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一目惚れの恋  作者: 京花
2/2

後編


それからは別の店員が案内してくれた。

結局、それ以降彼女を見ることはなかった。


「白井さん、元気ないですね」

松永の言葉で不意に我に帰った。気付けば喫茶店を後にした帰り道だった。無論自分が飲んだコーヒーの味さえ覚えていない。

「白井さんなんだかずーっと店内をキョロキョロしちゃって。僕の話聞いてました?」

「ごめん。ほぼ聞いてなかった」

もー、ひどいなぁと相変わらず大きな声とリアクションで松永は反応した。

「もしかしてあの店員さんに惚れちゃったんですか?」

「バッ、ちげーよ!」

松永は必要以上ににやつく。

「白井さんて意外と分かりやすいんですね。でも驚きました。まさかあの喫茶店に彼女が働いていたなんて」

「ちょっと待て、彼女と知り合いなのか?」

「ええ。と言っても医者と患者の仲ですが。それよりもっと聞かせて下さいよ!彼女のどんなところが好きなんですか!」

「なんでもいいだろ」

「いいじゃないですか!恋話は僕好きなんですよ!」

松永は今まで以上にぐいぐい来る。こいつほんとしつこいな。根負けして少しだけ話すことにした。

「実は彼女のことを見たことがある。それも夢で。それからなんだか目を閉じても彼女の姿が目から離れないというか。もしかしてこれが運命の恋なのかも…」

と、ここで自分がとんでもないことを発言していることに気づいた。相手は松永だ。きっと明日病院でみんなにべらべら話すに違いない。失敗した。

しかし松永の反応は俺の予想とは異なっていた。

「白井さん、明日も診察に来てもらっていいですか?」

松永のいつにもなく真剣な顔で驚いた。

「どうしたんだ急に」

「僕の思い過ごしかもしれませんが、お伝えしておきたいことがあります」

松永の真剣な対応に合わせこちらも真面目に答える。

「わかった」

「ありがとうございます。じゃあ僕は調べ物があるのでここで失礼します」

そういうと松永は足早に去っていった。

なんだか今日はいろいろなことがありすぎた。彼女と突如会ってしまうし、松永は変だし。本来の予定であった職業案内所に行くのはやめて帰宅することにした。



その夜夢に彼女が現れた。

場所は今日訪れた喫茶店だ。俺の気持ちとは裏腹にずいずいと店内に足を進める。あまり気が進まなかった。昼間彼女に素っ気なくされたことをが気がかりだったのだ。

だけど違った。彼女は暖かい笑顔で迎え入れてくれた。その笑顔はとても眩しくて、俺の不安などすべて拭い去ってくれた。



翌日、約束通り診察を受けに病院に来ていた。

順番を待ち診察室に入ると松永はいた。今日はめずはしく看護師の付き添いはない。

「白井さん、待ってましたよ」

「よろしくお願いします」

「目の具合はいかがですか?痛みとか違和感とかありますか?」

「いや、大丈夫」

「そうですか、それでは本題に入ります。細胞記憶・セルメモリーって聞いたことありませんか?」

「セルメモリー?いや、聞いたことないな」

「ではこういうのはどうですか?臓器移植によってドナーの記憶が移ったと」

「ありえない。だって俺が移植したのは目玉だけだ!脳なんて全然いじってすらいないのに」

「ありえるんですよ!実際今まで多くの方が臓器移植を受けていますが、約2割の方が術後なにかしらの変化を感じています。中には性格が変わったという例もあるほどです」

「じゃあ俺が見ているのは」

「たぶんドナーが昔彼女と過ごした記憶の一部だと思います。もちろん、医学的に証明できるわけではありませんが」

「なら俺に彼女を紹介してくれ!直接彼女に」

松永は首を横に振る。

「それはできません。医師としてドナーの個人情報は守らなくてはなりません」

「そうか、それなら仕方ないな」

「白井さん。今日私が伝えたかったのは、白井さんの目に焼き付いている彼女は"今の彼女じゃない"ということです」

理解できなかった。

「それはどういう意味だ」

「率直に言います。彼女は諦めてください」

「どうしてそんなことを言われなくてはいけないのだ」

「白井さんのドナーとなった男性と彼女は交際関係にありました。亡くなったとき彼女はすぐ近くにいたのです。そのショックから彼女は精神を病んでしまい、最近よくなり社会復帰を果たしたところだったんです。私も彼女があそこの喫茶店で働いていたと知っていたら」

