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10-1

「ティアの、容態は?」

 顔を合わせてすぐ、そう訊かれ、ハルは内心舌打ちをした。

 全く、何でこいつはティアのことしか頭に無いんだ。そう毒づくより前に、ハルはヴァリスの質問に答えた。……ヴァリスを怒らせても、こっちが不快になるだけだ。

「最悪の事態は脱したはずだ」

「はず、って」

 だが、答えても結果は同じであるようだ。そんなヴァリスをハルは苦々しく思った。しかし、ここで争ってはいけない。

「知るか。フェイがそう言ったんだ」

 母親の名を出して、何とか宥める。ハルのこの言葉に、ヴァリスは口をつぐんだ。だが、不満はありありと顔に出ている。

「分かった」

 怒ったような声でそう言うなり、ヴァリスはハルに背を向け、肩を怒らせてティアのいる塔の方へと向かった。

「……全く」

 ヴァリスが視界から消えたのを確認してから、再び毒づく。なぜヴァリスは、ティアのことしか考えないのだろう。唇を歪めたヴァリスの顔を思い浮かべ、そしてすぐにそれを脳裏から消し去る。ティアもティアだ。なぜあんな奴を庇ったりしたのだ。あんな攻撃など、ヴァリスなら簡単にいなせるはずだ。

「おそらく、四天王を封じようとしたのだろう」

 昨夜耳にした、フェイリルーナの呟きが、脳裏に響く。

「そして、そのことには成功した」

 ティアは、自分の心臓を使って、四天王の最後の一人を封じた。そしてその為に、のたうつような痛みに苦しんでいる。時間が必要だ。それが、フェイリルーナの見立て。

 とにかくこれで、スーヴァルドが創り出した眷属は全てティアの身体に封じた。それは、良いことだとハルも思う。残っているのは、諸悪の根源、スーヴァルド唯一人。だが、ティアの今の状態では、頑強かつ狡猾なスーヴァルドに戦いを挑むことなど、とてもできない。戦ったとしても、ティアがどうなるか。最悪の事態が脳裏に浮かび、ハルは慌てて首を横に振った。

 ティアのことがとても心配なのは、ハルにも分かる。だが、心配しないといけないことは、他にもある。例えば、姉リューシュリサのこと。ノイトトースの王であったハーサリッシュが亡くなったので、今はリサが王位に就いている。他に人がいなかったとはいえ、ハーサとスーヴァルドの所為で乱れたこの国を女手で治められるのか。ハルにはそのことが、ティアのことと同じくらい心配だった。勝ち気で、かつ失う悲しみを知っている姉だから、多分大臣や高官達と話し合って、スーヴァルド神殿の影響を排除した公平な政治を行うだろう。その予測が、唯一ハルを安心させる。

 母フェイリルーナのことも、気になる。フェイリルーナの魔力がずば抜けて高いことは、息子であるハルは勿論知っていた。だが、フェイリルーナがティアの叔母であったことは、知らなかった。ヴァリスと同じ色の髪を、持っていることも。

 ヴァリスは、一体何者なのだろうか? ふと、そんなことを考える。だがすぐに、ハルはその疑問を捨てた。

 生まれがどうであろうとも、ヴァリスはヴァリスだ。一本気で狭量なのに変わりはない。


 ……ヴァリスが自分の異父兄に当たるらしいという事実だけは、引っかかってはいたが。

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