼らの相談に乗ったとしても、その言葉は刺さらなかっただろう。今はこうしてこどもの身体になっている。同年代のコウキから受けるアドバイスだからこそ、こどもたちも真剣に受け止めてくれるのだと思う。
大人の言葉には反抗しても、友達の言葉なら耳に残るというのは、誰しも経験があるはずだ。
校門に着くと、奈々が壁にもたれかかって待っていた。
合流して、一緒に歩き出す。
「ありがとね」
「うん、良いよ。で、相談って?」
奈々が話し出そうと口を開いたところで、吹奏楽部の後輩が脇を抜けながら挨拶してきた。
走り去るのを見送って、もう一度奈々に尋ねる。
「……拓也君のことなんだけど」
「やっぱり。だと思った」
驚いた様子で、ばっと振り向いてくる。
「えっ、気づいてたの?」
「朝の様子的にそうかなーと」
「それだけで? はあ、やっぱ三木君って鋭いね」
「あれは……拓也が鈍すぎるだけじゃないか?」
「言えてる」
顔を見合わせて笑った。
拓也は人のことでは勘が鋭いのに、自分のことになると途端に鈍感になる。見事なまでに、拓也に気がある女の子の想いに気づかないのだ。
緊張がほぐれたのか、奈々は悩みを打ち明けだした。
「二年のとき、拓也君と同じクラスだったんだ。席替えで席が隣になって、話すようになって、それで仲良くなったんだよね。結構話すうちに、良いなぁって思うようになったんだけど……色々攻めてみてるのに、全然私の気持ちに気づいてくれないんだよ」
鞄を振り回しながら愚痴る。
拓也の鈍さを思い出したのか、むくれている。
「拓也、女の子に興味ないからなあ」
「そう! 私以外にも拓也君に近づいてる子がいるんだけど、誰も相手にされてないの。だから取られる心配はないけど、私も全然ダメっていう」
奈々のため息。肩を落としてとぼとぼと歩いている。
ころころと様子が変わる子だ。面と向かって話すのは随分久しぶりで、初めて見る姿が面白い。
「奈々さんは拓也と付き合いたいってこと?」
「えっ!? あ、うん、そう!」
顔を真っ赤にして慌てている。
「告白とかしないの?」
「いや、今告白しても絶対失敗するもん……。拓也君、絶対私のことなんとも思ってないし」
「まあ……それは、そうかも」
「……でしょ」
拓也は誰かと付き合う気は全くない、と以前言っていた。好きではない子から告白されても、まず間違いなく断るだろう。
奈々は、意外と状況をよく読めているようだ。恋愛に夢中になると、周りが見えなくなって自分の気持ちばかりを重視してしまいやすくなる。そうすると相手との温度差でうまくいかないことも多い。
無駄に告白をするようなミスを犯さないだけの冷静さもあるらしい。
「じゃあ、まずはどうしていきたい感じ?」
問いかけに、奈々は腕を組んで考えだした。彼女の考えがまとまるまで、話しかけずに待つ。
並んだまま、無言で歩いた。
午前中の下校は久しぶりだ。この独特の空気感が、コウキは好きだ。
普段の夕方の下校時の、歩行者も自動車も帰宅を急ぐような慌ただしさと、日が落ちていく侘しさのようなものも嫌いではない。だが、この昼の時間帯の車や歩行者が行き交う喧噪も、悪くない。
滅多にない時間帯での下校という特別感も、心をくすぐってくる。
学校の周囲に植えられた桜の木が花を咲かせていて、景色がぐっと華やいで見える。
春と言えば、やはり桜だろう。
早帰りと春の陽気とが合わさって、今日は良い下校日和だ。
こどもの身体になってからというもの、心まで若返った気がする。大人になってから感じなくなった、ちょっとした空気感やにおい、雰囲気といったものが、また感じられるようになっている。
社会の波にのまれて鈍くなっていた心が、些細な事で弾んだり落ち込んだり、せわしなく動き回るようになっている。こどもの頃は、小さい出来事で一喜一憂できる豊かな心を持っていたのだと、こういう何でもない時に、ふと思い出されたりする。
