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オマツリ奇譚  作者: 炬燵布団
第三章 夢と現
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第四十二話 愛の論争に正解はない

 それは新年が明けて、三学期に入ってしばらく経っての事だった。


「冬現祭……ですか?」


 初めて聞くワードをオウム返し」に答えながら、緋暮シズクがおにぎりを頬張る。それに対して友人である美羽と三華の二人は弁当箱の中身をつつきながら頷く。時刻は昼休み、シズクは美羽や三華と机をつなげて昼食をとる真っ最中であった。


 ちなみに拓郎の方は男子たちと集まって、購買のパンやジュースを片手に漫画雑誌を広げながら雑談している。あちらはあちらで何だか楽しそうであった。


「そうそう、この街は毎年祭りが二つあってね。一つは夏の縁日祭り、もう一つが冬に行われる冬現祭っていうやつ、だいたい毎年二月の初め、今年は来週の土日で行われるんだよね」

「まあ、元々はこの街ができるきっかけになった土地神様の鎮魂祭だったんだけどにゃ」


 その話はシズクも知っていた。人の争いに涙し、自分の命を絶って戦いを終わらせた土地神様。この街の誕生にまつわる幼子でも知っている有名な話だ。


「それなんだけどさ。 もし緋暮さんの予定が空いてれば……その、一緒に……」

「ええ、私なら大丈夫ですよ」


 快い返事をくれたシズクに美羽はどこか安堵したように肩を下がらせる。どうやら断られるのではないかと緊張していたらしい。

 この綾瀬美羽という少女、以前シズクを心配するあまり、彼女が怖がらせてしまったことを気に病んでいた。もっとも実際はシズクは別の事にショックを受けてしまっていたのだが。

 そんな彼女の様子を見て三華は『前の事をまだ気にしてるのかにゃ? やれやれだにゃ』とわざとらしく首を振り、美羽はそんな彼女の足をコツンと小突く。


「でも大丈夫なのかにゃあ?」

「何がです?」

「てっきりシズクちゃんなら拓郎君とかと一緒に回ると思ってたんだけどにゃあ」


 アホな男子のやっかみとは違う、それでいてある意味それよりもタチが悪い好奇心に満ちた三華の視線がシズクに向けられる。ある意味、下世話ともとれる発言であるが、当の三華は臆した様子はない。豪胆なのか、単なる無神経なのか。何にせよ、一歩踏み出せる彼女を美羽は少しだけ羨ましいと思ってしまう。

 一方のシズクはというと顔を赤らめるでも、言葉を濁すわけでもなく、平然としている。


「あー。……大丈夫ですよ。誤解されやすいですけど彼とはそういう関係じゃありませんので。そもそもこの祭事の事も今知ったんです」


 当然と言えば当然といった回答に、三華はどこか釈然としていない様子である。


「じゃあ向こうが先に誘って来たらOKしてた?」

「うーん。その時は皆で一緒に周ろうと提案していたでしょうねえ」

「なんだか面白みのない返答だにゃあ。もっと色々とさらけだしちゃっていいんにゃよ?」

「うふふふふ」

「いだだだ! シズクちゃん! 頬を引っ張らにゃいで!」


 笑顔で三華の頬を捻り上げるシズク。それを見て美羽は安堵する。思っていたよりも彼女はたくましくなっている。自分の心配など杞憂だったようだ。


「いや安堵してないで助けてにゃ!? 千切れる! これそろそろ千切れるぅ!」


 数分後。ようやく解放された猫耳娘は口が減った様子はなく、相変わらず祭りの話題を続けようとする。


「……そういえば夜に境内の方で朝間の巫女様が舞を披露する見たいにゃ」


 とりあえずこの猫がこれ以上は涙目で折檻されるのも見ていられないので美羽は乗ってやる事にする。


「そういえば去年は大学生のお姉さんが舞ってたけど、今年は隣のクラスの妹さんなんだよね」

「明日香さんですか?」

「あれ、知ってるの?」

「……ええ、まあ……以前お会いしたことがりまして」

「まぁ同じ学校ですぐ隣のクラスだし、この辺じゃ有名人だしにゃあ」


 三華の言うとおりだった。朝間神社の巫女、この街に置いて中立にして調停役。街の平穏を乱す者には使役する神獣と共に容赦なく神罰を下す巫女様。


 隣のクラスの委員長、朝間明日香には美羽も委員会の報告会議で何度か顔を合わせている。といっても本当に顔を合わせただけで言葉もロクに交わしておらず、下手すれば向こうはこちらの顔なんて覚えていないかもしれない。