「そうか、わかった」

「白井さん!彼女のことはそっとしておいてあげてください!」

「わかってる!俺だって彼女を傷付けるつもりはない!」

松永に背を向けると足早に診察室を出る。

確かに松永の言うとおりだ。彼女が俺の目をみて辛い出来事を思い出すかもしれない。でも、それでも俺は彼女ともう一度会いたい。


俺の体は自然と喫茶店へ向かっていた。

外から喫茶店の中を覗くと夕方ということもあってか客は少なく感じた。それに、彼女の姿はなかった。

と、店の中で手招きをする細目の女性店員が見えた。

自分を指差すと店員は頷く。

しぶしぶ店内に足を踏み入れると店員は話しかけて来た。

「やっぱり!昨日店に来た人だよね?」

何故か妙になれなれしい店員の態度に押されつつも問い返す。

「なんで俺を」

俺の問いに答えずにじろじろと人の顔をのぞいて来る。あまり女性慣れしていないせいか少し恥ずかしくなり顔をそらす。

「何ですか!?」

「あー、やっぱりだ」

「だから、何なんですか!」

「キミの瞳が麗矢くんにそっくりだからさ」

「麗矢?」

聞き覚えのない名前だ。

「そ、彼女の元彼。事故で死んじゃったけどね。そのショックで休んでたんだけど最近は元気になってきたからって昨日出てきたばんだけど。またしばらく出てこないかも」

「そう、ですか」

やはり彼女は俺の目を見て逃げていったのか。

罪悪感…彼女に辛い事を思い出させてしまったかもしれない。

でも、ここで諦めるわけにはいかない。ここで辞めたら彼女はずっと心を閉ざしたままだ。

「あの!」

女性店員は俺の大声ですこし驚いた様子のあと、人差し指を口元に当てて静かにと伝えて来る。

たしかに店内に他のお客さんがいた事を忘れていた。

「よければ教えてくれませんか?彼女の事故のこと」

「その前にひとつ聞かせて」

店員は俺に向き直ると真剣な顔で質問する。

「キミが彼女のことを気になっているのはただの好奇心?」

「違います。…いや、たしかに最初は好奇心でした。でもこの右目が俺に彼女の姿を見せるんです。俺がみている彼女の姿は幻だとわかっています。でも、現実の彼女は悲しい表情のまま。俺は彼女には笑ってて欲しい。俺が見たままの彼女でいてほしいんだ」

店員の頬が緩んだ気がした。

「なら私も応援する。私も彼女があのままだとお店が回らなくて困るからさ。それに、君どこか麗矢君に似てるかも」

「俺が、麗矢さんに?」

「外見とかじゃないよ?彼は君と違ってすごいイケメンだったし」

わかってはいたが、そこまで言うことはないだろう。

「中身っていうか。彼女に対して一生懸命なところ。麗矢君もひょっとしたらそんな君だから彼女、優奈の記憶を見せて伝えてるのかもしれないね」

そんなこと考えたこともなかった。麗矢さんが彼女を助けて欲しくて俺に彼女の姿を見せているのだとしたら、麗矢さんの為にも俺は彼女を救わなくてはいけない。

「彼女の名前は優奈。夏木優奈。明日は病院に行くと言っていたわ。そこであなたの思いを伝えてきなさい」

「俺も、そうしたい。でも、俺の目を見て彼女はまた体調を崩してしまうかも」

「あーもう!」

店員はガシガシと乱暴に自分の頭をかく。

「男だろ?『でも』とか『かも』とか言ってないでやると決めたならやれ!後悔はあとでしろ!」

なんだか店員の言葉に圧倒された。周りの客たちの視線が彼女に集まったのは言うまでもない。

「私だって優奈がこれ以上傷つくのは見たくないんだ」

彼女も心配なんだ。

「ありがとう。あなたのいう通りだ。俺は明日病院に行ってくる」

「礼を言うのはあたしの方さ。あたしじゃ優奈を助けてあげることはできないし、時間が解決してくれるのを待つしかなかった。でも、あんたは違う。頼んだよ」


翌日、俺は久しぶりに寝坊した。反省すべきは会社から解放されて時間の束縛が無くなっていた俺は毎日昼頃まで寝ていたのだ。そしてそれは生活習慣となり無事に今日も起きたのは10時過ぎだった。

