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オマツリ奇譚  作者: 炬燵布団
第三章 夢と現
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第四十五話 集まり蠢く影

 時刻は深夜、もはや建物の原型すら残ってもいない荒れ地、一ヶ月ほど前に謎の爆発事故が起こった場所だ。警察の調べによると霊的術者による痕跡が発見されたが、直接的な原因はいまだわかっていない。


 そんな場所に複数の影が集まっていた。


 月明かりに照らされたその姿を、お世辞にも統率がとれているとはいえない集団だった。


 迷彩服を着たあきらかに堅気でない雰囲気をまとった一団、逆に戦いなど無縁に見えるスーツの壮年の男、若い女と着物の男、その二人の後ろに潜む異形……妖怪たち、そんな彼らに殺気のこもった視線を送る西欧系の少女。他にも数人の妖怪や人がまばらに集まっている。


 職業、年齢、性別、果ては人ですらない者たちが一堂に会している。それぞれが不信感や居心地の悪さから軽くざわめきが起こっており、その中で最初に口火を切ったのはスーツを着た中年の男だ。


「とりあえず確認しておくが、もしやここにいる者らはほとんどが初顔合わせなのか?」


 変わらずざわめき続ける彼らを睥睨しながら、それが答えだと確認した男は呆れたようにため息をついた。この様子だとそれぞれのまとめ役はともかく、この即興で集められた者らは目的以外、計画の詳しい段取りは聞かされていないだろう。


「しかも、よりにもよってここが集合場所とはいささか人が悪くないかね?」


 彼が疑問を抱いたのは、なぜこんな異様な面子が集まっているのかでも、計画の粗でもなく、よりにもよってどうしてここを選んだのかというバツの悪さである。

 彼こと東雲紫煙は少し前にこの街で独断専行を行い、自分たちの存在を公に知らしめてしまった。今現在ここにいる者の中で計画の足を引っ張ってしまっているのは、他でもない彼自身である。ゆえに下手をすればこの場で粛清されても文句を言えない立場である彼は、新参の者らを含め皆の心証をこれ以上は悪くしたくはないのだ。


 すると妖怪の群れの先頭に立つ男女の女の方、邪魅が彼の心情を察して、その上で彼を嘲笑う。


「あははははは! 紫煙さんが使っていた工房の一つだったっけ? 元々私らの集合場所に使う予定だったじゃん。なのに勝手に爆破しちゃうんだもん。酷い話だよねえ。ねえ、なーんで爆破しちゃったのかなあ? 私気になりまーす」


 ケラケラと笑いながら、こちらに向けて探る様な視線を向けてくる邪魅。彼女の発言につられて紫煙へ視線を向ける者も少なくない。当の紫煙は舌打ちをして語るつもりはないと言わんばかりに、彼らから目を逸らす。


「あれ? 無視するなて酷いなー。傷付いちゃうよぉ。もしかして触れられて欲しくないことでもあったのぉ? 良かったら相談に乗るよ? だって私たち仲間でしょ?」


 全て知っているくせに、皆の前で白々しく騒ぎ立てる邪魅に対して、紫煙はいい加減どうやってこの馬鹿を黙らせようかと考えていると、彼女の隣にいた男が静止させてくれた。


「そこまでにしとけよ、邪魅」


 そう言って制したのは邪魅のすぐ隣で瓦礫を椅子代わりにして座りこんでいる男だ。年齢は二十代後半から三十代前半で、着物を着た2メートルを超えた偉丈夫で、その長身と同じぐらいの大太刀を肩に掛けながら、顎の無精ひげを撫でている。


「オメーはいちいち人の神経を逆撫でしなきゃ話ができねえのか?」

「心外だなあ、キド君。私はただ場の空気を和やかにしたいだけだよぉ?」

「いや、おかげさまで険悪ムード一直線なんだが。紫煙のオッサン、今にも飛び掛かる寸前なんだが」


 そう言って男は立ち上がり、不貞腐れたようにだんまりを決め込む紫煙に詫びを入れる。


「すまなかったな、オッサン。こいつはこういう形でしか人と関われない奴なんだ」

「なに気にすることはない。もう馴れた。それと私はそこの女に苛立ちと殺意を抱いても、こんなあからさまな殺気は見せない」


 そこ違うのかと、キドと呼ばれた男はツッコミを入れようとしたら、紫煙は気まずそうに視線を向ける。正直もう一つの殺意の方にはだいぶ前から気付いていたが、あえて無視していた。なぜならそれに突っ込んでしまったら、それこそ命がいくつあっても足りないという事を、ここにいる者たち全員が知っていたからだ。


