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乙女系逆ハー女子の場合その3

 私の名前はエレーラ、ガランデール王国の第三王女にして聖華騎士団の団長を務める高貴なる者、その誇りを胸に私は生きてきた。


 だが昨日、その誇りを異世界から来た平民、カミヤマシュウゴという冴えない男に衆目の前で辱められた……。


 私はこちらから名を名乗り、平民ごときに礼を尽くしてやったのに、奴は自分の情婦であるレーミクが私に負けることを恐れて、私と奴の再戦を拒んだ上、宴席で私を叱責し扱き下ろした!


 そこには幼い頃からの私の師匠であり、私が密かにお慕いする想い人のフーホウ卿のお姿もあったのにだ!本当に許せない……、こんな屈辱はレーミクに敗れたあの日以来だ……。


 レーミク……、あのフーホウ卿の実の娘で巫女の位を頂く女、……、呪への兵器でしか無い癖に私のほしいものを全部持っているあの女が憎い!


 フーホウ卿の娘であることが妬ましい、女の身で呪と戦える事が不公平だ、稀人の腰巾着で情婦でしか無いのに民の尊敬を受ける姿に怒りを覚える!


 私達、聖華騎士団は名前も相まって城の飾り物のように扱われるのが納得が出来ない!男共より私達は強いんだ!


 フーホウ卿の指揮される大隊の一番の精鋭ガルムンズ中隊長にだって、私は三本に一本を取ったことがある!そのような者は男でも滅多と居ないと聞いている、だから私がレーミクなどに遅れを取るはずがない!


 あいつは不正をしたんだ!だからあの聖華騎士団と巫女の御前試合で私に汚い手を使ったに違いない!あんな父親に捨てられるような女だ、性根が腐った事くらい幾らでもやるだろう、宴席の時だって稀人に色目を送ってあの平民に媚を売っているの姿をこの眼で見ているからな、あの毒婦ならそんな人の道に反した事をやったとしても恥ずかしくもないのだろうさ!


 全てが可怪しい!なんで私がこんな不幸にならねばならん!なぜ父上は私とフーホウ卿の結婚を許してくださらない!


どうして神は、こんなにも努力をしている私の事を応援してくださらない!私はもっと幸せになりたい!いや!幸せになるべき筈なのだ!


 この状況は可怪しい!私が幸せで無いのは可怪しい!レーミクが認められるがオカシイ!


 私の願いを叶えてくれない神など要らない!だれでもいい!私を愛しいフーホウ様のお側に居れるようにしてくれ!


 そして、あのレーミクを打ち倒す力を与えてくれ!それが叶うなら私もう何も要らない!

 

『そっかー、じゃあボクが叶えてあげるねー』


「何者だ!」


 どこからともなく声が聞こえ、私は腰に吊るした剣を抜いて辺りを見わすと、窓の向こうのバルコニーに、一人の少年が浮かんでいた。


 その者は人間とは思えない程の美しい顔を持ち、白く輝く衣装に身を包み神々しい気配を纏った姿で、私に優しく微笑みかけていた。


『君の声が聞こえたから、可哀想になってボクはここに来たんだよ!ここを開けてくれないかな?』


「何を言っている?私は今何も言っていなかった!」


『違うよ!君が心の中で泣いている声が僕の所まで聞こえたのさ、その神を恨む様な慟哭がねー、だからここまで降りてこれたのさ―』


 まさか!私の心の声を聞いたというのか!?


『そうだよ、君の心の声が神であるボクの所まで届いたのさ!そんな君を哀れだと思って、ボクは君の望みを叶えに来たんだよ!』


「ああ……、私の願いは、私の望みは叶えられるのか……」


 神の言葉を聞いて私は胸いっぱいの嬉しさに涙を流す、私の努力は、私の思いは神に届いたのだ、こんなに嬉しい事はない。


 神を受け入れるために扉を開け、その神前に平伏す。


『ああ、そんな畏まらくなていいんだよ?ボクはそういうのは気にしないからさ、じゃあ君の願いを叶えるために君の命を貰おうか?』


 神がそう言って私の頭に触れた、その瞬間『ナニカ』が私の体中にねじ込まれた。


「あああああああああ!!!!!!」


 磨り潰し、押しつぶされて、私の全てを塗りつぶすような悍ましい感触が、私の体中を無遠慮に這いまわる。


『アハハハハハハ!!!君はとっても素敵な素体だよ!その妬みや劣等感、自分が優れていると感じているその傲慢!すべてが素晴らしい!ボクが選んだアリスも君の体によく馴染むと思うよ!きっとその居心地の良さを喜んでくれるはずだよ!!アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!』


 神が嬉しそうに何かを言っているが、私の耳には何かが蠢き這いずり回る音しか聞こえない、この気持ち悪さから逃れようと手を伸ばし奴の方へと伸ばしているが、自分の物ではないように全く言うことを聞かない。


『大丈夫だよ安心して?君はこれからボクの選んだアリスと一緒になるんだ、彼女が君の願いを叶えてくれるよ!ちゃあんとね?』

 

 私が、私の感覚が、私の視覚が、私の聴覚が、私の感情が、私の全てが消えていく、嫌だ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだああああああ!

 

『君の体を使って、数多世界の全ての理ニナ・ロウヲ=ヨモゥの大いなる意思に逆らう愚か者が作ったこの吹き溜まりの世界、終末を迎えるべき世界に愚かにも迷い込んだゴミみたいなあの男、奴が大事にする女共を皆殺しにしたら、きっとニナ・ロウヲ=ヨモゥは楽しんでザマァしてくれるはずさ!』


 ああ、もうなにも、見えない、何も聞こえない……、なにも……、感じ、ない……。


『ああ~楽しみだな~!あの男はどんな悲鳴を上げて、どんな無様な終末を見せてくれるのか楽しみで仕方ない!ボクの選んだアリスはどんなザマァを演じてくれるかな~?フヒヒャハハハハハハ!!!!!』


 私がワタシで居られた最後の一瞬、何かが見えた気がした。


 最後の記憶に残ったのは、狂気に満ちた顔で楽しそうに笑っている、カミの顔だった……。

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