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オマツリ奇譚  作者: 炬燵布団
第二章 魔女と人魚
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第三十話 準備

 午前零時。

 皆が寝静まっている夜。実里は自宅であるアパートの一室の扉の前に到着すると、扉の鍵を開けてゆっくりと部屋の中に誰もいない事を確認して中に入る。


「人の気配なし、残留魔力もなし、術式の痕跡なし。……入ってきていいよ」

「はいはい」


 先行した実里にの手招きで続いて中に入る、翔吾。

 実里は蛍光灯をつけて照らされる六畳一間のその部屋は床は服や本が散乱して、台所には洗っていない食器がそのまま水につけてあった。


「酷い有り様だ。どうやら既に奴らが部屋を荒らし回っていった後のようだね」

「……ケンカ売ってんの?」


 彼女の生活態度がそのままに現れている部屋を、真面目な顔で盛大に勘違いしてシリアス考察する翔吾に、実里は殺気立った目で睨みつける。やはり護衛として連れてくるのは失敗だったかと思ったかと思ったが、帰る途中でまた奴らの襲撃にあう可能性もあったため、仕方のない事だと納得する。


「ところでアンタの仲間の同業者には連絡つけといたの?」

「ああ、ここに来る途中で連絡したよ。君にも通話してる所見せたろ?」


 確かに見たが、確かその時、この少年は『しばらく帰れないからゴメン』とその一言だけ言って一方的に切って電源もオフにしてしまったのだ。切られる直前に携帯の向こうでなにやら焦った女性の声が説明を求めていたような気がしたのだが、本当に大丈夫なのだろうか?


「本当に一人で手伝う気なんだ。そんなに腕に自信があるの?」

「いや正直、前の戦いで結構な深手を負っちゃってね。完治はしたものの前みたいな力は出せないんだよね。命を繋いだ代償かな? とにかく今の僕は常人よりも霊力が強いだけの人間だよ」

「そんな状態でこんな面倒事に首突っ込んでんの!?」


 実里は目の前の相手の正気を疑うが、当の本人は特に気にした風でもなく、それどころか微妙に誇らし気である。というか本当におかしいんじゃないだろうか、この男。


「さっきも言っただろ? 困ってる人に手を差し伸べるのは当然さ」


 あまりにも邪気が無さ過ぎて逆に胡散臭いと感じられる笑顔を向けられて、実里は逆にどう対応していいか困ってしまう。


「あのさ、だったら余計に仲間の手を借りた方がいいんじゃないの? むしろそっちの方が私としては助かるわけだけど?」

「いや、無理しないでいいよ。君だってこれ以上は退魔師の助けは借りたくはないだろう?」


 思わぬ不意打ちの言葉に、実里は声を詰まらせる。


 実里たち、魔女はその特異性に独特な術の行使と運用。それゆえに長い歴史の中で異端に対する畏怖と嫌悪の視線を注がれていた。

 実際に彼女らの術には死霊術、悪魔との交流、生贄を用意する術式といった黒魔術も多く存在したためか、白魔術を重点的に扱っている教会法術師……この国で言う退魔師と呼ばれる連中からも偏見と侮蔑の目で見られる始末だ。

 結果、ドルイドの派系であったはずの実里の祖先も邪悪な魔女と一括りにされて、西方の祖国を追われてしまい、この東方の島国に流れついたのだと祖母から教わった。


 そんな理由ゆえに実里個人としても退魔師だと嘯く翔吾に対してあまりいい印象は持っていない。現にこの国でも今だに魔女の系統を受け継ぐ者らは退魔師たちに酷い迫害を受けることが多いと聞く。

 百歩譲って、例え目の前の退魔師の少年が自分に対してそういった感情を抱いていないとしても、彼の仲間がそうでないとは言い切れないのだ。


 どちらにも言えることだが、疑念と偏見というものは簡単に拭えるものではない。


(……その上で、なんでコイツは私を助けようとしてくれるの?)


