乙女系逆ハー女子の場合
世の中は不条理だ、いつもそう思う。
私はいつも頑張っているのに報われない、今日も些細なミスでバイト先で怒られた。
「商品の値段を打ち間違えたくらいで、どうして始末書なんて書かなきゃいけないんだよ、高卒の分際で偉そうなんだよあの店長!」
私は大卒なのに我慢して、あの馬鹿そうな店長の下で働いてやっている、なのにあいつは感謝すらしない、こんなに頑張っている私の努力には一切触れず、女子高生バイトに妙に優しく話をするから余計に腹が立つ。
「あんな高校の頃から化粧をしてるようなビッチより、もっと私を褒めろっていうんだ!何が君の笑顔がお客様から評判だよだ!レジの早さなら私の方がはやいっつーの!」
私は能力が高いからレジ打ちなんて低レベルな仕事でも手を抜かずにやっている、なのであのビッチより早いから私のレジは列が出来る事は余り無い。
あのビッチはいつも袋詰めが遅く、余計な愛想を振りまいているので列が長くなっている、その煽りを受けて私の仕事も増えているから余計に腹が立つ。
「ほんっとリアルって女も男も糞だわ、もっと私に合うようないい男とか、私の事をちゃんと理解してくれる女友達が欲しい……」
私は帰りの道でスマホを取り出して、画面に浮かぶ青い鳥のアイコンを押す、そこに今日も仕事を頑張ったとコメントを書く、大学で同期だった奴らへの牽制をしておかないと見下されるからだ、就職の有利になると言われて入ったゼミで数人とアカウントを交換したせいで、あいつらは時々私のアカウントを覗きに来る。
大卒のくせに中小企業に入るのを選んだバカ共に、やむを得ず就職浪人した今の雌伏の状態をバカにされないように私は今、大企業でハケンの仕事をしていることにしている。
なのでなるべく意識の高いコメントや、おしゃれな写真を残して置かないとあいつらが私を馬鹿にするので、日々の偽装は欠かせない。
使えそうな奴の適当な呟きを利用してひと通りの偽装を施し、私は二次元のイケメンが書かれたアイコンをタッチする。
幻想の国のアリス・誘惑の学園という今私が一番ハマっているソシャゲの乙女ゲーだ、私に合うような素敵な王子様やクールな貴族、弟系の子犬男子、とにかく素敵な男子がいっぱいいる。
「はぁ~、今週のイベントのシナリオはどんなのかな?最近は糖度の高いイベントなかったし、イマイチライターが気合入ってないし、衣装も微妙なのが多いからそろそろ運営も本気出して欲しいわ……」
妄想が捗るような大型のイベントとか来ないと糖分不足で死にそう、リアルが糞な分やっぱ二次元で癒やされたいよ。
世の中のおとこって私みたいな意識の高い女を嫌う傾向があるのは知っている、男ってだけで上に立てるって勘違いしている馬鹿に用はないからちょうどいいけど、なかなか私に合うような素敵な男性に会うことが出来ない。
でも私は魅力的だから変な男に時々声を掛けられる、この前も声優イベントオフの帰りにこっちをチラチラ見るオタク臭い奴がいた、私に話しかけようとしていたので気持ち悪いから無視してやった。
それ以外にも、リーマンの汚いおっさんがゲームをやっている私に向かって話しかけたいのか、何度も舌打ちをしていた、男っていつまでもガキだからなんかやたらオラ付いた態度で来るから腹が立つ。
お前の舌打ちで折角耳が幸せになる素敵ボイスを聞き損ねたら一体どうしてくれるのかと、結構ムカついたからよく覚えている。
「本当にリアル男って糞だから困る、いっそ最近流行りの逆ハー系の乙女ゲー悪役転生とか出来ないかな―」
最近ネット小説なんかで流行っている悪役令嬢モノ、確かに乙女ゲーの主人公って女を武器にしすぎてて若干腹立つ時もあるし、悪役令嬢になって攻略対象とラブラブになるのっていいと思う、ネット小説の悪役令嬢系って、私みたいな性格が普通の女子が考えるような感じで共感がしやすいのもあると思う。
それに元から上級の貴族っていうのも勝ち組感があっていいと思う、悪役令嬢って気がつけば普通にいくらでもイベント回避だってできるし、元から攻略チャートも解ってるから破滅エンドだって避けるのは余裕だし、後はビッチに目移りした馬鹿な婚約者の王子にざまぁをすれいい。
