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転生トラックの都市伝説

 広大なネットの海には様々な噂が浮かんで消える、それは殆どがデマだったり、取るに足らない都市伝説が殆どである。


 その一つ、最近若者を中心にインターネットサイトやSNSなど語られている噂がある、転生トラック事件と言う噂だ。


 事の始まりは、つい先日報道された交通事故が起点で、事件はいくつかの目撃証言や証拠映像などもあるが、解決の糸口すら見つかっていない。


 多くの不可解な現象が語られている事件であり、同日にそれぞれ違う地域で起きた二件の交通事故を纏めた噂話である。


 この二つの事件について、とあるネットサイトの利用者の中で真しやかに語られている噂が元になっている、詳細を順を追って説明していこうと思う。


 第一の事件の内容は、都心に家族と共に住んでいた少年(当時十七歳)が、両親が寝静まった深夜に暴行を加え家にあった現金数万円を持って逃走、少年に自宅廊下で暴行を受けた妹が警察へ通報し事件が発覚、彼は中学の頃から奇行や異常な行動が多く見られ、事件の数ヶ月前に当時通っていた高校で暴行事件を起こしたばかりだった。


 高校での暴行事件については父親が被害者への謝罪と、完治までの治療費とは別に数百万の示談金で和解が交わされたと、この事件を扱った週刊誌などで報道されている。


 そんな凶暴な少年が起こした事件とあって、警察が付近にパトカー数台の緊急配備を行い、辺りを捜索していた所、市民からトラックが少年を轢いて逃げていったと通報があった。


 辺りを捜索していた警察が駆けつけると、先程の暴行事件の被疑者と思われる少年がすでに死亡した状態で発見され、近隣にあった監視カメラの映像から少年は無灯火の自転車で赤信号の交差点に突っ込み、荷台に大きく『株式会社テンプ・レチート』と書かれているトラックに接触し、そのまま10m程先に飛ばされ死亡した事が確認された。


 一連の流れを捉えた監視カメラの映像は各種報道機関へと渡されたが、ナンバーは偽造ナンバーなのか該当するトラックは存在せず、『株式会社テンプ・レチート』という会社も登記がなく、大きな謎を呼ぶ事となる。


 その後、警察から発表された情報によると、事故現場には当然ある筈の接触したトラックの破片などの痕跡が一切発見されておらず、その点でも捜査が難航していると伝えられている。


 なぜ転生トラック事件と言われネットで噂になっているかの理由、それはこのトラックに書かれていた『株式会社テンプ・レチート』という言葉にある。


 これは若者向けネット小説投稿サイトで非常に多く使われている『テンプレチート』という設定を示す言葉と語感が良く似ており、設定の内容自体も冒頭で無能で愚かな少年やニート達がトラックに轢かれ死亡した後、主人公を哀れに思った神と出会い、何故か『チート』と呼ばれる最強の力を授けられて別の世界へと転生するというものだ、この様な物語は噂の元になった小説サイトに大量に存在する。


 事件の情報が報道されて数日、類似点と謎、同じ導入の多すぎるネット小説への皮肉から、ネットの片隅で転生トラック事件と語られるようになり、ネット小説サイトを利用する若年層の間で瞬く間に広がり、この呼名が定着した。


 第一の事件が発生した日の早朝、この名前を決定付ける第二の事件が起きた。


 神山村の国道で、フロントが大きく破損したスポーツカーを、パトカーで巡回中の警察官が発見、警察官が運転手へ職務質問を行った所、運転手の青年の受け答えと不審な態度に違和感を感じ、フロント部分を確認するとフロント部分に、作業着の一部と思われる血痕の付いた布の切れ端を発見した。


 詳しく事情を聞くため任意での同行を青年に確認しようとした所、運転手の青年は急発進を行い逃亡、数十メートル先で赤信号の交差点に突入しトラックと接触、スポーツカーに乗っていた青年は即死した。


 これだけなら事件の内容としては、ここまで大きく噂になることはなかっただろう。


 だがスポーツカーが接触したトラックも、第一の事件と同じ様に荷台に『株式会社テンプ・レチート』の社名が書かれていたと、追いかけていた警察官と信号待ちをしていた反対車線のドライバーが目撃している。


 証言にはさらに驚くべき言葉があった、彼等はトラックの運転席に誰も乗って居なかったと証言しているのだ、そして最初の事件でもトラックも映像で確認する限りドライバーの姿は全く映っていなかった。


 どちらの事件も周辺の監視カメラには該当するトラックは一切写っておらず、トラックの部品などは事故現場で一切発見されておらず、その後の足取りも消えている。


 まさに事故の直前に突然現れ、その後は突如として消えているのだ。


 二つの事件は同日に起こったものである、もしトラックが同一車両であれば、わずか三時間程度で都心から直線距離で三百㎞以上離れた神山村まで移動している事になる、だが神山村が高速が無い山中にあり都内から辿り着くには、かなりの無理をしてもトラックでは難しいと、我々の取材に協力してくれた現地をよく知るトラック運転手の男性は語っている。


 どう考えても謎としか言えない現象や証言、全くつかめないトラックの足取りなどから、事件は迷宮入りではないかと言われ、先程のネット小説投稿サイトで多く語られるテンプレ世界に彼らが連れて行かれたと噂されるようになった。

 

 一部の熱心なネット小説マニアの中には、この事件を異世界への転生方法だと信じ、ネット小説に現実が追いついたと、喜ぶ発言まで出てくる事に驚き隠すことが出来ない。


 この噂を鵜呑みにし、道路を走行するトラックの前に飛び込み自殺を図る人物が急増している、主に中高生が中心だと確認されているが、中にはニートや中年の姿も見られるという。


 保護された人々は口をそろえた様に『転生トラックに轢かれチートになりたかった』と、供述しているのが、ネットの闇を象徴しているようだった。


 『株式会社テンプ・レチート』と書かれたトラックに、自らが轢かれる事を夢見て語る若者達の熱狂ぶりは歪であり、ネット小説の行き過ぎた努力の放棄と短絡思考に深い闇と不快感を感じた。


 願わくば一刻も早く事件が解決し、このような下らないネットの都市伝説が消滅する事を願わずにいられない。


旭日新聞 朝刊コラム「ネットで語られる転生トラックという都市伝説」より抜粋

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