これも、過去に戻ってきて良かったと思えることの一つだった。
大人になれば、ちょっとしたことでは動じなくなる。それは社会で生きていくためには必要な力ではあるが、失うものも多い。
こどもの気持ちのまま大人になれたら、と考えたことのある大人も大勢いるだろう。
失ってしまったからこそ、大人はそれをもう一度感じたくて、こども時代を懐かしんだり、かつて親しんだ物に、もう一度触れたくなったりするのかもしれない。
「……拓也君に、それとな~く私の気持ちに気づいてもらう、とかかな」
奈々がぽつりと呟いた。
思考を隅に追いやって、奈々との会話に意識を戻す。
「多分、拓也君って女の子に好かれてるって、全く気付いてないよね」
「うん」
「だから、実は好かれてるんだって気づいたら、意識するようにならないかな?」
可能性はなくはない。
そもそも拓也は恋とか好きとか、そういう甘い経験が一切無いから、その良さも知らないのだろう。
好きな相手にドキドキしたり、その子のことを考えて胸が痛くなったりという経験をすれば、拓也も恋愛に興味を持つようになるかもしれない。
「良い考えかもね」
「でしょっ!? 問題はどうやって気づいてもらうかなんだけど……」
それよりも、拓也の相手が奈々で良いのだろうか、とコウキは思った。そちらの方が、気になる。
奈々は、コウキが過去に戻ってきてすぐの頃は、まだ他人をちょっと馬鹿にするようなところがある生意気な子だった。
今は相手を思いやる気持ちも持てるようになって、すごく良い子になっていると思う。話に聞いたところでは、一年生の時も二年生の時も、クラスを引っ張っていくリーダーとして慕われていたらしい。良い方向へ変わってくれていて、この子なら問題ないだろうと思える。
だが、拓也はどうなのか。重要なのはそこだろう。
拓也も奈々のことを悪く思っていないのなら、二人が結ばれる為に協力しても良い。そうでないのなら、コウキが勝手に手を貸すのは、拓也にとって良い事ではないだろう。
まずはそこから確かめたほうが良いかもしれない。
「じゃ、一回俺がそれとなく拓也に探りを入れてみるから。もし拓也が奈々さんのことを悪いように思ってない感じだったら、俺も協力するよ。それでどう?」
「ほんと!? それでいい! ありがとう、よろしくね!」
嬉しそうに笑って、奈々がコウキの腕に触れてきた。
今日一日だけですでに気になっていたが、奈々はボディタッチの多い子だ。男の子にも女の子にも、構わず触れている。
中には勘違いして、奈々に気を持ってしまう男の子もいたりするだろう。
「奈々さんって、ボディタッチ多めだけど、拓也にも良くするの?」
尋ねると、奈々は慌てて首と手を横に振った。
「無理無理! 緊張して触れないって!」
顔を赤くして、ぱたぱたと手で仰いでいる。奈々は、本当に表情も態度もころころと変わる。感情表現が豊かだ。
男子に人気になるのもうなずける。ボディタッチのようなスキンシップが多いのも理由としてあると思うが、素直な子は、好かれやすい。
「他の子は特に意識してないんだけど……」
「でもさ、俺とか何でもない子にボディタッチするより、拓也にボディタッチしたほうが良いと思うけど。拓也なら嫌がらないだろうし。触れる回数が増えたら意識もしてくれるようになるんじゃない。逆にそういう事しないから拓也に意識されないのかも」
「あ、なるほど……」
ぽんっ、と手を打って、奈々が感心したように頷く。
立ち止まって、笑いながらこちらを指さしてきた。
「さすが、恋愛マスター・三木!」
思わず、こけそうになった。
「なっ、何その名前!?」
「ぴったりでしょ! 三木君に相談に乗ってもらってくっついたカップル多いって噂、聞いたよ!」
「は、はあっ!?」
「だから、恋愛マスター」
「ネーミングセンス無さすぎだって!」
言ってしまって、しまった、と思った。
奈々の拳が、コウキの腹を打った。