「落ち着けよ、嬢ちゃん。俺たちは今は敵じゃねえだろ?」

「抜かせ、妖怪め」


 そう答えたのは海外から来たという十代の少女、名はアリス。西洋での怪異討滅を活動とする聖騎士団の若きエースの一人と注目されていたらしいが、問題行動が多すぎるため、一年越しの謹慎処分を受けていたはずだが、どんな経緯を経たのかは知らないが、彼女は今ここにいる。


 正直、彼女の素性に興味はない。今一番重大なのは彼女が得物である二振りの戦斧を装備して、こちらに対して臨戦態勢をとっていることである。


「今後についての大事な話があると聞いて来てみれば、この様相だ。貴様らと交わす言葉などない。この街での仕事を終えたらと思ってていたが、ここまで雁首を揃えられていると、自制は無理そうだ」


 そういってアリスは笑う。普通なら可憐な美少女の笑顔のはずが、濃密な殺意によって、狩人の獰猛な笑みと化している。

 

 男と邪魅はともかく後ろに控えていた妖怪たちは、身を竦ませる。ここに集められた妖怪たちはそれなりの恐れ知らずの荒くれ者であったはずだが、彼らですらこの有り様だ。伊達に騎士と呼ばれてはいないということか。


 もっともこの程度の殺気、自分と隣の女にとってはそよ風程度のものだ。


「わぁ、熱烈だねぇ! 相変わらずアリスちゃんは可愛いなぁ! 特に人間ごときが私を殺せるなんて思ってるところがさぁ!」


 売り言葉に買い言葉。


 アリスとはまた違う、悪意と嘲弄に満ちた悪辣な笑みを浮かべる邪魅。

 

「よく吠えたな、害獣め」

「よく喚くじゃん、人間が」


 一触即発の空気が辺り一帯を支配したが、それらは一発の銃声でたやすく破られる。


「くだらない。ここで我々が為すのは仲間同士での内輪もめか?」


 上に向けて一発の弾丸を放った迷彩服の集団の先頭に立つ男は、つまらなさそうに断じた。


「やるなら全部終わった後でやれ。こちらの予定を狂わせるな」


 感情など微塵も感じさせない、どこまでも平静で事務的な野澤という男の言葉。それに気が削がれたのか、邪魅とアリスは身を引かせる。


「へーい、野澤さんは相変わらずカタいなあ」

「……」


 それら一連のやり取りをつまらなさそうに見ていた紫煙は、いち早くその気配に気付く。


「お出ましだ」


『……!!』


 その言葉に一早く反応したアリスは膝をついて跪いた。迷彩服の集団は静かに敬礼をして、邪魅や男は態度こそいつもと変わらないものの、それでもどこか気を張りつめた気配を感じさせている。実力も含めて一癖も二癖もある彼らですらこうなのだ。他の妖怪や人間は勿論、わかりやすいものなら怯えて動けなくなっている。


 その中で紫煙はやはりどこか面倒そうに現れた者に対し言葉を投げかける。


「遅いですよ。もう皆集まっていますよ?」

「あぁ、ゴメンね。少し道に迷っちゃってさ。みんなの方はちゃんと集まってるんだね。良かった良かった」


 気の抜けた返事を返しながら、その男は姿を現した。思想、素性、種族、全てがバラバラの者たちを、恐怖、カリスマ、金、あらゆる物で彼らを無理やりにひとまとめにしたその男。


「もしかしてケンカしてるんじゃないかと心配してたんだ。仲良くしてるようでなによりだ」


 威圧感とも違う独特の、それでいて濃密な気配を漂わせるその男は、顔の見えないフードを被るも、その下から覗かせる口元は屈託のない笑みを浮かべている。


「あんまりヤンチャしているならオシオキしなきゃいけなかったからさぁ」


 こともなげに言ったその言葉に、一部を除くその場に居合わせた者らは凍りついた。ここにいる皆は知っていたからだ。その男の言うオシオキの意味合いと彼の底知れぬ恐ろしさを。


「それじゃあ打ち合わせを始めようか」


 潮が引いたように静かになった配下の者らに対し、男は薄ら笑いを浮かべながら、まるで次の休日の予定を決めるような気軽さで目的を紡ぐ。


「この街をどうやって乗っ取るのかをさ」

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