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木の根に躓き、草の上に突っ伏す。
教義の違いからか、アルリネットの信徒が大陸で誤解を受けていることは、島を出てからこれまでにも嫌と言うほど思い知らされてきていた。だが、信頼していた人に罵倒されるのは、やはり辛い。突っ伏したまま、セティは大声で泣いた。
ソセアルの民が、どこにも居ない。ヴァリスのこの言葉にも、セティの心は酷く傷ついていた。ヴァリスがセティ達に何か隠していることは、薄々感付いてはいた。だが、そんな重要なことを、隠していたとは。セティのヴァリスへの不信感は、かなりの強さになっていた。
と。
「足が見えてる」
ハルの声に、驚いて顔を上げる。
「スーヴァルドの神官なら、すぐに逃げるな」
捲り上がっていたローブを整える為に慌てて起き上がると、ハルがにっと笑っているのが見えた。
ジェイに探してくれと頼まれた。そう言いながら、ハルは急ぐでもなくセティの横に腰を下ろす。
「そう言えば、似てるよな、ソセアルとアルトティス」
そして不意に、ハルは全く別のことを口にした。
「どちらも、特殊な能力を持つと信じられている」
「そう言われているだけよ」
確かに、アルトティス島の住人も、かつては予言能力があると噂されていた。だが、現在、島の民にそのような力を持つ者はいない。セティ自身、アルリネット神から戴いた普通の魔力の他には何の力も無い、本当に普通の女の子だ。島で暮らす大人達にも、飛び抜けてずば抜けた力を持っている者は皆無。
「俺は、思うんだ。どんな形にしろ、外部の人間を受け入れたからこそ、アルトティスは存続している、ってね」
「あ……」
ハルの言葉に、セティの心に安堵感が広がる。大丈夫だ。何を言われても堂々としていればいい。
セティはハルにこくりと頷くと、立ち上がってローブに付いた泥を払った。