「あ~、こんな高卒店長にバカにされてバイトなんてしたくない、女を武器にするようなバカしか雇わない大企業、人を見る目が腐ってるクソ人事しか居ないブラックな労働環境に居るくらいなら、いっそざまぁが出来る乙女ゲーの世界に行きたいわ~」
そんな叶わない事を喋りながら、スマホの画面に映る最愛キャラのイベントを片付ける、イベント進行の早い私に寄生虫がフレンド申請を飛ばして来てるのが目についた。
「あ~マジで寄生虫うぜー、こいつら自分でゲーム進めろよ!私より低レベが申請してくんなクソが」
寄生虫の申請を蹴って自分より高レベの人に申請を出す、このゲームは自分よりレベルの高い人か、しっかりイベントを進める様な奴しかフレになる理由がない、最近IN率の下がってきているフレンドや、自分よりレベルが低くて使えないフレは定期的に処分して、イベントを優位に進めるようにしておくのが正しいプレイスタイルだ。
私は優秀なので、こういう効率的なやり方を見つけたりするのが得意だが、同時に情報収集も欠かさない、今日も同志たちが集まる攻略サイトで情報を収集する。
最愛キャラの攻略や今回のイベント情報等を書かれている部分を覗いて新しい情報をゲットした後、私の考えた最高糖度の新作ショートストーリーを非公式攻略サイトに投下して、自分の最愛キャラの良さを布教する。
自分で書いてこういうのもあれだけど、やっぱり私は才能があるのだろう、最愛キャラが公式の設定がよりも生きてると思う、公式もこのショートストーリーを参考にしてもっといい話を作って欲しいわ、マジで。
「あ~私ってもしかしたら、小説家の才能とかライターの仕事の方が向いてるんかもな~、でもそういう仕事って安定性がないし、馬鹿なファンとかが煩そうだし、今みたいに趣味にした方がいいのかな?」
私は自分の多芸さに悩みながらコンビニに寄って買い物をする、普段は店で買物を済ませるからコンビニは深夜に何か食べたい時しか行かないけど、今はアリスのコラボやってるので特別だ。
「とりあえず五百円分買わないとチケットもらえんし、適当にお菓子を買っておこう」
シナリオが糖分不足だし、リアルで補充しておこう、女の子は何時でも甘いモノがほしいのよ?なんてな、やっぱストレス解消には甘いモノがいい、チョコを買っておこう。
「コイツが結構うまかったよな……、あ、新作でてんじゃん、こっちしようかな?あー悩むな……」
コンビニは店より商品が高いのであんまり無駄な買い物がしたくない、出来るだけきっちり五百円にして余計な出費を抑えたいので少しだけ悩む。
「あの、すいません」
私が悩んでいると、くたびれたスーツのおっさんが声を掛けてくる、うわーまたナンパ?マジ面倒だ、なんでおっさんは若い女と見ると直ぐに欲情するんだろう、本当に汚らわしい存在だ、吐き気がするわ。
「チッ、なんですか?いきなり声かけるとか失礼じゃないですか?」
私はおっさんを睨みつける、美人の怒った顔は怖いってよく言うけどあれは本当だ、だって私が睨むと大体の男はひるんでおとなしくなる、こういう時は自分が美人でよかったと思う。
「すいませんが、通してもらえないですか?」
どうやらナンパを諦めて逃げるつもりなのだろう、見え見えのウソに少し腹が立つ、通りたいなら他の通路だっていくらでもある、わざわざここを通る理由なんて無い、自分の小さなプライドを守るためにこんな見え見えの嘘をつくとか、ホンット下らないおっさんだわ。
でも、まぁ自分と私の格の違いを理解したのなら許してやろう、私は心が広いからな。
「チッ」
これ以上コイツが調子に乗らないように睨みつけてからレジに向かう、レジの店員は可愛い高校生の男の子だった。
なるべく丁寧に商品を出しやる、少し日に焼けた肌とサラサラの黒髪がかわいい彼、名札を見ると井上きゅんと言うらしい、君はあんな汚いおっさんになっちゃ駄目だからね?井上きゅん。
「お買い上げは550円になります」
にっこりと笑顔で応える井上きゅん、この子天使だわ―、リアルもこういう子が極稀に居るから侮れない、でも男は22過ぎて大企業に入ってないやつは糞だから、天使でいれるようにがんばってね?