「東雲っていう友達がいるって聞いたけど……」


 そこまで思い出して、ふと美羽は向こうの男子の群れに混じっている少年、夜帳拓郎に目を向けた。


 友達といえば確かその巫女様と彼は幼馴染と聞いた覚えがある。だが彼も中学まではそれなりに仲が良かったが、現在は疎遠になってしまったと聞いた。一体なぜなのだろうか、とそこまで考えて美羽は苦笑する。とんだ野次馬根性だ。これでは三華のことを言えない。


 とりあえず思考を落ち着かせようとしていると、男子の話し声が聞こえてくる。どうやら会話に夢中になり過ぎて声が大きくなっていることに気付かないようだ。お行儀は悪いと思いながらもついつい耳を傾けてしまう。


「だから俺はハーレムを否定してるわけじゃねえんだよ! ただ登場する女の子を手当たり次第に落とすのが気に入らねえだけだ! あと親友キャラは不可欠だよね?」

「バッカ! 主人公以外の男なんていらねえだろうが! 男の夢に不純物は不要!」

「でも、その結果終盤で作者が増えすぎたヒロインたちをさばき切れなくなってグダるんだろう? そのしわ寄せで主人公がクズ扱いされるのは嫌だよ、僕は」

「待て! グダるグダらないかはそもそも作品の終着点によるだろう。確かに複数のヒロインの中から本命を選ぶ純愛ラブコメとハーレム展開の相性は難しい。創作者の技量が問われ……」

「やっぱ一夫多妻制がある異世界モノが至高じゃね?」

「時代はイチャラブカップルだろうが!」

「やはり我々が語るべきはヒロインの数だ。ハーレムと称するからには三人以上、自分としては最大は六・七人とすべきだと思うが……」

「四十八人」

「いや、どこのアイドルグループだよ」

「もう全員主人公・ヒロインでいいじゃん。カップル群像劇にしようぜ」

「とりあえずロリヒロインの比率をあげなければなるまい。妹でも可!」


 美羽とシズク、三華。女子生徒三人を始めとした教室の女子全員が揃ってハイライトの失くした目で男子たちのその熱い欲望のぶつけ合いもとい語り合いを見守っていた。


 ウチのバカ共は。何が恐ろしいってこの会話に他のクラスの男子生徒はもちろん、明らかにウチの学校の生徒ではない妖怪も参加している事である。とりあえず熱心にヒロインの数は二ケタを提唱する河童とロリの素晴らしさについて熱く語ってる輪入道、今すぐ出てけ。


「とりあえず俺は一見スレンダーだけど出るとこ出てる年上のお姉さんとかがいいな」


 そして、とても聞き覚えのある少年の欲望全開の言葉にビキビキと笑顔のまま青筋を立てるシズク。


「あの人と一緒に祭を歩くのは嫌ですねえ……」

「なんかごめんにゃ? いやマジで」


 三華にしては珍しい心の底から謝罪。流石の彼女もしかして自分がストライクゾーンから外れてる事に腹立ったのか、などと恐ろしくて聞けなかった。そんな事を聞いたら、今度は頬どころの騒ぎではないだろう。





 拓郎は途中で買った揚げパンを頬張りながら、珍しく一人で帰路についていた。

 最近は家が同じこともあって、シズクと一緒に帰宅していたが、なぜか今日の彼女は凍るような笑顔で近寄りがたく。結局別々で帰ることになったのだ。


(……なんか心の距離的な物がすごく遠ざかった気がするぞ?)


 特に思い当たる事が浮かばない、拓郎。まさかシズクどころかクラス中の女子からの信頼関係がダダ下がりしているなどとは露知らず、鼻歌を歌いながらのん気に歩を進める。するとグニッと足の裏から妙な違和感を感じた。


 拓郎は視線を下に向けてソレを確認すると、恐る恐る足をどける。


 人がいた。大の字にうつ伏せになって倒れていた。


「大丈夫ですか……?」


 思い切り踏んづけてしまった罪悪感で顔を引き攣らせながらおそるおそる声をかける。

 拓郎は少しだけ間をおいて意識がないことを確認すると、とりあえず救急車を呼ぼうと携帯を取り出そうとするが、次の瞬間、倒れていた人間はがばっと顔だけ上げて拓郎の腕をつかむ。


「どわぁ!? 生き返った! いや良かったけど!」


 見れば拓郎とそう年は変わらない少女だった。紫がかった銀髪を肩辺りまで切り揃えており、修道服のような服装。どこか育ちの良いお嬢様のような印象である。それと倒れた彼女の後ろには、彼女の荷物と思しき大きめのボストンバッグが落ちている所を見るに、旅行者だろうか。


「……カ」

「え、なんだって!?」


 掠れた声で何かを言おうとしているが、よく聞き取れず、拓郎は神経を集中させて耳を澄ませる。


「オナカすいた……」

「……は?」

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