急いで着替えを済ませてタクシーを拾い病院に向かう。もし、彼女がすでに診察を終えて帰ってしまっていたら。いやいや、まだ間に合う。そう自分に言い聞かせた。


結局病院に着いたのは11時過ぎ。午前の診療ピークも少し落ち着いてきたところだ。ロビーを見渡すが彼女の姿は見えない。午後の診察に来る可能性もある。待合室の椅子に座り、気持ちを落ち着かせる。

ここで注意する事、それは松永だ。松永に見つかればきっと詮索されるに違いない。それに松永は声がでかいから嫌でも目立ってしまう。彼女に見つかったら以前のようにきっと逃げてしまう。

待合室で1人になるといろいろ考えてしまう。今日は勢いに任せて来てしまったけど、実際彼女に会ったら何を話せばいいか分からない。不安な気持ちになってきた。

と、その時。

「夏木さん」

受付の看護師が彼女の名を呼ぶのが聞こえた。

そして受付へ向かう1人の女性。彼女だ!どうして気づかなかったんだろう?

俺は立ち上がり彼女の元へ向かう。彼女は看護師から処方箋を貰うと出口へ向けて歩き始めた。

「待ってください!」

俺は病院であることも気にせず大きな声を上げた。気付いた彼女が振り返る。彼女だけじゃなく俺を見たのは病院にいる殆どの人たちだ。

恥ずかしい気持ちをぐっと抑え彼女を見つめる。


彼女は俺の顔を見ると驚く顔をして足早に出口へ向けて走り出す。

「待って、待ってください!」

俺も走り彼女の後を追う。

彼女が出口へたどり着いたが自動ドアはガタガタと音を立てるだけでなかなか開かない。

「逃げないでください!麗也さんから、逃げないでください!」

自動ドアはやっと開いたが彼女は立ち止まったままだ。

「…逃げてなんか、ない」

彼女の声は弱々しかった。でも、はっきりと聞こえた。

「俺は以前の、あなたに戻って欲しいから」

彼女は振り向く、その顔は不安とか恐怖とかいろいろな感情がいりまじったような。

「以前のって、貴方は私の何を知っているっていうんですか!?何も知らないくせに勝手なことを」

「知ってます!この右目が教えてれました!だから」

と、突然背後から押し倒された。見ると松永だった。

「白井さん!彼女については言ったはずです!なのにどうして!」

「俺は彼女を助けたかった。ただそれだけだ」

「それは貴方のエゴでしかない!彼女には時間が必要なんです!貴方の一方的な気持ちを押しつけても彼女を傷つけるだけだと、分からないんですか!?」

確かに松永の言う通りだ。俺は何一つ彼女の気持ちを考えていない。でも、それならなぜ麗也さんの目は俺に彼女の姿を見せる。昔の彼女の姿を俺に見せた。

「きっとみんなわかってるはずだ。このままじゃ、ダメだって。俺は悪者になってもいい。彼女に嫌われてもいい。ただ、あの頃の笑顔の君に戻ってほしい」

松永の言う通り時間が解決してくれることもある。でもそれじゃあ彼女の心の隙間は埋まるのか?麗也さんを失った彼女の悲しみは癒えるのか?ここで伝えないと。

「麗也さんの目を移植してもらってから、俺は夢で君のことをみる。瞼を閉じただけで君の姿がはっきりと見える。俺の目には君の姿が焼き付いてるんだ!麗也さんが俺に何を伝えたかったのかは知らない。でも俺は笑顔の君が好きだ!また前みたいに笑ってほしい。ただ、それだけなんだ」

一瞬の静寂ののち


「可笑しな人」

すこしだけ彼女が笑った。




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