心の中でエールを送り、支払いをする、普段は電子マネーで済ますけど、井上きゅんが可愛すぎるので今日は現金にしておこう、天使な井上きゅんに私の手に触れるチャンスを与えて上げよう。
「千円お預かりします、お釣りは450円です、レシートはご入用ですか?」
「うん」
両手で包み込むようにお釣りを渡す井上きゅん、ん~この思春期のオスが振りまく未熟な男の子感マジたまらんわ、遠慮がちにおねーさんの手を触ろうとか健気でたまらない、私の母性本能を刺激するとかマジで悪い子だわ。
「ありがとうございました、またよろしくおねがいします」
もう!またって、また私に触れたいとか、あの子可愛い顔に似合わず意外とケダモノなのね!ギャップ萌え狙ってるのかしら!でもおねーさんはコラボイベントの時しかこないんだゾ?でも、まぁ君がいい子だったからまた来てあげたげてもいいけどね。
さっきのおっさんはお断りだけど、井上きゅんみたいな可愛い子にナンパされるのは女子としては悪い気しないね、早く大きくなって大企業に入ったら答えてあげても良いかな?
あ、そういえばさっき掲示板に餌まいてやったの忘れてた、多分乞食どもが私のショートを見て絶賛してる頃だろう、確認だけしてやろう。
『ここは貴方の落書きを書くところではありません、運営に通報しました』
『私の最愛汚さないで!こんな事絶対言わない、一目見て悲しくなった』
『つか、コイツゲームやってんの?やってたら絶対こんな妄想ここに書かないわ』
『アンチじゃね?』
『これガチの基地外でしょ?』
『おい、おまえらそいつ触んな』
うわ、私の才能に嫉妬するのは仕方ないけど、こいつらレベル低すぎ、つか、通報とか相手にされるわけ無いのに何迷惑行為してんだよ、アラシ行為してるのお前たちだよ?そこら辺理解してる?
『アラシ乙、人の才能に嫉妬してるのはわかるけど、ここはそういう場所じゃないから』
多分こいつらには分からんだろうけど、一言だけ言ってやる、全く才能があるのも色々面倒だわ、女の嫉妬って本当に粘着質で気持ち悪い。
『うわ!本人降臨キター』
『だから基地外構ってちゃんに餌与えるなって』
『おい、お前の頭にブーメランささってるぞ』
『コメに恐ろしいほど狂気を感じる、これはガチ』
『最愛汚しは許せない、今直ぐタヒんで』
『アンチ乙、さっさと巣に帰れ』
ああやっぱりこいつらは私とは違う星に生きてるわ、これだ優しく言ってやったのに理解しないとか、まぁ雑魚がどれだけ吠えてもこれっぽちも痛くないしどうでもいいけどね。
『やった!削除されてる、基地外ざまぁ!』
『才能とか言ってたけど、今どんな気持ち?ねえどんな気持ち?』
『良かった、これで最愛汚されない、ありがとう管理人さん』
『管理人仕事はっやーい』
『また勝ってしまった、敗北を知りたい(ドヤァ』
『だから基地外煽るのやめろって、発狂して荒れるからマジやめて……』
はぁ?何やってくれてんの管理人!私のショート消してどうすんの!こいつらのアラシを消すのが仕事でしょ!お前の頭の中は脳味噌の代わりに白子でも詰まってんのか!
「ああああ!!!むかつくむかつくむかつくううううううう!」
こいつらのバカさ加減に我慢ができず、私は怒りの声を上げる周りの奴らがこっちを見るが関係ない、気分が悪い!早く帰って、最愛のボイスCDを聞いて癒やされるべきだ!
こんなに私が苛ついてるのに信号が変わらないことにムカつく、どうせ車も来てないし渡ってやる!
「おい!危ないぞ!」
さっきのコンビニのおっさんが私に声を掛ける、あいつストーカーだったのか気持ち悪い、今足を止めたらあいつにレイプされるに違いない、早く逃げないと!私の初めてがこんな汚いおっさんのレイプとか許せない!
私はインドア派だからムダに長いこの道路がムカつく、なんでこんなに長いんだ、歩行者優先じゃないのがムカつく、掲示板の奴らもムカつく!私をレイプしようしているおっさんもムカつく!みんな死ねばいい!
「トラックが来てるぞ!避けろおおおおおお!」
おっさんの汚い叫び声が聞こえたと思ったら、眩しい光で目が見えなくなって、身体になんかすごい衝撃が来て、そのまま辺りが真っ暗になってしまった。