 今度は実里の中に新しい疑問が浮かぶが、彼女が考えている事を読み取ったのか。翔吾は相変わらずの笑顔をやや苦笑に変えて、嘘偽りなく思っていた事をもう一度口にする。


「だから何度も言ってるだろ? 人助けをするのは当然だって、それとも君に一目惚れしたからと言った方が納得できるかい?」

「キモい。ウザい。アンタみたいな胡散臭いのに好かれるとかマジありえないから、勘弁してくださいお願いしますお金あげるから許してください」

「そこまで拒絶されるとは思わなかったな。……僕だって傷付くんだよ?」


 零点下の視線を向けて容赦なく毒を吐く実里にさすがの翔吾も精神にダメージを負う。


「それでは今後の方針についてお話しますね?」

「なんで敬語!? 戻ってきて! さっきの距離感!」


 完全に狼狽する翔吾の様子に実里は少しだけ溜飲が下がる。それと、さっきまでの人間味が見えず、底の見えない笑顔が崩れて慌てふためいている彼の姿にようやく彼の人間性が見れた気がして、ほっとする。


「まあ、……信用は働きで証明するしかないか。それで僕は何をすればいいんだい? 弱体化しているけど、さっきのを見てくれた通り、あれくらいの相手ならいくらでも対処できるよ?」


 翔吾は僅かに恥ずかしそうに頬を掻きながら、実里に今後の行動指針を問うた。対して、実里は一転して不敵な笑みを浮かべてパシッと右手の拳で左の掌を当てて即答した。


「決まってるでしょ。今度はこっちから攻めるんだよ」


 その言葉にさすがの翔吾も目をぱちくりとさせて面を喰らったような顔をした。


 実里はあの後、人魚の少女を捜したが、結局合流する事ができなかった。彼女につけた気配消しの使い魔の小鳥に発信機の用途の術式も込めておけば良かったのだが、生憎と実里にあの時そこまできる余裕はなかった。

 陸での運動に慣れていない上に体力もないあの子ではそう遠くには行けないはずだ。一番高い可能性は既に捕えられているとう最悪のパターンだ。ならば必定、後顧の憂いを断つのもかねて、相手の大本を叩かせてもらう。


 そう決心を改めると、彼女はタンスほ引き出しの奥から、小瓶を一つ取り出して、窓際に置いてある木鉢、枝を一本折られた木が植えられた鉢に瓶の中に入っていた透明の液体を注ぐ。


「私があの男と戦っていた時の事を覚えてる?」

「ああ、猫パンツだったね」

「そっちじゃねえし! 忘れろ!」


 実里は蹴りをお見舞いしようとするも、翔吾はあっさりと躱して、そそくさと距離をとる。


「接ぎ木を足にぶっ刺してやったんだけど。これはその元木なんだよね」


 その言葉と共に木は光り出して、そこから淡く緑色に光る球が現れた。それは時たまに、人の形をしたり、蝶の形をしたり不定形に変化している。


「この木の精が接ぎ木……自分の体の一部に宿る私の魔力……アンタたちでいう霊力を追いかけてくれるってわけ」

「途中で引き抜かれていたら?」

「枝じゃなくて魔力って言ったでしょ? 刺した時点でアイツの中には私の魔力の残滓がこびりついている。そう簡単に拭えるもんじゃないよ」


 どこか自慢げに笑いながら鼻を鳴らす実里に対して、翔吾は光を見つめて感心したように頷くが、ふと疑問が頭に浮かぶ。


「いますぐ行くのかい?」

「当たり前じゃん。悪い?」

「準備は?」

「もうできてる」


 言うや否や、実里は種子を片手に小声で何かを唱えたと思うと、種子から蔦や葉が出てきたと思ったらそのまま彼女の痛めた右足の足首に巻きつく。どうやら包帯の代わりのようだ。

 実里は足が動けるようになったのを確認すると、次いで引き出しの奥から布の撒かれた長物を取り出して肩に担ぐ。

 淡々と準備をこなす彼女の姿に翔吾は少しだけ呆けていたが、プッと噴き出して肩に担いだ木刀をトントンと叩く。


「いいね。行動力のある子は嫌いじゃないよ」

「いや、何度も言うけどアンタみたいのに好かれるなんてゾッとするんだけど」

「いい加減泣きたくなってきたなあ……」

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